小説『不夜城』や『少年と犬』などで知られる作家・馳星周さんによる競馬エッセイ『黄金旅程な週末』。ステイゴールドとその一族の熱烈なファンである著者の奮闘振りをお楽しみください。
▼直木賞「少年と犬」映画化のお知らせ
第163回直木賞を受賞した馳星周さんの名作小説『少年と犬』(文春文庫)が映画化されました。現在、絶賛上映中です。
ドバイWCデイの土曜日。
ざっと出走表を眺める。二場開催だし、一族の出走少ないし、馬券的に妙味のある一族ほとんどいないなあ。
というわけで妻と話し合い、土曜は中山4Rの障害未勝利戦の馬券だけを買って、後は夜のドバイに備えようということになった。
その障害未勝利戦。一族はウイングランブルーとグランナヴィール。ナヴィールは2番人気、グランブルーは7番人気。
確かに、グランブルーの前走は競争中の事故に助けられての3着だったことは否めない。
しかあし!
ゴルシっ仔は障害転向後2戦目で競走内容や着順が劇的に良化することが多いのだ。もともと、前走ではなく次の障害競走で厚く狙おうと思っていた。
ここは迷わず、ナヴィールとグランブルーの馬連ワイド!
昼飯を食べながらレースを見守る。
グランブルー、テンの速さを生かしてハナを奪う。よし、そのまま自分のペースで走って粘るんだぞ。ナヴィールは馬群中団。
最悪でもワイドはあるぞ。
グランブルー、最終障害を飛越した後も脚色鈍らず、後続の追撃を楽々かわして1着入線! よし、あとはナヴィール、差せ、差せ、差せ~!!!
絶叫空しく、半馬身届かずのそれ4。マジすか~(涙)。
グランブルーの単勝も抑えておけばよかったよ。でも、よもやナヴィールが馬券内外すなんて思ってなかったもんなあ。
というわけで、意気消沈の我ら夫婦。
レースの後はおのおの仕事と家事に戻り、競馬からは遠ざかる。
そして、深夜。
途中、昼寝もして備えたからねえ。
UAEダービーでアドマイヤデイトナが勝って、意気も上がる。まずは馬券発売4Rの最初、ゴールデンシャヒーンから。一族いないし、スプリントはようわからんので、1番人気タズ、2番人気ストレートノーチェイサー、に亀谷さん推奨のダークサフロン入れた3連複で運試し。
サフロン逃げ切り勝ちも、ノーチェイサー案外でタズがなんとか3着。ナカトミだったかあ。レース前、妻が気になると呟いてたんだよなあ。サフロンとのワイド押さえておけばよかった。
続いてはドバイターフ。買う馬券はもちろん、メイショウタバルから。折り合いさえつけば強いはず。レジェンドが上手く折り合いつけてマイペース逃げ、そして有力馬たちが牽制し合ってくれたら、ワンチャン、勝ちまであるぞ。
まずは名馬、ロマンチックウォリアーとの馬単馬連。そして、2頭軸3連複でリバティアイランドとソウルラッシュに流した2点。
頼むぞ、タバル、暴走だけはするな。頼むよ、レジェンド、折り合いつけさせておくれ。
タバル、スタートの出はイマイチ。それでも、注文をつけてハナを切る。
おし、頭が高いのはいつものこと。折り合い、ついてるぞ。得意のハイペース逃げに持ち込んで、後続の脚を削れば行ける!
あれ? ハイペース逃げにならんね? もっと後ろを離すかと思ったのに。
そして直線。ラスト100メートルまでタバルは粘る。
もうちょい、もうちょい、頑張れ、頑張れ!
しかし、ロマンチックウォリアーに交わされたところでジエンド。後ろの馬たちに飲み込まれていく。
こうなったら、日本馬、どれでもいいから勝て!
ロマンチックに追いすがるのはただ1頭のみ。ソウルラッシュ!
差せ、差せ、差せ!!
一完歩ごとに勇者を追い詰め、ハナ差交わしたところがゴール。
素晴らしい!!
