『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマは「クラス分けの歪み」です。ぜひお楽しみください!
競馬の予想でもっとも大切なのは各馬の能力の比較です。能力とひとくちに言っても「Aという馬が、東京芝2000mで発揮できる能力と、中山芝1600mで発揮できる能力は違うだろう」という、ややこしい話になりかねませんが、ひとまず適性をさておいた“絶対能力”のような意味です。
競馬にはクラス分けがあり、同じような能力の馬が一緒にレースをする仕組みがあります。中央競馬なら、まだ一度も勝ったことのない馬が出走する「未勝利クラス」、一度だけ勝ったことのある馬が出走する「1勝クラス」……という具合に、各馬の勝利数や獲得賞金によってクラスを分けてレースをします。
しかし、一年のスケジュールの中では、このクラス分けがいびつになる時期がある。同じような能力の馬を集めて走らせるはずなのに、システム上、能力に差のある馬が同じクラスに分けられてしまう。今回はそんな話です。
ダービーが終わると、クラスの再編成が行われ、3歳馬と古馬が一緒にレースを走るようになります。
日本の学校はほとんど3月に終業式、4月に始業式があり、そこで新しいクラス分けが行われたりしますが、競馬の場合はダービーが終業式(卒業式)、2歳新馬戦のスタートが始業式にあたります。おおむね5月でひと区切りが付き、6月から新年度が始まる仕組みです。
6月には、6月だけ特に有効な馬券術がある。クラス編成の歪みを突く考え方です。
結論から示します。6月の「1勝クラスの年齢別成績」と「2勝クラスの年齢別成績」を比べたのが下の表です。対象レースは2018年から2022年の5年間。3歳馬と古馬が一緒に走る「3歳上クラス」のレース。
▲6月の1勝クラス、年齢別成績(2018年から22年)
▲6月の2勝クラス、年齢別成績(2018年から22年)
・1勝クラスの3歳馬の勝率は11.4%、複勝率は30.1%。
・2勝クラスの3歳馬の勝率は24.2%、複勝率は47.0%。
どちらのクラスも3歳馬の成績がトップなのは同じですが、飛び抜け方が大きく違う。勝率は2倍以上の差があり、複勝率47%はほぼ2頭に1頭が馬券に絡む高確率。6月の2勝クラスにおける3歳馬の突出度は、同等の能力の馬が集められているとは思えないレベルです。
「夏は3歳馬を狙え!」という馬券術はちょくちょく耳にしますが、3歳馬を狙うにしても1勝クラスと2勝クラスではこんなに違う。クラスも考慮した上で、年齢に注目しないと意味がないのです。
なぜこうなるかは、考えればわかります。ダービーが終わった時点で既に2勝をあげている3歳馬はほぼエリートです。重賞やオープンに出走していた馬も珍しくない。一方、6月の2勝クラスにいる古馬はエリートではありません。弱くはないけど、能力の上限が見えたような中堅級の馬たちです。それが3歳の若いエリートと一緒に走らされたら、能力の違いがあっても仕方ない。
1勝クラスはどうか。ダービーが終わった時点の3歳の1勝馬は、エリートと呼べるほどではない。1勝馬は1勝馬です。一方、6月の1勝クラスにいる古馬は、ほぼ頭打ちの馬たちです。だから3歳馬と一緒に走れば、3歳のほうが優位な成績になりますが、でも、それほど明確な差があるわけではない。2勝クラスほど、3歳馬と古馬の能力差は大きくありません。
これが「6月の2勝クラスは、3歳馬を狙え!」という馬券術が有効な理由です。もちろん人気になる馬も多いのですが、それを差し引いても威力のある馬券術です。
モズスーパーフレアに登場してもらいましょう。2020年の高松宮記念を勝利した快速のスプリンター牝馬。
モズスーパーフレアは3歳の6月に、函館芝1200mのHTB杯(2勝クラス)に出走しています。その前走は重賞のファルコンSで、逃げて5着でした。
重賞でも逃げを打った快速馬が2勝クラスの函館芝1200mに出てきて、しかも斤量は52キロなら、よっぽど人気になったに違いない、と思われるかも知れませんが、モズスーパーフレアは単勝6.3倍の2番人気でした。大外枠を引いた分の人気落ちもあったとは言え、能力の違いは明らか。あっさり2番手から抜け出して完勝しました。
6月の2勝クラスには、こんなおいしい馬がちょこちょこ潜んでいます。