亀谷敬正 オフィシャル競馬サロン
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黄金旅程な週末
2024/01/18 (木)

#01 応援するのはステイゴールド一族。買う馬券も一族絡みのものが主だ/黄金旅程な週末

小説『不夜城』や『少年と犬』などで知られる作家・馳星周さんによる競馬エッセイ『黄金旅程な週末』。

ステイゴールドとその一族の熱烈なファンである馳星周さんの奮闘振りをお楽しみください。



 わたしと妻は週末は必ずふたり揃ってテレビの前に陣取り、中央競馬中継に見入ることになっている。応援するのはステイゴールド一族。買う馬券も一族絡みのものが主だ。

 ふたりとも競馬歴七年。示し合わせたわけでもないのに、なぜだかお互いにステイゴールドの血を引く馬たちに魅せられ、一緒に応援するようになった。

 わたしのギャンブル歴は長く、一時期は競輪にどっぷりとはまり、妻にはとても言えないほどの金額をぶっ込んでは負けることを繰り返していた。帯封の三つや四つを受け取って帰った記憶は何度かあるのだが、それではとても足りない。

 妻はギャンブル素人だ。馬券に多額の金を費やすなどありえないと思っている。夫婦で楽しむのだから、ここは妻に合わせる必要がある。だから、わたしたち夫婦が買うのは豆券のみだ。最初は不満だったが、もう慣れてしまった。馬券で儲けるのではなく、ステイゴールド一族を応援することが本線だからである。

 1月13日も、朝から夫婦で競馬三昧である。朝イチからスポーツ新聞を広げ、ああでもない、こうでもないと共同で予想をはじめる。三場開催で一族の出走頭数も多い。

 妻の気合いも入りまくりで、京都1Rから一族の馬券を買いはじめる。しかし、まったく走ってくれない。来ても掲示板がやっとだ。

 妻はギャンブル向きのメンタルの持ち主ではないので、外れが続くと心が折れてしまう。

 とどめは小倉の6R。ゴールドシップ産駒が四頭出走する。そのうちのウインマイルートの馬券内は固い。マイルートから他の三頭に流すワイドを買った。しかし、マイルートは道中最後方。直線上がり最速で突っ込んで来るも4着まで。やってくれたな、佐々木君。一番やっちゃダメな騎乗じゃないか。

 妻の心が完全に折れる音がはっきりと聞こえた。なんとかしないと、一日中気まずい雰囲気の中で競馬を見ることになる。

 中山6Rにも一族が大挙していた。馬券の中心はルメールが乗る一番人気のヘデントール。コルコバードの子で母父はもちろん、ステイゴールド。だが、馬券内に来そうな他の一族を相手にすると、ワイドではオッズがもらえない。

「ショウナンナツゾラとの馬連一点で勝負しようか?」

 わたしは言った。どうせ負けても百円だ。もし、二頭でワンツーなら今までの負け分を取り返してお釣りが来る。

「そうね。馬連しかないもんね」

 妻の声には覇気がない。ここで来てくれないとほんとにマズいぞ、一族よ。

 レースは向こう正面でポジションを押し上げたナツゾラが3コーナー過ぎで先頭に立った。手応えはいい。これなら馬券内は確実だ。ヘデントールが一頭だけ違う脚で追ってきてナツゾラを交わし、ゴールへ向かう。ベンサレムという馬がナツゾラに迫って来た。

「残せ、ナツゾラ!」

 テレビに向かって夫婦で叫ぶ。我々が住んでいるのはオフシーズンの別荘地だ。どれだけ叫んだって苦情が来ることはない。

 ナツゾラがなんとかしのいで2着を死守。馬連の配当は20倍と少し。目論見どおり、負け分を取り返してたっぷりお釣りが来た。

「ショウナンバッハの子は頭数少ないけど、よく走るわよね」

 妻が言う。折れた心も元に戻った。一族の1着と当たり馬券ほどよく効く薬はない。

「な。だから、諦めちゃだめなんだよ」

 そういうわたしの声はゴール前で叫びすぎて枯れていた。

 資金と心に余裕ができたおかげで、午後の競馬はスムーズに進んだ。一族が走らなくても、もう、妻の心が折れることはない。

 この日のハイライトは中山最終。母父オルフェのエコロレジーナで勝負する。相手をどうするか迷っていると、妻が新聞から顔を上げた。

「ピンクセイラーがいい。名前がいいし、キングさん乗るし」

 妻の馬券は基本、ひらめき馬券だ。真面目に検討して来そうにないと思う馬でも、妻が名前を挙げたら買うことにしている。往々にして来るのだ。かつてはワイドで万馬券を的中させたこともある。女性の勘を侮ってはならない。

 レースはエコロレジーナが馬群をこじ開けて1着でゴール。ピンクセイラーが末脚鋭く伸びてきて3着。ね? 女性の勘はおそろしい。4-8のワイドは24倍なり。この日は回収率200パーセントで競馬を終えることができた。昨年12月が目も当てられない成績だったので嬉しいことこの上ない。我々の馬券が当たるということは、一族が好走したということなのだ。

 翌日曜日は、好走しそうな一族があまり見当たらないのと、わたしの仕事が押しているので、京成杯だけ、馬券を買うことに。コスモブッドレアとマイネルフランツのゴールドシップ産駒が出走する。

 別名ステイゴールド新春杯の日経新春杯に一族の名がないのは寂しい限りだ。

 わたしの本命はブッドレア。フランツとともに、中山は不得意な血統構成ではあるのだが、この面子で十番人気とは舐められすぎではないか。鞍上も石川騎手なら一発やってくれてもおかしくない。

 馬券の相手はアーバンシック。ブッドレアとはワイド、フランツとはワイドがあまりつかないので馬連と他の馬を絡めた三連複を二点。

 ブッドレアが好スタートを決めて二番手を確保。直線で先頭に立って押し切るかに見えたが、ダノンデサイルとアーバンシックに交わされて3着まで。それでもワイドは当たったし、一瞬とはいえ、夢を見させてもらった。

 中山でこの走りができるなら、府中じゃもっとやれるはず。クラシックはわからないが、古馬になって目黒記念、別名ステイゴールド記念に出てきたら思いきり勝負してやろう。

 というわけで、久々に土日とも大幅なプラスで終わるという嬉し楽しな週末だった。

 来週もこれに続こうと思ったら、え? AJCCに一族の登録ないの? バビットがダート? 仕方がないので、来週は小倉で勝負しようかな。

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馳星周 近影

馳星周

1965年北海道浦河町生まれ。1996年『不夜城』で小説家デビュー。2020年『少年と犬』で直木賞受賞。

馬産地で生まれ育ったがゆえに馬を嫌い、長らく競馬とは無縁で過ごしてきたが、七年ほど前から夫婦で競馬にはまり、ステイゴールド一族を応援する日々を送る。好きが高じて競馬小説も書きはじめ『黄金旅程』、『ロスト・イン・ザ・ターフ』などを上梓。2024年春、凱旋門賞を目指すホースマンたちを描いた『フェスタ』を刊行予定

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