サウジはダートとだったけど、芝でロマンチックウォリアーを倒すとは。タバルがもうちょい踏ん張れれば3連複取れてたなあ。
タバル負けたけど頑張ったし、ソウルラッシュが勝ったからそれでよし。
続いてはドバイシーマクラシック。ステイゴールドが勝った思い出のレース。一族がいないのは寂しいよう。
日本馬が4頭いるけど、ここはドゥレッツァじゃないですか? フランスの猛者、カランダガンとの馬連でどうでしょう?
ドゥレッツァ、好位から直線、抜け出しをはかるも思ったほど伸びず。代わりに抜け出したのはダービー馬、ダノンデサイル。
デサイルってこんなに強かったんだ? と呆気にとられるほどの楽勝劇。2着カランダガン、3着ドゥレッツァ。ワイドも買っておけ~。
眠気を堪えながら最後に挑むのは、ドバイWC。
はいはい、そりゃフォーエバーヤング強いですよ。だけどね、だけどね、我らがウシュバテソーロはこれがラストランなのよ。彼に勝ってもらいたいじゃないの。
というわけで、ウシュバからフォーエバーの馬単。
この馬券だけでいいと昼から決めてたんだけど、気になるのはウシュバの調教。
ウィルソンテソーロとの併せ馬でがっつり走ってたんだよね。これって、BCクラシックの時のいやな記憶が蘇る。調教頑張って走って、はい、おれの仕事はここまでね、と、本番ではやる気ゼロ。
一応、2、3着の馬券も押さえておくかあ(溜息)。
というわけで、フォーエバーとの2頭軸3連複で、インペリアルエンペラーとウォークオブスターズに流した2点。
勝って花道を飾って欲しいけど、1番の願いは、無事にレースを終えること。種馬になるのが最優先だ。本来なら、BCクラシックをラストランにすべきだったんだから。
レースはいつものように最後方から。いいよ、いいよ、それでいい。自分の走りに徹して、最後は届くかどうかだけ。
あれ? なんか、フォーエバーヤング、おかしくない? 道中の進み悪くて、好位取れてないよ?
レース後の矢作先生のコメントで、なんかいろいろあって入れ込んでしまったらしい。海外競馬は難しいねえ。
そして直線。ウシュバ、大外に出してラストスパート……ああ、やっぱりやる気ないわ、この走り。帳尻合わせるかのように淡々と走って6着。調教で仕事終わらせちゃったのね。
最後までらしかったなあ、らしすぎたなあ。
でも、ウシュバ、おまえにたくさんの夢を見させてもらったよ。一昨年、ドバイで勝ったときの喜びはなににも代えがたいよ。
今までありがとう、そして、お疲れさま。種馬になって、いい産駒ガンガン出してください。
ドバイの4R、一個も馬券当たらずの大惨敗。でもいいんだ。タバルとウシュバを応援できた。
翌日曜、眠い目をこすりながら競馬開始!
まずは阪神1Rのパッションディーバ。ゴルシにサウスヴィグラスの肌。ダートの短距離で走る異色のゴル娘。
ここは勝ち負けでしょ。1番人気バシリス強そうだけど、勝って欲しいので馬単。それから、2頭軸3連複で5番人気イチトゼロノアイダ、8番人気テイエムダイスターに流してみる。
ディーバ、直線鋭い末脚を炸裂させるも、先に抜け出したバシリスを捉えられず2着。3着にも2番人気が来る堅い決着で馬券は外れ。
でも、この脚なら、いずれ勝ち上がれるな。頑張れ、ディーバ!
中山4R障害未勝利戦にリーゼントジャンボとアルデドゥオーモ。ゴルシっ仔は障害2戦目から買いなんだけど、ジャンボはもう少し時間がかかりそう。ここはドゥオーモで勝負。ドゥオーモは4番人気。気になるのは3番人気カルマンフィルターと5番人気のメイショウカズサ。ドゥオーモから2頭に流した馬連でどうか?
