小説『不夜城』や『少年と犬』などで知られる作家・馳星周さんによる競馬エッセイ『黄金旅程な週末』。ステイゴールドとその一族の熱烈なファンである著者の奮闘振りをお楽しみください。
▼新刊発売のお知らせ
馳星周さんの新刊『フェスタ』が3月5日に発売されました。ナカヤマフェスタ産駒で凱旋門賞制覇を目指す生産者、馬主、陣営を描いた群像劇です。
仕事が押しているので、土曜の競馬は基本、お休みすることにした。
ただひと鞍、中山8RのペガサスジャンプSだけは馬券を仕込むことに。一族のロスコフが人気で出走するのだが、もう1頭、狙いたい馬がいたのだ。
井上騎手騎乗のサンデイビス。前走・小倉のオープン戦を勝ったのだが、その勝ち方が強かった。馬が変わったなと思わされたのだ。馬柱で小倉、福島の小回り平坦専用と思われたのだろうか、人気が全くない。おまけに井上騎手への乗り替わり。それも人気の無さに拍車をかけているのだろうが、井上騎手だって障害戦初勝利を強く望んでいるだろう。ここは勝負気配のはずだ。
大外枠が試練だが、勝ちはなくとも馬券内は十分にある。そう読んでロスコフとサンデイビスの馬連、ビレッジイーグルを入れた3連複の2点。
仕事の合間にレースを見る。サンデイビスは好位でレースを運び、ロスコフの脚色も悪くはない。ビレッジイーグルも勝ち負けだ。これは3連複あるぞと思ったら、ロスコフが最後の障害でバランスを崩し、まさかのそれ4。サンデイビスは3着に粘ったものに、2着アサクサゲンキで馬券は沈没。
あの飛越さえなかったら、ロスコフは馬券内には間に合ったはず。でも、それだとサンデイビスは4着だ。いずれにせよ、馬券は当たらなかった。
悔しすぎてこのままでは終われないと、予定を変更してフラワーCにも参戦することに。
狙うのはもちろん、母父ステイのホーエリート。この面子で8番人気とは舐められたものだ。一発あるぞと、カンティアーモとラビットアイに流したワイドを2点。
ホーエリートは中団につけて直線、外。坂で脚色が鈍ったかに見えたが、ゴール前で脚を伸ばして2着に激走。3着にカンティアーモが来て、ワイドの配当は16倍。よっしゃーーー!! カンティアーモじゃなくてラビットアイが3着来てたらもっと配当はついたのだが、まあよし。ロスコフの仇をホーエリートが取ってくれた。
大満足で土曜日は終わった。
日曜日はスプリングSにコスモブッドレアが、阪神大賞典に一族が4頭出走する。この2レースに軍資金を集めたいので、他のレースの馬券は控えめにすることに。
まずは朝イチの運試し、中京1R、オルフェ産駒マリリアの複勝を。馬が変わるのはまだ先のような気がするが、最近好調の鞍上、西塚騎手が一発やってくれるかも。と、淡い期待を抱いてみたものの7着まで。まあ、人気より好走したし、変化の兆しも感じられる走りだった。次のレースも狙おう。人気のないうちに一発やってくれ。
続いては中山3R、共に母父ステイのタキザクラとラファールドール。タキザクラは初出走ながら3番人気、ラファールドールは4番人気。圧倒的1番人気のアスクハッピーモアを入れた3連複。配当はたいしてつかないけどしょうがない。ラファールドールが3着に来たが、前の2頭とは大差。タキザクラ4着。1、2着馬とこれだけ差があると悔しくもない。
中山4R、前走で馬券に貢献してくれたソーニャシュニク。上位人気のオウバイトウリとシークレットヴァウには逆らえないと見て3連複1点。しかし、ソーニャシュニクは馬群に沈んだまま。時計のかかる馬場は厳しいかなあ。
阪神5R、ゴルシ産駒のウインサマースノーとランオブザワールドのワイド。しかし、上位人気3頭が強すぎて話にならず。
阪神7R、ゴルシ産駒ペネトレイトゴーとオルフェ産駒ヴァンデストのワイド。馬券勝ってから、ペネトレイトゴーの鞍上が地方の岡部騎手であることに気づくという大ボケをかましてしまった。
いやいやいやいや、乗り難しい馬だよ。地方の騎手のテン乗りで大丈夫か?
