小説『不夜城』や『少年と犬』などで知られる作家・馳星周さんによる競馬エッセイ『黄金旅程な週末』。ステイゴールドとその一族の熱烈なファンである著者の奮闘振りをお楽しみください。
▼新刊発売のお知らせ
馳星周さんの新刊『フェスタ』が3月5日(火)に発売となります。ナカヤマフェスタ産駒で凱旋門賞制覇を目指す生産者、馬主、陣営を描いた群像劇です。
じゃない砲という一部でのみ通じる言葉がある。あるレースに複数のステイゴールド一族が出走していて、馬券内は確実と思われた馬が飛び、さすがにこれはないかと思っていた人気薄の一族の方が激走するパターンを指す。
一族には実にこれが多く、SNSにおける一族ファンの間ではじゃない砲という言葉がすっかり定着しているのだ。
2月17日土曜日はこのじゃない砲が炸裂しまくり、頼みのヒュミドールもまさかの逃げに出て撃沈。馬券がかすりもしない一日となってしまった。
いいさ、それも競馬だ。しかし、2月18日はわたしの誕生日だ。一族も激走してくれるに違いない。土曜の負けは日曜に取り戻すのだ!!
そう意気込んで、日曜競馬を迎えた。
まずは東京2R、ダートの長距離戦。レインボーライン産駒のエルキーオとゴルシ産駒のハクシュが出走。ハクシュは5番人気に推されていたが、ダートだよ? 信用できなくね? ということで、エルキーオの複勝を摘まむ。とにかく、レインボーライン産駒に中央での初勝利を飾って欲しい(なら、単勝買えって話なのだが)。エルキーオ、頑張ったものの6着まで。しかし、芝よりダートの方が良さそうではある。引き続き頑張って欲しい。
小倉4R障害未勝利戦にはこれまたレインボーライン産駒のクリノクオンと、オーシャンブルー産駒のテイエムクロマルが参戦。クオンは1番人気。ここは勝ち負け確実と見て、クロマルとの馬連ワイド、さらに、人気薄の石神騎手騎乗のトーアモルペウスとのワイドも追加。
クオンは快勝したが、クロマル落馬、石神騎手の馬も6着まで。馬券は外れたが、レインボーライン産駒初勝利で夫婦で盛り上がる。クロマルも無事だった。
素敵な誕生日プレゼント、ありがとう!
東京4Rはゴルシ産駒のマイネルオーシャンが勝ち負けのはず。同じくゴルシ産駒のコスモカノアと母父ステイのサンタルチアはまだ厳しいか。妻は「どうしてディープの娘にゴルシなんかつけるのよ。走るわけないじゃない」と手厳しい(笑)。筋金入りのディープ嫌いなのだ。
ここは新馬戦で4着だった横山父騎乗のダノンタイムリーとの馬連で勝負。
オーシャンは直線で抜け出したが、一番人気のルメール騎乗馬に交わされてクビ差の2着。ほんとルメさん嫌いだわ。タイムリーも6着まで。
小倉5Rはゴルシ産駒3騎に母父ステイのウインボレロ。近況から馬券になりそうなのはウインボレロのみ。ボレロから一族とはゆかりの深いラフィアンのマイネルブラボーへのワイド。鞍上も丹内騎手だし。しかし、どちらも見せ場なく終わる。
東京6Rはゴルシ産駒2騎だが、このレースはケン。
京都6R、母父オルフェのメイプルタピットの馬券内は大いにありそう。一番人気田口騎手のロードフォアエースとの馬連。穴目のシーリュウシーとのワイド。妻はアフリカンゴールドで度々波乱を演出してきた国分恭介騎手のファンなのです。
メイプルタピットは直線、なんとか踏ん張って3着も、フォアエースは馬群に沈み、シーリュウシーは見せ場もない。
誕生日なのにこんなはずはないと、そろそろ焦りはじめる。
小倉7Rにも一族が4頭出走。母父ステイが2頭、ゴルシ産駒と母父オルフェが1頭ずつ。そのうちルクスマーベリックが強そう。鞍上丸山元気が大いに不安だが、マーベリックから一族3頭へ流したワイドを購入。
単勝12番人気のグレイトクラウンが直線抜け出して1着!! が、マーベリックは好位でレースを運んだものの失速して11着。じゃない砲炸裂。ワイド取れてたらかなり大きな配当だったのに。しかし、まあいい。一族が勝ったのだ。
これで本日2勝目。
京都7Rにも一族が4頭。ここはマイネルカンパーナから。他の3頭は激しく人気薄だが、この面子なら一発あってもおかしくはない。ということでカンパーナから一族3頭へ流したワイド。
和田竜、魂の騎乗で落馬の後の2連勝を決めてカンパーナ1着。同じくゴルシ産駒のペネトレイトゴーが3着に伸びてきて、本日初的中。配当は17倍なり。助かった~。
これで3勝目。やっぱり、おれの誕生日には一族が祝ってくれるのだ。後は大きな馬券を取るのみ。
東京7Rにはフェノーメノ産駒のアコークロー。府中ダート2100メートルではとにかく崩れない。が、勝ちきれない。なのに一番人気かよ。おまえら、ルメールが乗ったらなんでも勝つと思ってんじゃねえだろうな?
