先週のグリーンチャンネルの中継終了後、プロデューサーに「ちょっとよろしいですか」と呼び止められた。やや神妙な面持ちだ。時期的に契約関係の話ではないかと直感した。
「急な話で申し訳ないのですが…実は…」
ゴクリ。内心ドキドキしながらも平静を装って話に聞き入る。
「来週からトイレが大規模工事に入りまして使えなくなります」
…。拍子抜けの内容に思わず「な、なーんだ…」と口にして安心したのは一瞬。ちょっと待てよ。大問題じゃないか!!!
グリーンチャンネルの中央競馬中継は、前半が午前9時から午後1時頃まで、後半が午後1時から夕方5時までと約4時間ずつの交代制になっている。実況をするわけではないので単純に比較はできないが、プロ野球中継は3~3.5時間くらい、サッカー中継は2~2.5時間くらいなので、多くのスポーツ中継と比べても、かなりの長さである。
4時間ともなると、例の生理現象が起こりうる。スタジオのあるフロアには20mほど離れた場所にトイレが1ヶ所あるのだが、長年の経験上4~5分あれば用を足して席に戻ってこれる。パドックやレースは当然見ておかなければならないし、アクシデントなどで急にスタジオに戻ることもある。時間も3分くらいしかないので「緊急事態」だとしても、かなり急ぐ必要がある。したがって午前のキャスターにとっての唯一のトイレチャンスは、昼休みに流れる4~5分のVTRである。
ところが、同フロアにある唯一のトイレが工事のため、数ヶ月間使えなくなるという。一番近い1フロア下の階のトイレを使ってもらいたいということで、スタジオから1階下のトイレまで用を足して戻ってくるのにどれくらいかかるかのシミュレーションが行われた。
グリーンチャンネルが入っているビルは、1フロアが通常の建物の2階分もあるので、実際には階段で2階分を上り下りすることが必要だ。シミュレーションの結果、最低でも6分は必要だとわかった。急げば短縮は可能だが、急いで階段を2階分上ると息切れでコメントしづらくなることが予想されるし、そもそも廊下や階段を走るのは危険だ。
昼休みに放映するVTRは最長でも5分前後しかないので、いかに「トイレ工事」という今般の有事にも、放送に影響を与えることなく「緊急事態」に対応するかの話し合いが行われた。その対策の内容は想像にお任せするが、来週以降も視聴者に悟られることなく、何食わぬ顔で用を足して、淡々と番組を進行しているはずである。私たちの危機管理能力は高いのだ。たぶん(笑)。
2022/10/20 (木)
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。