12番、ユイノコキュウがハナを切り、カズサとドゥオーモがその後ろ。ユイはどこかでタレるだろうから、これ、馬連、もらったんじゃない?
4角でカズサがユイを交わして先頭へ。ドゥオーモもカズサを追っていく。
行け行けドゥオーモ、勝っちゃえ、勝っちゃえ!!
しかし、カズサとの差は縮まらず、1番人気アルカンサスが猛然と迫ってくる。
頼むよ、ドゥオーモ、粘って~!!
粘ってくれました。なんとか2着死守して馬連は24倍。ありがたや~。
阪神4Rはマイネルトラキアとアルファシリウスは馬券内ありそうだけど、シリウスは……お、ブリンカーつけてくんのか。
ならば一発あるかもと、トラキアとシリウスのワイド。さらに、トラキアと2番人気セイキュートとのワイドを追加。
ブリンカー効果のシリウスがハナを切る。トラキアは後方待機。3角手前から捲り上げて行って、4角では好位。
よし、シリウス粘って、トラキア直線伸びろ~!!
が、シリウス失速、トラキア伸びず。結果、6着、7着。まあ、そんなもんか。
中山5R。ガーネットウインク、ウインバーテックス、ゼロファイター。ゼロファイターは足りない。バーテックスも微妙だけど、とりあえずガーネットとのワイド。
大外枠、ダイワメジャー産駒のダングラール、大駆けありそうだなあ。よし、ガーネットとのワイド、行ってみよう、
レースはガーネットが中団、バーテックスとゼロファイターは後方。こりゃ、バーテックスもダメだな。
直線、人気どころのコアとルトンワージが抜け出しをはかるところに、大外に持ち出したガーネットが1頭だけ違う脚色でぶっちぎって1着! よっしゃ。エポカドーロ産駒、2頭目の勝ち上がりかな? ダングラールは5着まで。いやあ、馬券よりガーネット勝ったのが嬉しいよう。
阪神5Rのランツフート、狙いたいと思っていたのだが、鞍上が和田息子君なのでケン。ケンで正解。
阪神6R、ウイントレメンデスが1番人気。ここは勝ってもらわにゃ。やれよ、和生!
3番人気クリノアドバンス、5番人気ディーガレジェンドへの馬単2点。2番人気、モレイラ騎乗のサスケはきっと過剰人気。飛んでください。
相手に選んだクリノが1着。トレメンデス、直線失速して大敗。
なんだよ和生(怒)。騎手を責めてもしょうがないとわかっちゃいるんだけど、責めずにいられない(苦笑)。
中山7Rにゲンジ。人気ないなあ。まあ、勝ったの小倉だし、中山だと着悪いしなあ。それでも、小林美駒騎手から裕紀人への乗り替わりが吉と出るかもしれない。妻推し、丸田恭介騎手のチョングクとのワイドを買ってみる。
ゲンジもチョングクも道中は後方。よし、脚を溜めて、チョングクについていくんだぞ、ゲンジ。
ゲンジ、4角でチョングクに置いていかれたが、直線、外に出すとぐいぐい伸びて2着入線。チョングクも3着に来てワイド22倍。
よくやった、裕紀人!
