ウインブライトは「中山と香港の鬼」と呼ばれたが、もうひとつ「冬に強い」という特徴もあった。競走馬には、夏に強い馬、冬に強い馬など、季節適性のはっきりした馬がいる。これが前回の入門編の概要です。
では、季節馬を見つけるにはどうすればいいのか。ひとつは戦歴をじっと注意しながらながめることですが、あらかじめ血統から推測することもできます。
ウインブライトの全姉にウインファビラスという馬がいました。2015年の阪神JFでメジャーエンブレムの2着に来た馬です。
これ以降、ウインファビラスが馬券になったレースを並べます。
・2015年12月の阪神JF2着(10番人気)
・2017年1月のニューイヤーS3着(5番人気)
・2018年12月の常総S1着(7番人気)
馬券に絡んだのは12月と1月だけでした。ニューイヤーSと常総Sはどちらも中山のレースです。ほかに4着が2回ありますが、それも2月と1月のレースでした。ウインファビラスも冬馬だったのです。
こんなふうに一年に一度しか激走しない馬を、ピンポイントでつかまえるのはとても難しい。でも、逆に目立ちます。「ウインファビラスは冬になると調子を上げて穴をあける」と把握できていれば、全弟のウインブライトがデビューした段階で「もしかしたらこの馬も……」という、ぼんやりした仮説くらいは立てられる。
血統の季節適性や、成長リズムは、父の影響もありますが、母系の傾向のほうが精度は確かです。母や兄姉が冬に強い馬だった、夏に強い馬だったという、ファミリーの季節成績は知っておいたほうがいい。このあたりの感覚は共有一口クラブをやっている人なら、よくわかるのではないでしょうか。
ファミリー全体の傾向が明確な血統も、ひとつ紹介しておきます。アルーリングアクト一族です(ファミリーという言葉は、牝系が同じという意味で使います。父だけ同じ馬に、ファミリーという言い方はしません。「一族」も本来はファミリーと同じ意味ですが、最近は父や父系が同じ場合を指すこともあるようです)。
アルーリングアクトは1999年の小倉2歳Sを勝った快速馬です。もう20年以上前で、正確に言うと、当時のレース名は小倉3歳Sでした。
このファミリーはみんな仕上がりが早く、2歳戦に強い。特に夏の小倉の短距離戦に強い。アルーリングアクトが小倉2歳Sを勝った6年後、今度は娘のアルーリングボイスが小倉2歳Sを勝ちました。親子2代制覇です。
このファミリーは早熟のスプリンターが多いのですが、アルーリングボイスは古馬になってからも2007年の北九州記念で2着しました。
すると12年後、今度はアルーリングボイスの娘アンヴァルが2019年の北九州記念で3着します。この馬も初勝利は小倉の2歳戦で、福島2歳Sの勝ち馬でした。
祖母から母、母から娘と、同じ小倉芝1200mで初勝利をあげ、同じ小倉芝1200mの重賞で馬券になっているのです。
「12年後じゃ長すぎて、気が遠くなるよ!」という人には、もっとシンプルに「アルーリングアクト一族の2歳新馬を買うだけで蔵が建つ」という馬券術があります。
まず、2010年までの一族の2歳新馬成績が下の表。20頭が出走して【4-7-2-7】、連対率は50%を超えています。
▼2010年までのアルーリングアクト一族(牝系3代近親)・2歳新馬成績
アルーリングアクトが活躍すると、同じファミリーの牝馬が輸入され、一族は広がっていきました。快速エンドスウィープの血を持つ馬が多かったため、2歳の新馬に強いのはその影響だろうと、一族の特徴を知る者はむふむふしながら馬券を買ったものです。
しかし、この一族がすごいのはもっと先でした。アルーリングアクトの活躍から20年が過ぎて、エンドスウィープが血統表の奥に引っ込んでも、相変わらず2歳新馬において高確率で馬券になっています。
2020年以降の一族の2歳新馬成績が下の表。
▼2020年以降のアルーリングアクト一族(牝系3代近親)・2歳新馬成績
距離にも注目してください。以前は1200mや1400mの新馬しか走らなかったのに、近年は父が多様になったこともあり、1600mの新馬や、ときどき2000mの新馬でも馬券になっています(表の期間に2000mの新馬はなし)。合計で【4-3-0-7】。これを5番人気以内に限ると【4-2-0-2】になります。
代を経て、適性距離は広がっても「2歳の新馬から走る」という特徴は変わっていないのです。
季節適性や、2歳から走るなどの成長リズムは、母や兄姉の成績が参考になる。これを知っておきましょう。ウインブライトに学ぶ馬券術でした。
【第6回】季節適性は血統から予測できる(ウインブライト応用編)/王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」
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田端到
1962年、新潟生まれ。週刊誌記者を経てフリーのライターに。辛辣ながらも軽妙な文章には定評があり、馬券初心者からベテランまで多くのファンを持つ。近著に「田端到・加藤栄の種牡馬事典」シリーズ、「金満血統王国」シリーズなど。ウェブサイト・noteでは競馬マガジン『王様の極楽競馬天国』を連載中。