『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマは走力を見極めるための重要項目その2「前走の馬場・枠順補正」です。ぜひお楽しみください!
予想の最初に見るべき、各馬の「適性」と「走力」。今回は、各馬の走力(絶対能力)を見極めるための重要項目2つめ「前走の馬場・枠順補正」をピックアップします。
前走の結果は、今回の人気に大いに影響します。前走が同じクラスで2着なら今回は人気になるだろうし、前走が10着なら人気になりにくい。しかし、単純に着順だけで「前走は好走だった」「前走は凡走だった」と判断していいのかと言えば、そうではありません。
・前走はインコースを通った馬が有利なレースだった場合
内を通った馬は恵まれた着順と見なす。外を通った馬は恵まれなかった着順(走力を出しきれなかった着順)と見なす。
これが「馬場補正」です。トラックバイアス(馬場による有利不利の偏り)という呼び方をすることもあります。アウトコースが有利だったレースなら、内と外が逆になります。
・前走は内枠に入った馬が有利なレースだった場合
内の枠順だった馬は恵まれた着順と見なす。外の枠順だった馬は恵まれなかった着順(走力を出しきれなかった着順)と見なす。
これが「枠順補正」です。ほとんど馬場補正と一緒ですが、外枠から出てインコースを通る馬もいるので、少々違います。
この見方でレース内容を検証して、前走の結果(着順)をそのまま受け止めていいのか、それとも補正する必要があるのかを判断します。もちろん、前々走も、その前も、全部検証するべきなのですが、ひとまず前走だけは必ず気にしてみることをオススメします。
例題として、2022年のスプリンターズSを勝ったジャンダルムを取り上げましょう。ジャンダルムは単勝8番人気、単勝20.3倍の人気薄でした。
なぜスプリンターズSを例題にするかというと、芝1200mのレースは通ったコースの有利不利や、枠順の有利不利が出やすく、「前走(近走)の馬場・枠順補正」がきわめて重要だからです。
コンマ1秒を争う電撃の短距離戦で、内と外に有利不利があれば着順は簡単にひっくり返ってしまう。夏のローカルでは芝1200の重賞やオープン特別がたくさん組まれ、その延長線上にあるのがスプリンターズS。各レースの「馬場・枠順補正」が、スプリンターズSを的中させる鍵になります。
ジャンダルムの22年スプリンターズS、その前走は北九州記念の17着でした。この北九州記念は1着ボンボヤージ(馬番1番)、2着タイセイビジョン(馬番3番)という、内を通った馬に有利なレースでした。
▼参考/JRAホームページ
2022年 北九州記念のレース結果
レース映像を見ると、掲示板に載った5頭は、4コーナー手前ですべて内にいます。スタート後、47秒あたりで静止させるとわかりやすい。最内を通った1着のボンボヤージ、2着タイセイビジョンのほか、4着のアネゴハダも、5着のモントライゼも内。3着のナムラクレアは4角で内へ入ろうとして行けず、一度は外へ持ち出して、また内へ切り込みました。
一方、外にオレンジの帽子とピンクの帽子が並んでいるのがわかります。外枠の馬はこうして外を回され、距離ロスを余儀なくされました。大外のピンク帽の馬がジャンダルムです。
つまり、ジャンダルムの22年北九州記念(17着)は、内を通った馬が上位独占したレースで8枠から大外を回された“走力を出しきれなかった着順”とわかります。
ならばこの結果を鵜呑みにしてはいけない。馬場・枠順の補正をするべきレースです。補正どころか、ノーカウントでもいい。
そして迎えた次走の22年スプリンターズS。ジャンダルムは1枠2番の内枠を引き当てました。G1ウィークの中山は内が有利な馬場になることが多く、絶好の枠順です。
これまで1桁馬番だったレースをさかのぼると、22年オーシャンSは1着。22年高松宮記念も最後は11着に失速したものの、直線で先頭に立ち、差し馬が上位に来た中で0秒4差と善戦している。
さらにジャンダルムには、「ローテーション成績」に顕著な傾向がありました。休み明け初戦より、叩き2戦目に良化して、好走が多いのです。確かめてください。
こうして外を通った馬が不利の北九州記念17着→内を通った馬が有利のスプリンターズS1着、というジャンダルムの逆転劇が成功します。
予想の際に「北九州記念の着順は補正しなくてはならない」と理解していれば、高松宮記念の惜敗などから考えてもノーマークにはできなかったはず。これが前走の馬場・枠順補正の大切さです。
最後にもうひとつおまけを。ジャンダルムは母ビリーヴの血統でも知られます。
ビリーヴは2002年のスプリンターズSと、2003年の高松宮記念の二冠を制した名短距離馬でした。このスプリンターズSは1番人気の順当勝ちでしたが、高松宮記念は3番人気で、単勝1010円の好配当になりました。なぜ人気を落としていたかと言えば、前走の阪急杯で9着に敗れていたためです。
阪急杯は馬番10番から先行できず9着→高松宮記念は馬番1番から先行して優勝。これがビリーヴの2003年高松宮記念が好配当になった理由です。
ジャンダルムのスプリンターズSの激走は、母とよく似た親子二代の逆転劇だったのです。