小説『不夜城』や『少年と犬』などで知られる作家・馳星周さんによる競馬エッセイ『黄金旅程な週末』。ステイゴールドとその一族の熱烈なファンである著者の奮闘振りをお楽しみください。
▼新刊発売のお知らせ
馳星周さんの新刊『フェスタ』が3月5日(火)に発売となります。ナカヤマフェスタ産駒で凱旋門賞制覇を目指す生産者、馬主、陣営を描いた群像劇です。
土曜日午前10時過ぎ、突然、テレビ画面がブラックアウトした。そして、<電波の受信状態がよくありません>の文字が現れた。
BS、CSすべてのチャンネルが壊滅状態。競馬中継もまったく見られない。
年に一度あるかないかの状況で、そのためにグリーンチャンネルWEBに登録するのも腹立たしい。
真夜中にサウジのレッドシーターフでアイアンバローズを、サウジカップでウシュバテソーロを応援しなければならないので、この日は競馬はお休みして夜に備えることにした。
どうせ、小倉の春麗ジャンプSと八代特別ぐらいしか勝負できそうなレースはなかったのだ。
後で結果を確かめると、春麗ジャンプSではニューツーリズムが3着、八代特別ではマリネロが1着と頑張ってくれていたが、当初買う予定だった馬券は外れていた。良かった、良かった。
仕事したり昼寝したりして昼間の時間を潰し、夜、万全の態勢でサウジのレースを迎えた。
レッドシーターフのアイアンバローズは直線で馬群に沈んでしまったが、まあ、よい。ちょっと敷居が高かった。
続いてサウジカップ。昼間たっぷり時間があったから、妻と一緒に死ぬほど予想に頭を使った。
もちろん、ウシュバテソーロを軸にした馬券を買うのだ。
妻は単勝しこたまか、馬単を買いたいようだったが、ドバイならそれでもいい。しかし、サウジのワンターン1800メートルは、どう考えたって適性外だ。ウシュバの強さを、いや、ステイゴールドの血が秘める人智を越えた力を信じてはいるが、それでも取りこぼしがないとは言えない。
馬連と、人気薄へのワイドで勝負しようということになった。幸いなことにホワイトアバリオとレモンポップが人気を吸ってくれている。ホワイトアバリオは強くないっしょ?
我ら夫婦は怪我での引退さえなければ、去年のフェブラリーSの覇者はギルデッドミラーだったはずだと固く信じている。レモンポップがダートの王者だと言われても困るのだ。それにチャンピオンズカップを逃げ切ったとはいえ、1800メートルは距離が長いはず。飛ぶだろう。
逃げ先行馬がずらりと並んだこのレース、前崩れの展開に違いない。ならば狙うべきはウシュバと同じように後方から差してくる馬だ。
そう考えてウシュバの相手として白羽の矢を立てたのはセニョールバスカドール。まずはこの2頭の馬連。続いては2頭軸の3連複と思ったのだが、先週、ワイドではなく3連複で勝負して馬券を外したことが頭をよぎった。ここは安全策でワイドで行こう。
ワイドの相手は前残りを狙う。妙味があるのはサウジクラウンか。なんでこんなに人気がないの? 結構強いと思うんだけど。
それから亀谷さん推奨のアイソレート、ナショナルトレジャー。ウシュバからこの3頭に流したワイドで勝負。
レースは想定どおり、ウシュバとバスカドールが最後方から。前掛かりのレースになっていく。ウシュバは内ラチ沿いから馬群を追走。最初の直線が長いから、やる気なく置いて行かれるかと思ったが、真面目に走っている。3コーナーから徐々に押し上げ、馬群を縫って直線では中団の位置から外へ。
妻と一緒に腹の底から叫んだ。ウシュバに声援を送った。裏の別荘に人が来ていたが知ったことか。
逃げ粘るサウジクラウンとの差を少しずつ確実に詰め、ゴール前、交わした、勝った!! と思ったら、外からバスカドールが飛んできて差された(号泣)。
