競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。今回のテーマは「砂漠と石油の国のゴールドラッシュ」です。
日本時間の24日深夜から25日未明にかけて、サウジアラビアの首都リヤド近郊にあるキングアブドゥルアジーズ競馬場で「サウジカップデー」が開催されました。当日、グリーンチャンネルの中継をご覧いただいた皆様、夜遅くにも関わらず、ありがとうございました。
5回目を迎えて創設当初に比べると成熟してきたとはいえ、まだまだ歴史の浅い異国の地の競馬開催。日本や他の海外競馬と比べると、やはり進行や主催者からの情報の面で大きく勝手が違いました。
いきなり発走が予定より大幅に遅れた3歳馬によるダート1600m戦サウジダービー。遅れの理由も、どれくらい遅れるかの情報も、現地主催者からは一切入ってきませんでした。
結局25分程度の遅れで発走になったレースは、フォーエバーヤングが米国ブッケムダノとの大接戦を制して優勝。去年はフロムダスクが9着だった藤田晋オーナーは嬉しい海外初タイトル。“The man in the hat”矢作芳人調教師の帽子のリボンも、久子夫人の美しい着物の色も、藤田オーナーの勝負服色「エンジ」でした。
これでデビューから4連勝。サウジダービーは「ROAD TO THE KENTUCKY DERBY」の対象レースではないため、対象レースのUAEダービーでポイントを加えて、ケンタッキーダービーに向かうとのこと。フォーエバーヤングは米国競馬史を代表する三冠馬セクレタリアトの血脈を6.25%(5×5)も持っている馬なだけに、ワクワクします。
発走時刻の遅れは3歳以上のダート1200m戦リヤドダートスプリントでも改善されませんでした。去年のレースでは「騎手・福永祐一」のラストライドのパートナーとして3着だったリメイクが、今年は川田将雅騎手を背に一年越しのリベンジ。米国クラシックを皆勤し“Godzilla(ゴジラ)”と呼ばれたラニの産駒が優勝したことは、オーナーの喜びもひとしおだったことでしょう。
いくぶん発走時刻の遅れを取り戻す気配が見られた1351ターフスプリント。でも、依然として現地主催者から何時の発走を目指しているかなどの情報は入りません。こうなりゃ出たとこ勝負です(笑)。
レースは英国調教馬アナフが優勝。クリスチャン・デムーロが騎乗した斉藤崇史厩舎の6歳牝馬ララクリスティーヌが末脚を伸ばして2着に健闘。レース後、これがラストランだったことが明らかになりました。ミッキーアイル産駒の牝馬はメイケイエールも次の高松宮記念がラストラン。どんな母親になるのか、今から楽しみです。
芝2100m戦のネオムターフカップの頃には、発走時刻の遅れは一気に挽回。この唐突さにも驚かされました(笑)。
レースは、ここもクリスチャン・デムーロ&&斉藤崇史調教師のタッグだったキラーアビリティが2着。ディープインパクト産駒の2歳GI馬が実力を示しました。
国際映像で印象に残ったのは、勝利し歓喜する英国調教馬スピリットダンサー陣営。頬を紅潮させている眼鏡の姿の年配男性に見覚えが・・・。その男性こそ、サッカー・イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドを27年間率いた名将アレックス・ファーガソン。優勝馬スピリットダンサーは、“サー”ファーガソン氏が生産し所有する愛馬だったのです。
管理するリチャード・フェイヒー師によると、次走はドバイシーマクラシックに向かうとのこと。サッカー好きの競馬ファンからも注目を集めそうです。
「サウジカップ定時に戻る」と確信するほど、ほぼ遅れを取り戻しての発走となった芝3000mのレッドシーフターフハンデキャップ。
残念ながら日本調教馬は結果が出ませんでしたが、勝った馬の名前に聞き覚えが。藤澤和雄厩舎が管理するゴドルフィンの所有馬で今は種牡馬になっているスプリンターズS優勝馬「タワーオブロンドン」と同じ名前だったのです。ただ、こちらはクールモアが所有するエイダン・オブライエン厩舎のガリレオ産駒という、まったく真逆の“スタミナタイプ”でした(笑)。
そして、本当に定時の発走に戻ったメインのサウジカップ。結果は皆さんご存知の通りです。
ウシュバテソーロ、本当に惜しかった! 下唇を噛んで遠くを見つめる高木登調教師の表情が印象的でした。ディフェンディングチャンピオンとして臨むドバイワールドカップで、ぜひ、サンダースノー以来の連覇を果たして欲しいと思います。
それにしても、「(優勝した)セニョールバスカドールは、“ミスタープロスペクター”という意味なんですよ」というエピソードを解説の合田直弘さんから聞いた瞬間は、体がゾクッとしました。
英語でMr. Prospector、スペイン語でSenor Buscadorは「探鉱者」。大種牡馬ミスタープロスペクターの馬名は、母名Gold Digger(金鉱採掘者)に因んでいます。一方、セニョールバスカドールの父はMineshaft(採掘のための坑道)。
セニョールバスカドールの血統表を見れば、父マインシャフトはエーピーインディ系ながら、ミスタープロスペクターの3×4(18.75%)という馬。亀谷競馬サロンで公開された過去の好走馬の傾向通りの血統でした。
砂漠と石油の国で行われた世界最高賞金レースに世界中から名うての競走馬が集結した“ゴールドラッシュ”。賞金1000万ドルという“金塊”を掘り当てたのは、その名前も血脈も「探鉱者」という、勝つべくして勝った競走馬、セニョールバスカドールでした。