中央競馬では、今週7人の調教師が定年で引退しました。この中には、“元ダービージョッキー”2人も含まれました。
ひとりは、1990年の第57回の日本ダービーをアイネスフウジンで制し、19万人超という競馬場の観客動員数の世界レコードの観衆から、伝説の“ナカノコール”を浴びた中野栄治・元調教師。
もうひとりは、翌1991年の第58回日本ダービーで、単勝1.6倍という圧倒的1番人気に応えて勝利し、父・シンボリルドルフ同様に無敗で2冠を制したトウカイテイオーの鞍上、安田隆行・元調教師。
私はダービージョッキーだったお二人に、「調教師としてもダービー優勝」という快挙を達成して欲しいと思い続けていたのですが、残念ながらその夢は叶いませんでした。JRA通算967勝、中央・地方・海外あわせGI級20勝の安田隆行・元調教師でも、調教師としてはダービーに縁がなかったのですから、やはりダービーを勝つのは簡単ではありません。
調べてみると、“調騎兼業”が認められていた戦前には、3人が騎手兼調教師として、ダービーを制しているほか(“調騎兼業”については、2023.3.2公開「“調騎分離”のハナシ」参照)、“調騎分離”後も、2人が騎手・調教師の双方でダービーを優勝しています。
騎手兼調教師としてダービーを制している1人目は大久保房松。騎手兼調教師として1933年の第2回ダービーをカブトヤマで優勝したほか、戦後に調教師専業となった1955年には、第22回ダービーをオートキツで制しています。
2人目は中島時一。1937年、第6回ダービーを牝馬のヒサトモで、“調騎兼業”として優勝しています。中島時一は、1974年のダービーをコーネルランサーで勝利したダービージョッキー・中島啓之の父でもあります。
もう一人は中村広。“調騎兼業”として1938年の第7回ダービーをスゲヌマで制しました。
一方、戦後になってからの“調騎ダービー制覇”は2例。
騎手として、戦時中に「能力検定競走」として行われた第13回ダービーをカイソウで、1950年の第17回ダービーを二冠馬クモノハナで制した橋本輝雄は、調教師転身後の1987年に管理馬メリーナイスが第54回ダービーを優勝しました。
二本柳壮・元騎手(現・調教助手)の祖父でもある二本柳俊夫は、騎手としては1955年の第22回ダービーをオートキツで、調教師としては1985年の第52回ダービーをシリウスシンボリで優勝しています。
しかしながら、1984年のグレード制導入後、騎手・調教師の双方でダービーを制した人はいません。
では、中野栄治さんと安田隆行さんが調教師を引退した今、“調騎ダービー制覇”の夢を託された“元ダービージョッキー”の調教師7人をご紹介しましょう。
1人目は、最近SNS等でも話題の加藤和宏調教師。騎手時代、1985年の第52回ダービーをシリウスシンボリで制しています。
2人目は、藤田菜七子騎手の師匠としても知られる根本康広調教師。1987年の第54回ダービーをメリーナイスで勝利しています。根本調教師は、定年まであと2年です。
3人目は、河内洋調教師。2000年の第67回ダービーをアグネスフライトで制した河内調教師も、定年へラストイヤーとなりました。来週のスプリングSに出走予定のウォーターリヒトが最後のチャンスかもしれません。
4人目は、2001年の第68回ダービーをジャングルポケットで制した“元ダービージョッキー”角田晃一調教師。
5人目は、2006年の第73回ダービーをメイショウサムソンで制し、二冠を達成した石橋守調教師。
6人目は、2007年の第74回ダービーを牝馬のウオッカで、翌2008年の第75回ダービーをディープスカイで制し、武豊騎手に次ぐ2人目のダービー2連覇を達成している四位洋文調教師。
そして7人目は、6日に厩舎を開業したばかりの福永祐一調教師。ご存知の通り、2018年の第85回ダービーをワグネリアンで、2020年の第87回ダービーを後の三冠馬コントレイルで、翌2021年の第88回ダービーをシャフリヤールで制し、史上3人目のダービー連覇を含め、3度ダービージョッキーの栄誉に輝いています。
一人のホースマンが、騎手としても、調教師としても、ダービーを勝利するという“調騎ダービー制覇”の夢。そんな快挙が達成される瞬間を、いつか、どちらも、この目で見届けてみたいものです。
2024/03/07 (木)
“調騎ダービー制覇”の夢/競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。