競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは「今年のような皐月賞とダービーの優勝馬が不在の菊花賞は、どのような戦歴の馬が馬券に絡んでいるのか?」です。
今週末はクラシック三冠の最終戦・菊花賞です。
今年は皐月賞馬ミュージアムマイルが天皇賞(秋)に向かい、ダービー馬クロワデュノールは凱旋門賞に遠征したことで、春二冠の優勝馬が不在の菊花賞となりました。
このようなシチュエーションは、皐月賞馬ジオグリフが天皇賞(秋)に向かい、ダービー馬ドウデュースが凱旋門賞に遠征した2022年以来3年ぶりで、阪神競馬場で行われた菊花賞は、その前年の2021年も皐月賞馬エフフォーリアとダービー馬シャフリヤールがともに不在でした。
一方、京都競馬場に舞台が戻った最近2年間は皐月賞馬かダービー馬いずれかの出走がありました。一昨年は皐月賞馬ソールオリエンスが菊花賞・3着、ダービー馬タスティエーラが菊花賞・2着。去年は皐月賞馬ジャスティンミラノは不出走、ダービー馬ダノンデサイルは6着でした。
そこで、今年のように皐月賞とダービーの春二冠の優勝馬が不在の菊花賞は、どのような戦歴の馬が馬券に絡んでいるのかを過去10年で調べてみました。結論から言うと、ズバリ「三冠皆勤」の馬でした。
春の二冠馬ドゥラメンテが不在だった2015年の菊花賞は、この年の三冠皆勤だったキタサンブラック(皐月賞・3着、ダービー・14着)が優勝し、同じく三冠皆勤のリアルスティール(皐月賞・2着、ダービー・4着)が2着で、三冠皆勤馬のワン・ツー(3着は皐月賞・ダービー不出走ながら、神戸新聞杯を勝っていたリアファル)。
皐月賞馬サートゥルナーリアとダービー馬ロジャーバローズが不在だった2019年は、優勝馬こそ皐月賞・ダービーともに不出走のワールドプレミアでしたが、2着が三冠皆勤のサトノルークス(皐月賞・14着、ダービー・17着)、3着も同じく三冠皆勤のヴェロックス(皐月賞・2着、ダービー・3着)で、三冠皆勤馬2頭が馬券圏内に。
阪神競馬場で行われた上記2回の菊花賞では、2021年は三冠皆勤のタイトルホルダー(皐月賞・2着、ダービー・6着)が優勝(2着オーソクレース、3着ディヴァインラヴはともに春2冠とも不出走)。2022年は三冠皆勤のアスクビクターモア(皐月賞・5着、ダービー・3着)が優勝し、同じく三冠皆勤のジャスティンパレス(皐月賞・9着、ダービー・9着)が3着に入りました(2着ボルドグフーシュは春二冠不出走)。
過去10年で4回あった春二冠の優勝馬不在の菊花賞のうち3回で「三冠皆勤」馬が優勝し、同じく3回で馬券圏内3頭中2頭を「三冠皆勤」馬が占めていました。菊花賞のトライアルや条件戦から出走してきた馬の好走例もあるものの、やはり春二冠の舞台に立っていた馬が、その成績に関わらず、菊花賞で好走する可能性が高いようです。
では、今年の「三冠皆勤」馬はどの馬でしょうか。今年、三冠を皆勤する馬は、エリキング(皐月賞・11着、ダービー・5着)とジョバンニ(皐月賞・4着、ダービー・8着)のわずか2頭しかいません。
去年と一昨年は5頭ずつが達成していた「三冠皆勤」。実は「三冠皆勤」が2頭しかいなかったのは1984年のグレード制導入後の40年間で、1988年(ヤエノムテキとディクターランド)と1994年(ナリタブライアンとサムソンビッグ)のたった2回しかありませんでした。それ以外は少なくとも3頭以上の「三冠皆勤」がおり、今年は31年ぶりの珍事と言えます。
海外を見てみると、英国は1冠目の2000ギニーが1600m戦で、ダービー2410m、セントレジャーが2910mと距離の幅が大きい英国では「三冠皆勤」は極めて稀で、今年も1頭もいませんでした。
一方、5~6月の約1か月に三冠レースが一気に行われる米国では、今年、ジャーナリズムが「三冠皆勤」を達成(ケンタッキーダービー・2着、プリークネスS・1着、ベルモントS・2着)した他、2016年には日本調教馬ラニも「三冠皆勤」を果たしています(ケンタッキーダービー・9着、プリークネスS・5着、ベルモントS・3着)。
「三冠皆勤」は、異なる舞台を、春も、夏を越した秋も、好成績を残した状態で走ることが出来るコンディションにあるからこそ達成できる勲章だと言えるでしょう。2歳時の骨折を乗り越えての「三冠皆勤」となるエリキングと、春二冠と前走は思うような結果ではなかったもののデビューからタフに走っての「三冠皆勤」となるジョヴァンニ。「皆勤賞」への敬意も込めて、菊花賞は、この2頭に注目しようと思います。