競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは「競走馬の時速」です。
29日、中山競馬場でスプリンターズステークスが行われます。
同じ芝1200mのGIレースである高松宮記念とともに「電撃の6ハロン」などと呼ばれますが、それぞれのレースレコードは、どちらも1分06秒7。スプリンターズSは2012年のロードカナロア、高松宮記念は2016年にビッグアーサーがマークしたタイムです。
ただ、1996年のGI昇格後、高松宮記念(当初は高松宮杯)の優勝タイムが1分8秒を切ったのは過去6回しかなく、最近5年間では1度もないのに対し、スプリンターズSは同じ1996年以降で14回、最近4年間でも2回、1分8秒を切っているので、スプリンターズSを「日本一速いGIレース」と言って問題はないでしょう。
ところで、グリーンチャンネルやJRAのサイトなどで見ることができる、JRAの公式レース映像にトラッキングシステムによるCGが表示されるようになってから、まもなく1年になろうとしています。各馬の位置取りや、先頭馬の速度(時速)をはじめ、最近では上位馬の服飾と単勝オッズなども表示されています。
なかでも、私が注目しているのが、先頭馬の速度(時速)の表示です。これまでは、「1ハロン〇秒」というかたちでのみ判断してきた競走馬の速度を、実生活で使うものと同じ「時速」で示されることは新鮮でした。
2002年の第2回アイビスサマーダッシュ(GIII)でのカルストンライトオ(56㎏)がマークした芝1000mの日本レコードは53秒7。この時、外ラチ沿いを飛ばしていたカルストンライトオが残り400mから後続を突き放した1ハロンのラップタイムは9秒6で、これを時速に直した「75.0km/h」が日本競馬史上の最高時速とされています。
同じアイビスSDでは、2010年に53秒9で逃げて勝利したケイティラブ(54㎏)の200~400mの1Fのラップタイムが9秒9で、時速は「72.7km/h」でした。
また、芝1200mの日本レコードは2022年7月に小倉で行われたCBC賞(GIII)で今村聖奈騎手が騎乗したテイエムスパーダ(H48㎏)がマークした1分05秒8ですが、逃げたテイエムスパーダの200~400mの1Fのラップタイムは10秒0。時速は「72.0km/h」でした。
では、スプリンターズSでの最高速度はどれくらいかを見てみると、ロードカナロアが2012年に1分06秒7のレース&コースレコードを記録した時、レースを引っ張っていたパドトロワ(8着)が200~400mの1Fを10秒1で走っており、時速に直すと「71.3km/h」になりました。
この「10秒1」がスプリンターズSにおける1Fの最速ラップタイムなのですが、いずれも200~400mの1Fで2005年、2019年、2022年のスプリンターズSでも同じ「1F 10秒1」が計測されています。「時速71.3km/h」で先頭を走ったのは2005年がカルストンライトオ(10着)、2019年がモズスーパーフレア(2着)、2022年がテイエムスパーダ(15着)。同じ馬名が何度も登場するのが興味深いところです。
しかし、これらの数字は1Fのラップタイムから算出した一定距離間の平均値にすぎず、実際は瞬間的にもっと速いトップスピードが出ていたと考えられます。トラッキングシステムなら、あくまでも先頭の馬の速度ではあるものの、瞬間的な時速が計時されるので、よりリアルな数字を見ることができます。
モズメイメイが勝った今年のアイビスSDで内目の枠から果敢に先頭に立った藤田菜七子騎手のマウンテンムスメは200m過ぎに「時速74.0km/h」を出していました。
重馬場だった今年の高松宮記念の最高トップスピードは68km/hほどでしたが、良馬場で行われた同じ中京芝1200mのCBC賞では、先行争いがつづいていた200mすぎに一瞬「72km/h」が表示されていました。
「日本一速いGI」スプリンターズS。
トラッキングシステムの本格導入は去年秋の東京・京都開催以降でしたので、トラッキングシステムによって様々なデータが表示されるスプリンターズSは今度のレースが初めてです。かつてないほどの高速馬場となっている今開催の中山の芝コースで、一体どんな「時速」が計測されるのでしょうか。今年は馬券以外にそんなことも注目してみたいと思います。
特に「200m過ぎ」は必見です。