小説『不夜城』や『少年と犬』などで知られる作家・馳星周さんによる競馬エッセイ『黄金旅程な週末』。
ステイゴールドとその一族の熱烈なファンである馳星周さんの奮闘振りをお楽しみください。
1月31日に愛犬が他界した。13歳という高齢だったが、まだまだ元気でしばらくは一緒にいられると思っていただけに、突然の死は衝撃が大きく、その週末はとても競馬を楽しむ気分ではなかった。そのため、先週はこのコラムもお休みをいただいた。申し訳ない。
いつまでも沈んでいては、天国の犬も悲しむだろうと、先週末は競馬を楽しむことに決めた。しかし、3月5日刊行予定の新刊『フェスタ』(集英社刊 ナカヤマフェスタ産駒で凱旋門賞制覇を目指す生産者、馬主、陣営を描いた群像劇です。乞うご期待)の書店プロモーション用のサインを330冊分書かねばならず、土曜日は競馬は断念。日曜から本格復帰を果たした。
まず狙ったのは京都1R、母父ステイゴールドのチョウゲンキとフェノーメノ産駒のバウンドトゥウィンが出走。当初はチョウゲンキを狙う予定だったが、馬体重20キロ増を知って取りやめ、初ダートでの一変を見込んでバウンドの複勝を。直線、なかなかの脚を見せて追い込んで来るも4着まで。悔しいがダートで新味を見せてくれた。いずれ、馬券にも絡んでくれるだろう。
小倉2R、母父オルフェのロードアルフィーネから人気薄のオキャンへのワイドを購入。どちらも見せ場なく終わった。
京都4R、母父オルフェのソーニャシュニクを狙うかどうか悩んだが、鞍上今村騎手で見送り。前走とは打って変わって果敢に逃げたが道中力尽きて馬群に沈む。
小倉5Rはゴルシ産駒のゴールドブレスが勝ち負け必至。同じくゴルシ産駒のホワイトシップはデビュー以来新潟と中山を使われて成績を残せていないが、どう考えたって小回り平坦のローカル向きここで狙わずいつ狙うと、ゴールドブレスに2番人気のブラックルチル、3着ホワイトシップの3連単1点で勝負。ホワイトシップは逃げの手に出たが、直線、後続に差されて5着まで。馬券は外れたがゴールドブレスは勝ったし、ローカルならもっと走れると思っていたホワイトシップの好走で満足。それにしても、ゴールドブレスはヤンキー気質だな。
京都5R、オルフェ産駒のホルガーダンスクから西村騎手騎乗の3番人気、ハワイアンティアレへの馬連ワイド。ハワイアンはきっちり勝ったがダンスク見せ場なし。松山騎手も一族とは相性が良くないわ。
東京5Rは一族が5頭出走。バロネッサの頭は固いとして、馬券に絡んでくれそうなのはゴルシ産駒のウインドラート。鞍上のキングスコート騎手がちょっと不安だが、バロネッサ、タンゴバイラリン、ウインドラートの3連単。バロネッサ快勝楽勝もドラートは14着。でも、バロネッサが勝ったから馬券外れても問題なし。
京都6Rは母父ステイのスペシャルキリシマとオルフェ産駒のジョセフィーナが出走。ジョセフィーナはデビュー以来減り続けている馬体重が気になったものの、2ハロンの距離延長はプラスになるはずなので、1、2番人気との3連複で勝負。ジョセフィーナはハナを切り、直線も伸びて後続を寄せつけずに快勝。単勝だったか~。逃げて上がり最速だもの、強かった。やっぱり、それまで走っていたマイルは短すぎると思ってたんだよ。人気馬もきっちり走って3連複1点勝負は19倍の配当。これで一気にプラスに転じた。
妻はもうすぐ誕生日を迎えるのだが、馬体重390キロに満たない小柄な牝馬の激走に、最高の誕生日プレゼントをもらったと目を潤ませていた。
小倉8R、母父ステイのバンボーレと、ハナを切りそうなインテンソとのワイド。読みどおりインテンソが逃げて勝利目前だったが内ラチに激突して競走中止。バンボーレもいいところなし。インテンソが無事で良かった。鞍上の川端騎手は大丈夫だろうか?
東京9Rも一族が4頭。妻お気に入りのキング騎手が乗るスミから一族に流したワイド。ゴルシ産駒三騎はだらしなかったが、ミカッテヨンデイイが踏ん張ったものの4着まで。得意の府中で復活のきっかけを掴んでくれたのならいいのだが。
京都10Rはオルフェ産駒二騎が出走したが、馬券内は難しいと見てケン。応援に徹する。やはり、厳しかった。
東京10R、ダートはどうかと思うものの、パドックの気配がよかったのでザイツィンガーの複勝。ドリジャ産駒も数が少ないので頑張って欲しい。ザイツィンガー、位置を取れず、じりじりと伸びて9着まで。仕方がない。
さあ、いよいよこの日の我が家メインの京都記念だ。数少ないステイ直子のアフリカンゴールドで勝負。なにせ、京都記念はほぼほぼ一族が馬券に絡むレースだし、一昨年はアフリカンゴールドとタガノディアマンテがワンツーを決めた。今年もやってくれるに違いない。
妻一推しのプラダリアとわたしが勝ち負けと見たベラジオオペラへのワイド。
バビットは最近の成績では好走は難しいかと思っていたのだが、パドックを見ると、毛艶がいい。これは復調気配かもと見てベラジオオペラとのワイドを購入。ナカヤマフェスタ産駒を取り上げた『フェスタ』がもうすぐ発売されるのだ。『フェスタ』で主役を張るサラブレッドはカムナビ。気性難の逃げ馬だ。もちろん、バビットをモデルにしている。バビットにも好走してもらおうじゃないか。
どうか、一族同士での逃げ争いだけはやめて、どっちかが逃げてどっちかが番手でいいんだからと祈りながら発走を待った。
ゲートが開き、最内枠のバビットがテンの速さを生かしてハナを切ろうかというところを、大外枠のアフリカンが強引に先頭を奪う。よし、ペースを落とせと思ったらまさかのハイペース逃げ。これでは最後までもたない。案の定、直線で失速した。頼むよ、国分恭介。
これで、我ら夫婦の夢も潰えたかと思ったのだが、内ラチ沿いをバビットが激走している。
妻と一緒に叫んだ。絶叫した。いやあ、なんでこんなに直線長いの? 最後の最後でプラダリアとベラジオに交わされたが、バビット粘って3着。ベラジオとのワイドは30倍超え。
これでこの日は大幅なプラス回収。それも嬉しいが、バビットの復活劇がもっと嬉しい。
早速、生産者の大北牧場さんに祝福のメールを送った。大北さんも、バビットの久々の激走に涙が止まらなかったそうだ。
一族が三勝、おまけにバビットの好走で、傷心の我ら夫婦もずいぶんと癒された。
来週、2月18日はわたしの誕生日だ。小倉大賞典のクリノプレミアム、マイネルファンロン、フェブラリーSのドゥラエレーデに誕生日プレゼントをもらえたら最高なのだが。わたしの記念すべき時にはなぜか一族が激走してくれる。直木賞をいただいたときは土日で8勝してくれたこともあるのだ。
頼むぞ、ステイゴールド一族よ!