当連載は競馬AIの作者を、単行本『AI競馬 人工知能は馬券を制することができるか?』の著者・城崎哲氏と元『競馬王』編集長・柿原氏がインタビューし、城崎氏が対談形式にまとめたものです。
なお、インタビューに登場する赤兎馬氏のAIコンテンツは『競馬放送局』にて公開中です。
赤兎馬の“着順確率AI”と“高期待値厳選馬”という二つの商品の概要については、連載の1回目で簡単に触れた。また3回に渡り、最近の赤兎馬の競馬AIの進化について語ってもらった。
今回はそれが二つの商品にどう反映しているかを見るとともに、二つの商品の使い方について話を聞く。
“高期待値厳選馬”がリストで提供される理由
城崎(以下、J):「競馬放送局に提供している“着順確率AI”と“高期待値厳選馬”の二つの商品は、どちらもディープラーニングで算出したものなんですか?」
赤兎馬(以下、赤):「そうです。どちらも埋め込み層を使う方法です」
J:「ディープラーニングに変えてすごく成績良くなったとおっしゃいましたが、両方とも良くなったんですか?」
赤:「両方ともですが、特に良くなったのは“儲かる指数”=“高期待値厳選馬”のほうですね。“着順確率AI”の方は、たとえば各レースの予測勝率1位の馬の勝率はやや下がり、回収率がやや上がりました」
J:「学習に使っている特徴量はどちらも同じようなもので、目的変数を変えているだけ、と考えていいんですか?」
赤:「その通りです。“着順確率AI”は着順自体を目的変数として設定しているのに対して、“高期待値厳選馬”は回収率が高い馬を見つけられるように学習させた“儲かる指数”が元になっています。
ただし、確率的にプラスになると言えるような“儲かる指数”を持った馬は3~4レースに1頭の頻度で出現するかどうかですし、数値を羅列しても使い勝手はよくないと思うので、“高期待値厳選馬”の方は、指数ではなく該当馬のリストという形で提供しています」
“着順確率AI”が見せる洞察力
赤:「“着順確率AI”は下記のような形で販売しています。これは2021年のスプリンターズSの出走馬を3着内確率の順に並べたものです」
※表1 2021年スプリンターズSの着順確率AI。1着率、2着率、3着率に並んで、カッコ内の数字で1着内率、2着内率、3着内率が書かれている。表は3着内率の大きい順に並んでいる。
J:「ズバリ確率として出しているところがいいですね」
赤:「ピクシーナイトとレシステンシアの評価が逆だったら最高だったんですけど」
J:「でも1番人気のダノンスマッシュよりピクシーナイトを上に見ているのはちょっと面白いですね。3歳馬が強いということだと思いますけど。それと枠もあるのかな。10番人気のシヴァージが5番手評価というのも枠のプラスが大きいんじゃないかな。AIらしくあっちこっち冷静に目配りしている感じがありますね」
“着順確率AI”から組み合わせ馬券の確率を算出する方法
J:「“着順確率AI”のように、1着確率、2着確率、3着確率をそれぞれ出したいというのは以前もおっしゃってましたね」
赤:「最初からそれはしたいと考えていました。そうすることによって各馬券の発生確率がだいたい計算できるので、オッズと見比べて適切に金額を配分できますから」
J:「スプリンターズSを例に、“着順確率AI”の実際の使い方を解説してもらえますか?」
赤:「そうですね。まずすべての馬券種に対して、『期待値=オッズ×馬券の出現確率』が成り立ちます。期待値が1以上になるかどうかが、その馬券の購入に踏み切るかどうかの分水嶺になると思います。
たとえば単勝について考えると、1番人気のダノンスマッシュは単勝確率が0.17(17%)、単勝オッズが2.6倍なので、
ダノンスマッシュの単勝期待値=2.6×0.17=0.442
つまり、期待値が1よりだいぶ低いので、これは買っても儲からない馬券だとわかります。他の馬の単勝期待値も同様の計算で、レシステンシア0.918、ピクシーナイト0.808、モズスーパーフレア1.683…と簡単に出せます。単勝を買うならダノンスマッシュよりレシステンシアに期待したほうがリーズナブルだったようです。
