競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは「少し早くて少し詳しい凱旋門賞展望」です。
欧州では先週末に、アイリッシュチャンピオンフェスティバルの愛チャンピオンS(G1)と愛セントレジャー(G1)、クロワデュノールが出走したパリロンシャンのプランスドランジュ賞(G3)が行われ、10/5(日)に行われる凱旋門賞の出走メンバーが概ね出揃いました。
そこで、今年も「ウィリアムヒル」の前売りオッズを参考にして、少し早くて少し詳しい凱旋門賞の展望をお届けします!
去年のブルーストッキングを含め、過去10年で5回、過去20年で10回、牝馬が制している凱旋門賞。今年も2頭の牝馬がオッズ5.0倍の1番人気で並んでいます。
1頭目はアバンチュール(牝4/仏 C・フェルラン)。昨秋はヴェルメイユ賞、凱旋門賞ともにブルーストッキングの2着、6月のサンクルー大賞はカランダガンの2着と、G1で3度の2着が続いていましたが、前走のヴェルメイユ賞では人気のワールが最下位に沈む一方で見事に快勝。悲願のG1タイトルを手にしました。
パリロンシャンでは「2.3.0.0」。馬場も展開も問わない堅実なタイプです。去年の凱旋門賞では伏兵候補でしたが、4歳の今年は主役の1頭として、アーバンシー、シーザスターズとの親子3代制覇に挑みます。
もう1頭はミニーホーク(牝3/愛 A・オブライエン)。2着だったデビュー戦を除き5連勝中のフランケル産駒です。英オークス、愛オークス、ヨークシャーオークスをいずれも制して、2021年のスノーフォール以来となる「オークストリプル制覇」を達成しました。
「ミニーホークの本気の姿をまだ見ていません」というA・オブライエン調教師は、レースが流れた方がベストパフォーマンスを見せられると分析しています。去年は追加登録して臨んだブルーストッキングが制した凱旋門賞。ミニーホークも12万ユーロ(約1900万円)という高額の追加登録料を支払って凱旋門賞に直行する見込みです。
オッズ9.0倍、単独の3番人気に支持されているのがクロワデュノール(牡3/栗東・斉藤崇史)です。今年から古馬に開放されたプランスドランジュ賞(G3 パリロンシャン芝2000m)を本番に向けてのステップレースに選択。14日のレースでは、重馬場の中、しっかりと勝ち切ってみせました。
パートナーの北村友一騎手が「今回は調整も含めて、レースでもすごくいいパフォーマンスというところにもっていけなかった」と語る中での価値ある結果。本番を前にコースや重馬場を経験し、さらにコンディションの上積みも見込めます。
当年の日本ダービー馬が凱旋門賞に出走するのは、2013年キズナ(4着)、2016年マカヒキ(14着)、2022年ドウデュース(19着)に続き4頭目。その走りに期待が高まっています。
11.0倍の4番人気には7日のフォワ賞(G2)で1、2着だった2頭が並んでいます。フォワ賞で2着だった地元のソジー(牡4/仏 A・ファーブル)は、去年のパリ大賞、今年のガネー賞、イスパーン賞とG1を3勝。前売り1番人気に支持された去年の凱旋門賞は4着でした。
同じ4歳世代のアバンチュールとは厩舎や性別は違うものの、オーナーもシーザスターズ産駒なのも一緒。ヴェルテメール兄弟(ファッションブランド「シャネル」のオーナー)の勝負服といえば、2012年にオルフェーヴルを内から交わしたソレミアのことを忘れることができません。凱旋門賞は歴代最多8勝の名伯楽が手掛け、パリロンシャンは「5.1.0.1」という実力馬ソジーも、日本勢にとっては脅威の存在です。
一方、日本調教馬として1999年のエルコンドルパサー、2012、13年のオルフェーヴル、2021年のディープボンドに続く4頭目(5回目)のフォワ賞制覇となったビザンチンドリーム(牡4/栗東・坂口智康)。エルコンドルパサーと2度のオルフェーヴルの時は、続く本番では2着という結果でした。ソジーに半馬身差をつけた優勝タイムは2:28:32。一概に比較はできませんが、ヴェルメイユ賞やニエル賞よりも好タイムでした。
エピファネイア、シンボリクリスエス、シーザリオ、スペシャルウィーク、ジャングルポケット、フサイチエアデール・・・。日本の名馬がズラリと並ぶビザンチンドリームの5代血統表。日本競馬の夢をパリの地で叶えるのはこの馬かもしれません。
その他、追加登録が必要なヴェルメイユ賞2着馬ゲゾラ(牝3/仏 F・グラファール)と、セプテンバーSでまさかの敗戦を喫し凱旋門賞への出否が微妙なキングジョージ2着馬カルパナ(牝4/英 A・ボールディング)が15.0倍の6番人気タイ。
ヨークシャーオークスでミニーホークの3馬身半差2着だったエストレンジ(牝4/英 D・タドホープ)と、ニエル賞を勝ったクアリフィカー(牡3/A・ファーブル)が17.0倍の8番人気タイ。
ギョームドルナノ賞(G2 ドーヴィル芝2000m)を逃げ切って快勝したアロヒアリイ(牡3/美浦・田中博康)は26.0倍の評価。前走で3馬身半+アタマ差をつけ3着に下したクアリフィカーがニエル賞を勝ったことで期待が膨らみます。
2400m戦は初めてであり、前走で逃げの競馬をしたことがどう影響するでしょうか。凱旋門賞に並々ならぬ思いを持ったトレーナーの本番に向けての調整と、フランス人の名手の手綱捌きに注目です。
父は凱旋門賞の舞台に立てなかったドゥラメンテ、母の父は凱旋門賞2年連続2着のオルフェーヴル、1988年の凱旋門賞馬トニービンの4×4という血統にもロマンがあります。
また、去年の凱旋門賞3着馬でフォワ賞は4着だったロスアンゼルス(牡4/愛 A・オブライエン)や、ソフトな馬場だったら凱旋門賞に出走するとしているフォワ賞3着馬アルマカム(牡4/英 E・ウォーカー)らが34.0倍の評価。
一方、去年は3着に好走した愛チャンピオンSで6着に敗れたシンエンペラー(牡4/栗東・矢作芳人)の41.0倍という低評価は仕方ないところ。明確な敗因が不明なのが心配ですが、日本が世界に誇る名トレーナーが少ない時間でどう立て直すかも見ものです。※日本時間17日夜に凱旋門賞出走回避が陣営から発表
「少し早い」と言っても、10/5(日)の凱旋門賞当日まで、あと17日。その日は、あっという間にやってきます。日本調教馬が前哨戦で3勝して迎えるという前例のない今年の凱旋門賞。はやる気持ちを抑えつつも、ワクワクしながらその時を待とうと思っています。