『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマは「逃げ馬」です。ぜひお楽しみください!
今回のテーマは「逃げ馬」。登場してもらう名馬はツインターボです。
逃げ馬の取り扱いは難しい。人気薄の馬がすいすいと逃げを打ち、穴をあけて馬券を取り逃がす。ならば、次は忘れずに警戒しようとお金を張り込めば、今度はマークされて、あっけなくバテてしまう。
いったい、逃げ馬はどんな条件、どんなタイミングで買えばいいのか。
ツインターボは1991年3歳世代の逃げ馬でした(年齢表記は現在の数え方)。三冠レースには縁がなかったものの、91年のラジオたんぱ賞(現ラジオNIKKEI賞)を前半1000m58秒9のハイペースで逃げ切り、セントライト記念は2着。
3歳で有馬記念に出走するとやはりハイペースの逃げを打ち、大本命のメジロマックイーンが大穴ダイユウサクに差し切られる波乱を演出します。
ツインターボは後続を引き離して逃げる、大逃げが得意戦法。その逃げっぷりの良さと、バテたときのあっという間の止まり方から、「逆噴射ターボ」とか、「破滅のロックンローラー」などと呼ばれ、根強い人気を集めました。
もしかしたら当時のファンは、ツインターボの逃げ切りよりも、ツインターボが大逃げして最後は歩くように止まる姿を見たかったのではないかと思えるほどでした。しかし、5歳の夏秋を迎えると変化が起こります。
93年七夕賞。前半57秒4のハイペースで逃げて、4馬身差の楽勝逃げ切り。93年オールカマー。前半59秒5、ここからさらに加速して1600m通過は1分34秒8。マイルの勝ち時計のようなラップで飛ばして、後続に15馬身くらいの差をつけると、そのまま直線も風を切って5馬身差の逃げ切り。しかも負かしたのは、ライスシャワーやホワイトストーンというG1級の馬たち。
この七夕賞とオールカマーの2連勝で、ツインターボ人気は頂点に達します。「ツインターボを種牡馬にする会」の会長を名乗る者が現れ、パドックには横断幕の名作「俺に構わず逃げてくれ! ツインターボ」が掲げられるようになりました。
どんどん逆噴射して本題からズレている気がするので戻します。ツインターボはどんな条件で鮮やかな逃走劇を決め、どんな条件で歩くように止まってしまったのか。
ツインターボが重賞で3着以内にきたレースをまとめたのが下記の表です。
▼ツインターボが3着以内にきた重賞
注目点はふたつ。この5つのレースは、どれも福島か中山であること。どちらも直線の短い小回り競馬場です。そして5つのうち4つは、6枠から8枠の外枠だったこと。
逃げが決まりやすい競馬場について、2013年から2022年の10年間の芝重賞を対象に調べたのが次の表です。赤字は高率のトップ2。青字は低率のワースト2。「3角先頭だった馬」を逃げ馬としました。
▼芝重賞、3角先頭馬の成績(2013年~2022年)
逃げ切りや逃げ残りが決まりやすい競馬場は、函館、福島、札幌。
逃げ切りや逃げ残りが決まりにくい競馬場は、東京と新潟。
距離を分けずに集計した大雑把なデータでも、直線の短い競馬場が上位を占め、直線の長い競馬場が下位に来ています。逃げ馬は直線の短いコースのほうが有利という基本のセオリーは、信じて良さそうです。
ただし、直線の短さだけが理由かどうかは何とも言えません。直線の短いコースは競馬場が小さいため、コーナーの数が多くなります。
芝1800mを例に取ると、函館、福島、中山などの芝1800mはコーナーを4回まわります。しかし、東京、新潟のような直線の長い競馬場の芝1800mは、コーナーを2回しかまわりません。
この「コーナーの数」が、逃げ馬の成績に差がある本当の理由かもしれません。コーナーがあるとそこでペースがゆるむため、逃げ馬は息を入れやすくなり、コーナー2回のコースより、コーナー4回のコースのほうが成績が上がるという理屈です。
ツインターボも重賞で連対したのは、全部、コーナー4回のコースでした(中山芝2200mはコーナーの数え方が難しいですが、ここでは4回とします)。
逃げ馬の取り扱いには、すべての競馬場の距離について、逃げ馬が有利なコースと不利なコースを把握しておくことが最強の馬券師への道ですが、ビギナーが最初に知っておくべきポイントとして、中山と阪神の芝1800と芝2000の違いを説明します。ちょうど現在、中山と阪神の開催が行われ、G1につながる大事な重賞も組まれています。
まずは中山の芝1800と芝2000の重賞の違い。誤差をなくすため、2003年から2022年までの20年間を集計しました。
▼中山の芝1800と芝2000重賞の逃げ馬成績(2003年~2022年)
勝率は芝1800が断然高い。過去20年、芝1800重賞では逃げ馬14勝に対して、芝2000重賞では6勝しかしていません。過去10年なら芝2000の逃げ馬は1勝。タイトルホルダーの弥生賞だけです。
複勝率なら差は詰まりますが、それでも10%以上の開きがあります。中山の芝1800と芝2000では、明らかに芝1800のほうが逃げ馬有利のコースです。
続いて阪神の芝1800と芝2000の重賞の違い。
▼阪神の芝1800と芝2000重賞の逃げ馬成績(2003年~2022年)
勝率は芝2000が断然高い。過去20年、芝2000重賞では逃げ馬13勝に対して、芝1800重賞では3勝しかしていません。レースの数も芝2000がだいぶ多いのですが、勝率や複勝率でほぼ2倍の差があります。阪神の芝1800と芝2000では、明らかに芝2000のほうが逃げ馬有利のコースです。
では、なぜこんな違いが生まれるのか。次回の応用編に続きます。