阪神7Rはクリノフィガロ。休み明け2走目から、そろそろ走るだろうと買い続け、惨敗続き。でも、見限らんよ。鞍上は和田竜。東の丹内、西の和田竜、ゴルシっ仔の手綱を握らせて、これ以上信頼の置ける騎手はいない。ここは強気に1番人気ペンナヴェローチェとの馬連で勝負。
フィガロ、インの好位で競馬。よし、直線抜け出せと思ったのだが、4角で手応えが絶望的に悪くなって位置を下げる。
今日もダメかと思ったその時、和田竜が踏ん張れとばかりに手綱をしごく、しごきまくる。
すると、エネルギーを注入されたとでもいうようにフィガロの走りがよくなり、直線じりじり伸びて3着入線。
馬券は外れたが、やっぱり、ゴルシっ仔は和田竜だよなあ。調教師になんかならないで、ずっとゴルシっ仔に乗ってください。
ここでわたしも妻も電池切れ。30分ばかり仮眠を取る。この年で夜更かしは堪えるんだよねえ。
競馬再開は中山9Rから。ハイラントとナムアミダブツ。ハイラントは2番人気。ナムアミダブツ、信用できんけど、とりあえず2頭のワイド。1番人気のレッドテリオス強いよなあ……ハイラントとの2頭軸でボクラヲツナグモノ、チュウワモーニングに流した3連複。
ハイラント中団、ナムアミダブツ後方から。ハイラント、期待していたほど伸びず、それ4。1着テリオス、3着ボクラヲ。2着に人気薄。しゃあない。気持ちを切り替えて次に行きましょう。
中山10Rはマンマリアーレが最初は1番人気。最後は3番人気まで下がったけど、勝ってくれ。勝ってオープン入りだ。相手はまず、一族のバロネッサ。馬連。他はどの馬にしようかなあ。サトノアイオライトが人気だけど強そう。穴ならカマチョクインかと出走表を眺めていたら、あれ? この馬、めっちゃ調教よくない? と目に止まったのが、14番人気のメイショウポペット。栗東のCウッドで猛時計を出しているじゃありませんか。
一変あるかも。角田親子がわざわざ中山に出してくるんだ、勝算ありかもよ。よし、イッタレ! というわけで、マンマリとポペットのワイドで勝負。
マンマリ、道中はインの中団。直線、外に持ち出すとあっさり抜け出して大楽勝~。オープン入りだ。
そして、大外から内に入れたポペットがラチ沿いをぐんぐん伸びてくる。やっぱり、あの調教時計は本物だったんだ!
来い、来い、ポペット!! 3着でいいから来い~!!
来ました!!
ポペット3着、ワイド63倍。よっしゃー!!
マンマリがオープン入り決めて、馬券も会心の一撃。最高のレースじゃないか。
ドバイの負けを取り返してもお釣りがたっぷり。お腹いっぱいで迎えたのが、大阪杯。
一族いないし、気楽に行こうか。
というわけで、わたしの馬券は、これまた調教がいいベラジオオペラと展開恵まれそうなホウオウビスケッツの馬連。そして妻の馬券はロードデルレイとエコロヴァルツのワイド。うん、どっちもありそうだね。1番人気のシックスペンスはおそらく距離長いし、初の輸送で体重も減っているから、飛ぶよ。
本当はビスケッツとデシエルトを買いたかったんだけど、前走のタバル的な暴走見るとねえ。池添騎手が御せるとも思えないし。
そのデシエルト、スタート出負け。池添騎手が押してハナを奪うも、再びの暴走劇。ああ、タバルを見ているようだ。
離れた2番手のビスケッツがやっぱり展開利ありだなあとレースを見守っていたが、ビスケッツ、直線でガス欠を起こす。道中、力んでたのかしら?
そして、好位からなんなく抜け出したベラジオオペラが連覇。大外を1頭だけ伸びてきたロードデルレイ2着。そして、ピンク帽が突っ込んで来てるぞ、ヴァルツだぞ、妻のワイドが来たぞ~!!
と叫んだのも束の間、青帽が伸びてきて、ハナ差、ヴァルツを交わす。うそーん。
妻渾身のワイドは、勝利目前で指の間からこぼれ落ちていった。
悔しいけど、ナイストライだったよ。
メイショウポペットのおかげでお腹いっぱいだから、余裕なのである。
中山最終はメモリーグラス。3番人気だけど、頭あるでしょ。馬単で1番人気ネイト、2番人気メジャーデビューへ流した2点。
ネイトがハナを切ってメモリー番手、その後ろにメジャー。直線、ネイトを交わすだけと思っていたのだが交わせず、逆にメジャーに交わされてメモリー3着。
まあ、しょうがない。
夜は、国産ラム肉のジンギスカン。赤ワインを開けて、マンマリアーレのオープン入りを祝い、ウシュバテソーロのこれまでの走りを労った。