大丈夫じゃありませんでした。スタートから御すのに手こずっている様子で後方のまま見せ場なく終了。対してヴァンデストは田口騎手が上手く乗って2着に激走。
ペネトレイトゴーは前走田口騎手で3着に来てくれたんだよなあ。田口貫太がふたり欲しいわ。
中山9RスピカSはゴルシ産駒が3騎出走。マイネルモーントは勝ち負けだが、残りの2頭は厳しい。涙を飲んで、モーントとココクレーターの馬連1点。
モーント出遅れ気味のスタートと外枠が響いて2着まで。ココが3着。1着のグランディアとココでどっちを相手にするか悩んだ末に、コーセイミウラよりルメさんだろうと切っちゃったんだよなあ。残念。
馬券はいいけど、モーントが勝ちきれないのが歯痒い。
阪神10R鳴門S。久々にダートに戻ってきたタガノペカから。3番人気ペプチドタイガーと人気薄、ムルザバエフ騎手騎乗のビオグラフィアへのワイド2点。
3、4、5着~(号泣)。
SNSで、これだけ1番人気に来られるとやってらんねえと、穴党たちが嘆いている。確かに、1番人気がめっちゃ来てるなあ。つまらんなあ。
中京メインの名古屋城Sは、母父ステイのエナハツホがそろそろ走り頃だと思っていたのに大外枠。中京ダート1800メートルの大外枠なんてほとんど無理ゲーなのでケン。案の定、エナハツホは外外回らされてなにもできずに終了。
阪神大賞典に一族4頭。大将格はシルヴァーソニックだが長期休み明けの上、天春に向けた叩き気配濃厚なのが悩みの種。それでも一族のワイドをボックスで。さらには、テーオーロイヤルとプリュムドールの馬連、ロイヤルからメイショウブレゲとゴールデンスナップへのワイド。
これだけの点数の馬券を買うのは久しぶりだからドキドキする。
シルヴァーソニックは思っていたとおりで見せ場もなし。プリュムドールがインから好走したが4着まで。ゴールデンスナップは外からいい脚を見せるも5着。
やっぱ、内通らんとどもならん。ゴールドシップの3連覇は遠い昔。馬場が変わってから、阪神大賞典は一族ファンにはつまらないレースになってしまった。
気を取り直してスプリングS。コスモブッドレアに賭けるのみ。レースは流れるだろうし、スローでしか勝ってないシックスペンスが人気吸ってくれて美味しいし、ブッドレアは絶対に勝ち負け。それが7番人気とは片腹痛し。
チャンネルトンネルが相手筆頭なのだが、ワイドが思いのほかつかないので馬連を。それから、ワイドの相手にジュンゴールドとルカランフィーストの2点。
行けよ、ブッドレア。なんならハナを切ってもいいぞ。
そう思いながらスタートを迎える。ブッドレア、ゴルシ産駒とは思えぬスタートダッシュを決めたがアレグロブリランテがハナを主張して番手に収まる。3番手にシックスペンス。ここで胸の奥に不吉な予感が芽生えた。
その予感は的中し、レースはあり得ないほどのどスローで進む。
馬鹿たれが。スローのレースになったらシックスペンスが行っちゃうだろう。切れる脚はないんだからよーいどんはダメだ。動け、レースを動かせ、裕紀人!
テレビの前で声を張り上げたが、石川騎手、なにもしようとはせず番手のまま直線へ。シックスペンスが切れ味鋭く抜け出して快勝。会心のスロー逃げを決めたアレグロが波乱を呼ぶ2着。ブッドレアは直線伸びあぐねて後続に交わされて4着同着で皐月賞行きを逃してしまった。馬券にした馬は3、4、4着。悔やんでも悔やみきれんぜよ。
あの展開で3着まで残れると思っていたのだろうか。勘弁してくれや。まあでも、そういう騎手しか回ってこないのが一族の宿命なのだ。仕方がない。
他の騎手たちも、これが皐月賞の最後の切符を賭けたレースだと理解してないような騎乗っぷり。そりゃ、ルメールが楽勝するわ。
腹立ちが収まらないので、全レース終了後、妻とふたりでオルフェーヴルの伝説の阪神大賞典のレース映像を見た。
このレースを見ると、いろんなことがどうでもよく思えてくる。
異常すぎる、おかしすぎる。
そんな言葉しか出てこない。
ディープだろうが、キンカメだろうが、ドゥラメンテだろうが、産駒にこんなとんでもない馬がいるか? いねえだろう。オルフェをこの世に送り出した時点でステイゴールドのひとり勝ちだ!
そう叫んで、わたしと妻は溜飲を下げたのだった。