競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは前回に引き続き「シュヴァルツゴルトとドイツのSライン」について。
第二次大戦中のドイツで大活躍したシュヴァルツゴルト。歴史的名牝は13歳の若さで早逝したため2頭の牝馬しか残せませんでしたが、2頭の娘のうちシュヴァルツブラウロートが繁殖牝馬として成功し、「Sライン」と呼ばれるドイツ・シュレンダーハン牧場の名牝系を形成しました。
▼シェヘレザード
シュヴァルツブラウロートが1952年に産んだシェヘレザード(Scheherezade)は1969年に独1000ギニーと独オークスの牝馬二冠を制したシェーンブルン(Schonbrunn)を出しました。
シェーンブルンは繁殖牝馬としても活躍。娘セネカ(Seneca)の息子サガス(Sagace)は1984年の凱旋門賞、1985年のガネー賞とイスパーン賞を勝利。セネカの2歳下の妹サザンシーズ(Southern Seas)の孫には愛ダービー馬でコスモバルクの父でもあるザグレブがいます。
特に日本で有名なのが、同じくサザンシーズから4代を経た子孫で、C・ルメール騎手が乗って仏オークスやヴェルメイユ賞などを勝ったスタセリタの牝系。その1番仔サザンスターズは二冠牝馬スターズオンアースの母。2番仔ソウルスターリングは日本のオークスを制し、3番仔シェーングランツもアルテミスSを勝ちました。
▼ズライカ
一方、シェヘレザードの2歳下の全妹ズライカ(Suleika)から枝分かれした牝系も大成功。とりわけ日本で大きく発展しました。
まず、1961年生まれの娘サベラ(Sabera)は独オークスを優勝。その息子スタイヴァザント(Stuyvesant)は独ダービーと独セントレジャーのドイツクラシック二冠とミラノ大賞典を制し、日本の社台ファームで供用され産駒ブラウンビートルが新潟記念を勝ちました。
サベラの2歳下の妹セニッツァ(Senitza)の牝系からは、2016年の独オークス馬セリエンホルデ(Serienholde)が出てシュネルマイスターの母となりました。また、枝分かれした系統からもサロミナ(Salomina)が2012年の独オークスを優勝。引退後はノーザンファームで繁殖入りしました。サロミナの産駒たちは、サリオスが朝日杯FSなどを勝ったのをはじめ、サラキア、サフィラらきょうだいが次々と重賞を勝って大活躍しています。
また、セニッツァの2歳下の妹サヨナラ(Sayonara)の息子スリップアンカー(Slip Anchor)は1985年の英国ダービーを優勝し、この牝系が世界に拡大するきっかけになりました。
▼サンタルチアナ
そして、サヨナラの8歳下の妹で、ズライカ19歳の時の娘サンタルチアナ(Santa Luciana)の牝系も、日本で大成功しています。
サンタルチアナのアイルランド生まれの娘アグサンはカーリアンの仔を宿した状態で早田牧場に購入されました。この時お腹の中にいたのがビワハイジ。阪神3歳牝馬Sを勝つなどしたビワハイジは引退後に早田牧場で繁殖入りし、アドマイヤジャパンを産んだ後にノーザンファームに移譲されると、アドマイヤオーラ、ブエナビスタ、トーセンレーヴ、ジョワドヴィーヴル、サングレアルらを出しました。
同じ「Sライン」牝系の仏オークス馬スタセリタと同い年で日本のオークスなどGIを6勝した名牝ブエナビスタ。その1歳下の妹アーデルハイトは競走馬としては1戦未勝利に終わりましたが、孫のエンブロイダリーが今年、桜花賞を制しました。
一方、ビワハイジの母アグサンの3歳下の妹サトルチェンジは1996年に社台ファームが購入しました。その5番仔が、現役時代に2001年の菊花賞、有馬記念、2002年の天皇賞(春)を勝利したマンハッタンカフェです。その血は、テーオーケインズ、メイショウハリオ、テーオーロイヤル、ソウルラッシュ、タスティエーラらの母の父として、最近、大きな存在感を放っているのです。
日本の競走馬の活躍に大きな影響を与えているドイツ血統。その中でも大成功を収め、今も枝葉を広げている偉大なる名牝系「ドイツ・シュレンダーハン牧場のSライン」。その血の力と子孫たちの活躍を今後も注目していこうと思います。
▲ドイツ・シュレンダーハン牧場のSライン牝系図