競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマはジャックルマロワ賞、インターナショナルSなどの振り返りです。
フランス北西部、イギリス海峡を臨むリゾート地にあるドーヴィル競馬場では先週末、フランスにおける真夏のマイル王決定戦ジャックルマロワの開催で盛り上がりを見せました。
土曜日に行われたG2ギヨームドルナノ賞(芝2000m)には、凱旋門賞を目指してフランスに遠征しているアロヒアリイ(牡3/美浦・田中博康厩舎)がC・ルメール騎手とのコンビで出走。仏ダービー2着馬クアリフィカーら5頭立てのメンバーの中、これを逃げ切って勝利しました。自らペースをつくり、上がりの600mは33秒1という最速の脚を使って後続を突き放す競馬は見事でした。
「内容や結果次第で凱旋門賞にいくというプランでフランスに来ている」と話した田中博康調教師。父は凱旋門賞の参戦が叶わなかったドゥラメンテ、母の父は凱旋門賞2年連続2着のオルフェーヴル、牝系はバレークイーン一族という血統のアロヒアリイと、凱旋門賞に並々ならぬ思い入れを持っている若きトレーナーの挑戦にエールを送りたいと思います。
翌日行われたG1ジャックルマロワ賞(芝1600m)は、前売り1番人気のロザリオンが取り消して10頭立てに。1番人気は日本も現地フランスもアスコリピチェーノでした。
スローに流れたレースは、A・オブライエン厩舎の人気馬ザライオンインウィンターがラチ沿いから馬群を引っ張り、馬場の中央寄りから同厩のディエゴヴェラスケス、日本のゴートゥファーストが追走する展開。外寄りにつけたアスコリピチェーノは終始、ダンシングジェミナイやドックランズ、ザビアリらに囲まれていました。
先にダンシングジェミナイが先頭に立ち、これをディエゴヴェラスケスが交わすと、ラチ沿いをノータブルスピーチが猛追。最後はディエゴヴェラスケスがアタマ差凌いで初のG1タイトルを手にしました。
週の頭に馬主がクールモアからサム・サングスター氏に変更になったことが発表され、レース前日には来年から英国のナショナル・スタッドで種牡馬入りすることも報じられていたディエゴヴェラスケス。
新オーナーのサングスター氏は、ジョン・マグナ―やヴィンセント・オブライエンと共同でクールモア・スタッドを創設し、サドラーズウェルズ、エルグランセニョール、ロドリゴデトリアーノら数々の名馬を所有したロバート・サングスターの子息という人物でした。この日、ジャックルマロワ賞4回目の優勝を果たしたC・スミヨンが纏っていたのは、そんな名馬たちと同じ緑と青の勝負服。購入直後にG1タイトルという勲章を手にして種牡馬入りとは・・・。「持っている人」というのがいるものです。
残念ながら精彩を欠き馬群に沈んだ6着のアスコリピチェーノ。24日に帰国とのことで、まずは遠征の疲れを癒し、秋に備えて欲しいと思います。
一方、「次」への道が開けたのは5着に健闘したゴートゥファースト。ルーラーシップ産駒の海外での強さを改めて感じました。レース後、新谷功一調教師は「(9/7の)ムーランドロンシャン賞を目標にします」と明言。若きオーナー、トレーナー、ジョッキーの挑戦に引き続き注目です。
20日、イギリス北部ノースヨークシャー州にあるヨーク競馬場では、夏恒例のイボアフェスティバルの中核レースであるG1インターナショナルステークス(芝2050m=1マイル2.5ハロン)が行われました。
シティオブトロイが勝利し、2着にカランダガン、4着ブルーストッキング、ドゥレッツァが5着だった去年のレースは、ドバイワールドカップと並んで2024年の世界1位のレースに選ばれたインターナショナルS。今年は6頭の少頭数ながら、最新の世界ランクでベスト10内の3頭が揃う豪華メンバーとなりました。
レースは、世界ランク1位タイ・オンブズマン(牡5/W・ビュイック/英 J&T・ゴスデン)のゴドルフィンが用意したラビット(ペースメーカー)、バーキャッスル(騙5/R・ハヴリン/仏 A・ファーブル)が大逃げを打ち、残り5頭の集団の先頭に世界ランク7位タイ・ダノンデサイル(牡5/戸崎圭太/栗東 安田翔伍)、それをマークするような位置でオンブズマン、世界ランク4位タイ・ドラクロワ(牡3/R・ムーア/愛 A・オブライエン)は今回も後方で脚を溜める展開となりました。
一時、20馬身ほどのリードを広げたバーキャッスルは残り2ハロン過ぎまで先頭を譲りませんでしたが、残り1ハロンで一気に加速してきた同じ勝負服のオンブズマンがこれをあっという間に交わして先頭に立ち、そのまま押し切りました。2着は遅れて伸びてきたドラクロワ、ラビット役のバーキャッスルが3着に粘りこみました。
フランスから追加登録料を払ってまでラビット役を出走させたのはシェイク・モハメド殿下のアイデアだったというゴドルフィン陣営。オンブズマンのW・ビュイック騎手もJ・ゴスデン調教師も、レース後、ラビット役バーキャッスルの完璧な仕事に感謝を述べていました。バーキャッスルに跨っていたロバート・ハヴリン騎手は、長くゴスデン厩舎に所属しゴールデンホーンやキングマンといった名馬に調教をつけていた51歳のベテラン。チーム戦術が実った見事な勝利でした。
一方、ダノンデサイルは、直線の半ばでは脚色が一杯になってしまい5着に終わりました。
画面を通して見えたパドックでの栗毛の馬体は、研ぎ澄まされた素晴らしい出来に見えましたが、馬場入場時は興奮してしまっていたほか、道中では前に馬を置けず、内馬場の移動カメラを気にしながら走っていました。これもまた、ダノンデサイルの魅力であり伸び代。この経験を糧に、秋、少し大人になったデサイルの姿を楽しみにしています。