悔しいが、ドバイで負けたわけじゃない。適性外のレースに挑んだ強者が、適性ドンピシャの強い馬にちょっとだけ後れを取ったのだ。よくここまで走ったとウシュバを讃えよう。馬券も取れたしね。
少し落ち着いてから、やっぱり3連複だったかとは思ったものの、いいの、いいの。豆券で楽しんでいるんだから、欲をかいたらバチが当たる。
馬連24倍、ワイド38倍。御の字です。昼間馬券買わなかったから、いつもより多めに押さえてたしね。
翌日曜日は午前の競馬を諦めて遅くまで爆睡。来年還暦の身としては、睡眠不足はとてもこたえるのだ。
この日最初の馬券購入レースは阪神5R。オルフェ産駒のミライテーラーが2番人気。母父オルフェのソーニャシュニクが8番人気。前走までは今村騎手が乗っていて成績が悪い。今回は岩田父に乗り替わり。絶好の今村リターンだ。ミライとソーニャのワイド1点勝負。あ、ミライテーラーの名前だけ見たら岩田望来に通じる。親子馬券でもあるじゃないか。
レースはミライが番手につけて直線抜けだし、余裕の勝利。ソーニャも好位からポジションを落とさず3着確保。さすが父! ダントツ1番人気の馬が飛んでワイドは20倍なり。少頭数なのにこんなにつくの? ありがたや~。
中山6Rは母父ステイのモーニングヤマトとゴルシ産駒のアイムフィアレス。モーニングヤマトの初ブリンカーに触手が動いたもののケン。どうも、わたしも妻もウシュバの応援で燃え尽きた感が強い。中々馬券を買おうという気が起こらないのだ。
モーニング出遅れ、フィアレスも見せ場なし。
小倉7Rは芝2600メートルのレース。一族の庭なら馬券を買う気にならないなどとは言っていられない。エルバルーチェからウインリュクスとギンノサジに流したワイド。3頭ともまったくいいところなし。
阪神9R松籟S、芝の3000メートル。メジロマックイーンの孫に当たるナイトインロンドンから一族へ流したワイド。ウインエアフォルクが末脚伸ばして3着に来るも、ロンドンが飛ぶ。
中山9Rデイジー賞はゴルシ産駒のウインデイジーが人気していたが、ちょっと坂が心配ということでケン。やはり、坂で伸びあぐねた。
小倉10Rはケン。
阪神10RマーガレットSは母父オルフェのナナオから、再びの岩田父、スピリットガイドとのワイド1点。ナナオ快勝、岩田父も3着確保でワイドは11倍。おお、PATの残高が増える一方ではないか。
小倉11R下関Sは母父オルフェのエコロレジーナと妻推しのピンクマクフィーとのワイド。レジーナは番手追走から直線抜け出たものの勝ち馬に差されて2着。ピンクマクフィーは着外。うーん、いつもならカンチェンジュンガとのワイド買ってるはずだが、燃え尽きてるから仕方がない。
阪急杯はケン。
中山記念はもちろん、ソーヴァリアントから。わたしが選んだ相手はジオグリフ。道悪だし、この2頭で決まりでしょと思ってたら、ソーヴァリ、まさかの馬体重大幅増。なにやってんだよ、大竹厩舎。ほんと信用ならんなあ。それでもステイゴールドの血を信じて馬券を買うのみ。
妻が選んだのはマテンロウスカイ。
ワイド2点勝負。
結果はご存知のようにまたも縦目。ソーヴァリやっぱ太いし、いつものように道中力んでしまった。転厩しないかなあ・・・・・・。
最後を締めるというわけにはいかなかったが、今週は大幅プラス。ウシュバは悔しいが、馬券的には大満足だった。
特に、ウシュバとサウジクラウンの馬券取れたのは亀谷さんのおかげだ。我ら夫婦は海外競馬での予想は亀谷さんに絶大な信頼を寄せている。ありがとうございます。でも、海外行ったときのステイゴールドの血を舐めたらあかんですよ(笑)。