『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマも前回に引き続き「善戦マン向きの重賞」です。ぜひお楽しみください!
善戦マンには、善戦マン向きの重賞がある。その応用編です。前回はナイスネイチャを取り上げましたが、もう1頭、G1善戦マンといえばステイゴールドをスルーするわけにはいかない。
ステイゴールド。誰もが知る名馬であり、名種牡馬です。ラストレースの香港ヴァーズで海外G1の優勝を飾りましたが、国内のG1は未勝利。それどころか、6歳で目黒記念を勝つまでは重賞も未勝利でした。
4歳の天皇賞・春2着、宝塚記念2着、天皇賞・秋2着、有馬記念3着、5歳の宝塚記念3着、天皇賞・秋2着、6歳の天皇賞・春4着。これでもまだ重賞未勝利。よく「ステイゴールド、主な勝ち鞍・阿寒湖特別」と、ネタのようにいじられてました。
それが6歳の目黒記念で2年8か月ぶりに勝利したものだから、ゴールの瞬間はナイスネイチャの高松宮杯以上の大きな拍手に包まれました。
この勝利、一般には「武豊に乗り替わったから」と思われていますが、別の説を唱えたい。そもそも東京芝2500mの目黒記念は、善戦マンが勝つためのレースなのです。
目黒記念の歴代の勝ち馬を並べると、それがわかります。フェイムゲーム、ポップロック、ステイゴールド、ローゼンカバリー、マチカネタンホイザ……。古すぎますね。
もっと新しくてわかりやすい例が、今年の目黒記念。先々週のレースです。
勝ったのはヒートオンビート。これまで重賞の2着と3着が計6回。G1は天皇賞・春の4着があるのに、重賞未勝利だった善戦マンです。ステイゴールドのワンランクダウン版のような戦歴。
このヒートオンビートの重賞初勝利を、「レーン騎手の腕」のおかげと見るのか、目黒記念というレースの性質と受け止めるのか。「そういえばステイゴールドも重賞初勝利は目黒記念だった」と、共通点を知った上で見れば、勝因は騎手だけではなかったと推察できるのではないでしょうか。目黒記念は善戦マン向きの重賞なのです。
2500mという中途半端な距離や、東京コースの直線の坂を2回登ること、古馬のステイヤーが集まって持久戦になりやすいこと。これらの要因が重なり、鋭い切れ味よりも、じりじり伸びるスタミナが求められる。なかなか勝ち切れない堅実派にはピッタリのレースの性質です。
これを逆に応用することもできます。
今年の目黒記念、1番人気を集めたのは4歳牝馬のサリエラでした。キャリアは4戦3勝、上がり33秒台のキレキレの末脚を武器にする馬です。そんな鋭い瞬発力を持ち味にする若い牝馬が、善戦マンのための重賞・目黒記念を勝つわけないのにと、目黒記念を40年も見ているとわかるのですが、おっさんの昔話マウントかもしれません。
データを示します。目黒記念で「前走上がり1位」の馬が1番人気になると【0-0-2-2】(過去10年)。「前走上がり1位」とは、前走のレースの中で上がり3ハロンが1位だった馬という意味です。該当馬4頭の成績が下の表。
▲目黒記念1番人気で「前走上がり1位」だった馬(過去10年)
今年のサリエラを含めて、1頭も2着以内に来ていません。どの馬も3着から5着という、似たような惜敗。キレキレの末脚を武器にする馬が、善戦マンのための重賞・目黒記念で1番人気を背負うと、こうなってしまうのです。
ちなみに今年は、3番人気で4着に敗れたゼッフィーロも「前走上がり1位」の馬でした。これがレースの性質を応用した人気馬の消し方です。
▼ヒートオンビートの重賞成績
▼ステイゴールドの重賞成績(6歳の目黒記念まで)