また、単勝複勝以外の組み合わせ馬券の出現確率、それぞれの期待値も簡単な掛け算で概算できます。その馬券が買えるか・買えないか、どれくらいの金額なら買ってもいいのか…の判断基準として積極的に使ってもらいたいです」
※組み合わせ馬券の出現確率の計算方法についてはページ下部(※1)を参照。スプリンターズSの着順上位馬の組み合わせを例に取って計算例を示しておく。参考にしてほしい。
何も考えなくても使える“高期待値厳選馬”
柿原(以下、K):「“高期待値厳選馬”のほうはあまり考えなくても使えそうですね」
赤:「こちらは長期的にみて、単勝、複勝を買い続ければ勝てる可能性が高い馬をピックアップしたものなので、ベタ買いでもプラスするようなリストになっているハズです。単勝、複勝の対象馬と単純に考えてもらっていいのですが、“高期待値厳選馬”を軸に、“着順確率AI”の上位馬に流して組み合わせ馬券を作るやり方もあると思います」
K:「将来AIの指数がバーッと出揃ってきた時に、ユーザーがそれぞれのAIの指数を複数買って、それを組み合わせてオリジナルの指数を作るみたいな時代がやってきそうですね」
当コラムは今回で終了となります。次回企画スタートにもご期待ください。
(※1)“着順確率AI”を使った馬券の概算確率の計算方法
スプリンターズSの当たり馬券を例に、“着順確率AI”を元に計算した場合、その馬券の出現確率がどれくらいだったか、期待値はいくらだったかを概算で示す。券種によって期待値に大きな差があることがわかる。
馬単4→12
0.13×0.16=0.0208(=2.1%)
19.1×0.0208=0.397
馬連4-12
0.23×0.43=0.0989(=9.9%)
8.9×0.0989=0.88
ワイド4 -12
0.37×0.46=0.1702(=17%)
4.6×0.1702=0.78
ワイド1-4
0.22×0.37=0.0814(=8%)
27.6×0.0814=2.25
ワイド1-12
0.22×0.46=0.101(=10%)
20.3×0.101=2.05
三連複1-4-12
0.22×0.37×0.46=0.03744(=3.7%)
90.5×0.03744=3.38
三連単4→12→1
0.13×0.16×0.07=0.00146(=0.15%)
386.1×0.00146=0.562
馬単および馬連の計算を厳密にしようとする場合、
馬単A→B=馬Aが1着になる確率×馬Bが2着になる確率/(1-馬Aが2着になる確率)
このように計算する理由は、「イメージとしては馬Aが1着になる、とした時点で馬Aが2着になることはないので、2着確率全体(=1)からそのケース(馬Aが2着の確率)を除いた分だけ相対的に馬Bの2着確率が上がるわけです」(赤兎馬)。
したがって、
馬単4→12
0.13×0.16/(1-0.1)=0.0231(=2.3%)
馬単12→4
0.27×0.1(1-0.16)=0.0321(=3.2%)
馬連の4-12は、馬単の4→12と12→4の確率の和なので、
馬連4−12
2.3+3.2=5.5(%)
と計算される。概算の馬連の確率と比べると少々誤差があるが、そこは割り切るしかない。ワイドや三連系も同様だ。
▼赤兎馬プロフィール
2015年東京大学大学院情報理工学系研究科修了。2017年夏の競馬観戦をきっかけに競馬にのめり込む。2017年冬より独自指数の開発をはじめ、その後着順予測AIを開発しTwitterやnoteなどのSNSで活動中。
競馬AIを特集した競馬王2020年7月号や業界初の競馬AI単行本、城崎哲著『AI競馬』(ガイドワークス)に登場。ロボットAIエンジニアとして日々最新技術に触れ、それらを取り入れた独自の競馬AIは日々進化中。