『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマも前回に引き続き「逃げ馬」です。ぜひお楽しみください!
中山の芝1800と芝2000の重賞を比べると、逃げ馬が残りやすいのは断然、芝1800。
阪神の芝1800と芝2000の重賞を比べると、逃げ馬が残りやすいのは断然、芝2000。
前回の入門編の最後に紹介しました。
では、なぜこんな違いが生まれるのか。中山と阪神では理由も違うので、別々に見ていきます。
中山の芝1800と芝2000の違いは、スタート地点と、最初の1コーナーまでの距離の違いにあります。
・中山芝1800。スタンド前の直線の真ん中へんからスタート。すぐに急坂があり、最初の1コーナーまでは約200mと短い。逃げ争いが早めに落ち着き、ペースもスローになりやすい。もちろんメンバーによってハイペースにもなるが、最初のコーナーまで短い分、内枠の馬が逃げを打ちやすい。
・中山芝2000。スタンド前の直線の右端からスタート。最初の1コーナーまでは約400mと長め。どの枠の馬も先手を取れるため、芝1800より逃げ争いが起こりやすく、隊列が落ち着くまで時間がかかる。芝1800よりも締まった流れになりやすく、特に内枠の馬が先手を取りやすいということもない。
簡潔にまとめれば、中山芝1800はスタートしてすぐにコーナーがあるから、早めにペースが落ち着き、逃げ馬に有利。中山芝2000は最初のコーナーまで長いから、先手争いが起こって、芝1800に比べれば逃げ馬に不利。この違いが、上記の逃げ馬の成績になって表れていると考えればいい。
各重賞ごとに過去20年の逃げ馬の成績をまとめたのが下の表。太字が芝1800、細字が芝2000の重賞です。
▼中山芝1800mと芝2000m重賞の逃げ馬成績(2003~2022年)
ちょうど今週はフラワーCとスプリングSが行われます。逃げ馬に有利な中山芝1800で、しかも隊列が落ち着きやすい3歳牝馬戦のフラワーCは、逃げ馬が活躍する代表格の重賞です。
枠番による逃げ馬の成績も、中山芝1800と中山芝2000では大違いです。
▼中山芝1800m重賞。逃げた馬(3角先頭)の枠番別成績(2003~2022年)
▼中山芝2000m重賞。逃げた馬(3角先頭)の枠番別成績(2003~2022年)
中山芝1800では1枠から3枠の勝率が高く、明らかな内枠優勢の傾向が出ています。しかし、中山芝2000では1枠と2枠から逃げた馬は0勝。内外に大きな差はないものの、中枠から外枠がやや優勢とわかります。
これもすべて、最初のコーナーまでの距離の違いで説明できます。芝1800は内枠の馬が先手を取りやすいのに対して、芝2000は外枠からも逃げたい馬や先行したい馬が押し寄せてきて、内枠から先手を取ろうとすると、かえって最初に脚を使わなければならない場合がある。
内枠が逃げにくいとまでは言いませんが、芝1800のような内枠の逃げ馬有利は、芝2000にはありません。
続いて、阪神の芝1800と芝2000の重賞の逃げ馬の違いについて。こちらは中山より、もっと明確にコースの形状が違います(詳しいコース図はJRAのホームページを参照してください)。
▼参考
阪神競馬場のコース図(JRAホームページ)
・阪神芝1800。外回りコースで行われる。スタート地点は2コーナーのあたり。最初の3コーナーまで約600mあり、とても長い。コーナーは、3角と4角のふたつだけ。全体的に直線部分が長く、締まったラップになりやすいため、逃げ馬に不利なコース。
・阪神芝2000。内回りコースで行われる。スタート地点は正面スタンド前の直線にあり、最初の1コーナーまでは約320m。コーナーを4つ回って、またスタンド前の直線に戻ってくる。阪神芝1800よりはペースが落ち着きやすく、最後の直線も芝1800より短いため、逃げ馬に有利なコース。
阪神芝1800のようなコース形状を、アルファベットの形に見立てて「U字型コース」、またはワンターンのコース(右向きに走って1回ターンして左向きに走る)。
阪神芝2000のようなコース形状を「O字型コース」、またはツーターンのコース(左向きに走ってターンして向正面では右向きに走り、またターンして最後は左向きに走る)。
という呼び方もあります。
このコース形状の違いが、阪神芝1800の重賞では逃げ馬が不振、阪神芝2000の重賞では逃げ馬がよく残るという結果を生んでいるのだと思われます。
中山と同様、枠順の違いによる成績も比べてみます。
▼阪神芝1800m重賞。逃げた馬(3角先頭)の枠番別成績(2003~2022年)
▼阪神芝2000m重賞。逃げた馬(3角先頭)の枠番別成績(2003~2022年)
阪神芝1800は逃げ馬に厳しく、参考程度のデータしかないが、好走率が高いのは1枠から4枠。
阪神芝2000は特に内外の傾向なし。中山ほど、枠の違いは気にしなくて良さそうです。当日のメンバー構成や、馬場傾向を優先して考えるべきでしょう。
ここまで検証してきた中山と阪神の芝1800と芝2000の違いを把握していれば、他のほとんどの競馬場にも応用できます。
レースの着順を決めるのは、馬の走力だけではありません。逃げ馬の有利なコース、不利なコースがあり、それはコース形状の違い(直線の長さ、最初のコーナーまでの距離、コーナーをまわる回数)から来るのだと理解することで、レースを読みやすくなる。これらは暗記して覚えるようなものではなく、コース形状の違いさえわかっていれば、おのずと傾向を推測できるのです。
最後にもう一度、ツインターボに登場してもらいます。
ツインターボが重賞で馬券になった5つのレースのうち、4つは6枠から8枠の外枠だったと前回紹介しました。これは馬の個性によるものです。コース形状の違いを言う前に、それぞれの馬によって内枠が得意な逃げ馬もいれば、外枠が得意な逃げ馬もいる。これも当たり前です。
ツインターボはスタートダッシュが抜群に速いというタイプではありませんでした。スプリンターではなく、中盤から加速して、どんどん差を広げていくタイプの中距離の逃げ馬でした。
ダッシュが速くない逃げ馬は、外枠のほうが先手を取りやすい。他馬にかぶされず、自分でペースをつくれるためです。逆に内枠に入ると、他馬との兼ね合いから、最初に脚を使わなくてはならない場合がある。
ツインターボが重賞で1枠から5枠に入ったときは【0-1-0-8】。得意の福島と中山でも1枠から5枠【0-1-0-6】、6枠から8枠【3-1-0-3】でした。
ツインターボは耳まで覆う青いメンコ(若い時期は白いメンコ)をつけていました。これは他馬を気にする馬がよく使う馬具で、性格的には臆病だったとも言われます。
逃げ馬なら、みんな内枠を歓迎するわけではないし、たとえ内枠の逃げ馬が有利なコースでも、外枠が欲しい馬もいる。
破滅のロックンローラー、ツインターボはそんな大切なことも教えてくれました。