これまた数少なくなってきたフェノーメノ産駒に勝ってもらいたいのだが、勝つという自信が持てない。日和って2番人気のキングサーガ、妻が閃いたというトーホウボルツの3連複。
アコー出遅れて後方から。直線いつものように差してくるものの3着まで(涙)。しかし、妻の推し馬トーホウボルツが2着。おおお、3連複取ったかと思ったら、キングサーガがそれ4。戸崎、この野郎!!
いや、いつものようにワイドにしなかった我々が悪いのです。
小倉8Rはゴルシ産駒が3頭。キュンストラーは鞍上丸山元気なので1着は絶対にないと見て、エリダヌスからキュンストラーへの馬単。それから3頭の3連複。
丹内騎手のそつのない騎乗でエリダヌス1着もキュンストラーは5着。なんで大外ぶん回ししかできないの、丸山君?
小倉大賞典のマイネルファンロンにも丸山元気が乗るのだよ。単勝買いたかったけど、とてもじゃないけど買えないなあ。
これで本日4勝目。偶然にすぎないのだが、わたしの慶事には一族がよく走ってくれる。
小倉10Rは、母父ドリジャの2頭が出走もケン。
京都10R、母父ステイのロワンディシーが叩き2走目で一発やるかもと期待していたのだが、鞍上津村騎手と知ってケン。
東京10Rはマイネルモーントで勝負。オープンへ行くのはもちろん、重賞だって狙えるのではと期待している馬なのだ。一抹の不安は横山武史騎手の落馬負傷で鞍上がルメさんに乗り替わりになったこと。
普通のファンなら、自分の推し馬にルメさんが乗るとなったら大喜びだろう。だが、一族ファンは違うのだ。微妙に手が合わない。 もちろん、自他共に認める日本のトップジョッキーだし、大外枠だったラッキーライラックをGIで勝たせてくれたり、ステイフーリッシュを逃げさせて海外で勝ってくれたりと恩もある。しかし、一族にルメさんが乗ると、不安が胸をよぎるのだ。
馬券はフェスタ産駒のボーンジーニアスへのワイド。そして、一番人気レッドラディエンスへの馬単で勝負。
モーント出遅れ。やべえと思ったがそこはルメさん、道中、巧みに馬を誘導して3コーナーでは好位につける。直線に入って、さあ、追い出せとテレビに向かって叫んだが、ルメさん、一向に動かない。
「ルメさん、それじゃダメだよ。切れ脚勝負じゃ分が悪いんだから先に動かなきゃ!!」 ルメさんが追い出したが時既に遅し。レッドラディエンスには追いつけず、後ろから来たトーセンリョウにも差されての3着。
悔しい。武史がそのまま乗ってたら勝ち負けだったものを。
ほんと、ルメさん嫌い(苦笑)。
さて、小倉大賞典には前述のファンロンの他にオルフェ産駒のクリノプレミアムとイクスプロージョンが出走。3頭とも見事に人気がない。まあ、3頭とも乗り替わりになっちゃってるしなあ。ディープの庭だしなあ。それでもめげることなく、丹内騎手騎乗のロングランから3頭へのワイド。スタート直後、ホウオウアマゾンが落馬して空馬のまま走りはじめる。そのせいで、ハナを切ったセルバーグのひとりたび。直線に入る前に、この展開じゃ一族の出る幕はないと諦める。
クリノプレミアムが気を吐いたが6着まで。空馬にレースを壊されて辛い。
京都11Rはベルダーイメル。一発あるぞと気合いを入れていたら、おお、亀谷さんが推奨してるじゃないか。よし、小倉の借りを京都で返してもらおう。
馬券は1番、パラシュラーマとの馬連ワイド。が、スタート決まらず後方から。直線も伸びては来たが9着に終わってしまった。うむぅ。
フェブラリーSはもちろん、ドゥラエレーデ。距離が不安だが、手の合うムルザバエフが戻ってきたからには勝ち負けだろう。検討に検討を重ね、わたしが相手に選んだのはペプチドナイル。妻はセキフウ。ドゥラエレーデから2頭へのワイドで勝負!
ドゥラエレーデはスタートを決めて番手をダッシュ。しめしめと思ったのも束の間、ちょっとこれ、速すぎるんじゃないの?
不安は的中してドゥラエレーデは直線で馬群に沈んでしまった。1着ペプチド、3着セキフウ。縦目を押さえていたらワイドで万馬券だったのに。しかし、一族ファンたるもの、縦目は邪道だ。ここは潔く負けを認めよう。それに勝ったのは浦河の杵臼牧場生産馬。テイエムオペラオー以来のGI勝ちを素直に祝福してあげようじゃないか。ドゥラエレーデが勝ったホープフルSは、これまた杵臼さん生産のトップナイフとのハナ差決着だった。なんだか因縁めいたものを感じる。
せっかくの誕生日にこのままでは終われないと、東京12Rで最後の勝負。母父オルフェのストライクからエミサキホコルへのワイド。エミサキホコルは見事に勝ったものの、ストライクは5着。もうちょっと位置取れてたらなあ。
一族がわたしの誕生日を4勝という結果で寿いでくれたものの、馬券はワイドが一本しか取れず、バビットで儲けたお金をすべて吐き出す結果に。
まあいい、大事なのは我々の馬券ではなく、一族が勝つことなのだ。
人生も競馬も続いていく。どちらも楽しんだ者勝ちだ。これからも目一杯楽しんで行こう。