競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』の主題歌・玉置浩二さんの「ファンファーレ」について。
話題のドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』。競馬の世界を舞台にした壮大なストーリーに、涙しながらご覧になっているという方も多いのではないでしょうか。舞台となる北海道日高の牧場や競馬場の風景の映像美と豪華な俳優陣による好演。私も毎回、画面に引き込まれています。
そして、風景の美しさをより効果的に演出し、登場人物の心情を表現しながら、見ている私たちの感情も増幅してくれているのが劇中で流れてくる音楽です。なかでも、毎回エンディングにかけて流れるドラマの主題歌は、個人的に名曲中の名曲だと思っています。
今回は、原作者の早見和真さんが『楽曲版』ザ・ロイヤルファミリーだと表現した玉置浩二さんの「ファンファーレ」について語らせてください。
楽曲の作詞・作曲を手掛け自ら歌っている玉置浩二さんは北海道旭川出身です。1年の半分以上が雪で、馬も身近な存在だったという玉置さんは、自分自身の幼少期を重ねて楽曲を作ったのだといいます。
馬が小さい頃から育てられ成長する姿に人生をオーバーラップし、勝ち負けではなく、そのままの自分でまっすぐに向かっていく大切さを歌っている玉置さん。曲名の「ファンファーレ」には祝福や祝賀の意味合いがあり、「この曲を聴く全ての人の人生に祝福あれ」という思いが込められているそうです。
その歌詞は、物語の登場人物の目線が次々に入れ替わって展開しているように解釈できます。1コーラス目の前半は主人公・栗栖栄治の目線。後半は栗栖に対する山王耕三の目線。2コーラス目前半は“馬”からの目線。野崎加奈子や、山王耕一からの目線・・・。
決して長くはない歌詞の中で、物語のストーリー展開と、登場人物の心情が次々と表現されているのは奇跡的です。
そして、歌詞によって描かれた世界観は、疾走感溢れるリズムとメロディーラインに乗って生き生きと描かれ、物語の中での重要なレース「有馬記念」が楽曲で再現されているかのようです。
静かな中にも高揚感を含んでいる1コーラス目の前半。サビに入っての最初の盛り上がりでは1周目スタンド前の歓声が聞こえてきます。
再び向正面に入り、ラップ12秒の淡々としたペースながら緊張感いっぱいで進んでいくと、2コーラス目のサビはレースの勝負どころです。メジャーコードをベースとしたサビ前半は2周目3コーナー過ぎを思わせ、「千切れた手綱と~」でマイナーコードに転調したところは、最後の急坂におけるクライマックスが目に浮かんできます。
懸命に追う騎手、それに応える競走馬、祈りを込めて力が入る関係者、大歓声のファン・・・。まさに「ファンファーレ」は歌の有馬記念です。
さて、ギターで表現された競走馬の疾走感とともに印象的なのが冒頭の管楽器の音色ではないでしょうか。近代競馬の発祥地イギリスや競走馬のルーツもイメージさせ、日高の牧場や競馬場の風景の美しさが鮮やかに表現されています。楽曲とともに、そのアレンジも見事というしかありません。
そこで最後にアレンジャーの話。「ファンファーレ」のミュージックビデオ(MV)では、歌っている玉置浩二さんの背後で、サラブレッドの映像とともに、約30年前のヒット曲「田園」のMVが映し出されます。「ファンファーレ」が描く疾走感に同じくドラマ主題歌だった「田園」がオーバーラップしたという方もいるかもしれません。
実は「田園」をプロデュースした須藤晃さんと、「ファンファーレ」の編曲を担当したTomi Yoさんは「親子」。玉置浩二さんの『楽曲版』ザ・ロイヤルファミリー「ファンファーレ」は、物語の大きなテーマ「親子」と「継承」によって誕生していたのです。
