プロ馬券師・双馬毅氏が実践例を交えながら馬券理論を解説する『双馬毅の“ローテ×血統”錬金術』。今回は「新種牡馬雑感」をお届けします。
なお、『競馬放送局』では双馬氏の推奨レース(予想)、特選リストを公開しております。今週末の予想にもぜひご期待ください!
双馬:今週から数回に分けて新種牡馬についての見解をまとめたいと思います。新種牡馬限定の成績は現時点で以下のようになっています(データはすべて2023年12月24日終了時点のもの)。
──スワーヴリチャードが圧倒的ですね。逆に、期待されていたレイデオロは秋以降にようやく勝ち始めたという印象です。
双馬:なので、まずはスワーヴリチャードとレイデオロを取り上げたいと思います。
──同世代のライバルだった2頭がどういう種牡馬になったか?ということですね。
双馬:2頭とも最近の種牡馬のなかでは“かなり特異な”成績を残したので、この対比は非常に面白いと思います。
──それではスワーヴリチャードからお願いします。
【スワーヴリチャード】
双馬:スワーヴリチャードは、とにかく産駒の平均点が高いですね。6月の段階で言いましたけど、まとめる力がズバ抜けているんです。勝利数で見れば、産駒数の多いキズナやエピファネイアに負けるんですけど、勝率、複勝率に関してはトップレベルです。
特筆すべきは、24勝のうちノーザンファーム生産馬が8勝だけという点です。ノーザンファームの繁殖牝馬に頼っているわけじゃなく、日高の繁殖牝馬につけても勝たせられるということは、単純に種牡馬としての能力が高いと言えます。
ノーザンファームの繁殖牝馬につけてどれだけ勝てるかというのが近年の良い種牡馬の条件だったんですけど、スワーヴリチャードはそのレベルを超えています。繁殖の質を問わずこれだけ勝たせられる種牡馬はサンデーサイレンス以来じゃないでしょうか。
──最上級の褒め言葉ですね。でも、ステイゴールドだって日高の馬を走らせましたよね?
双馬:ステイゴールドは走る馬と走らない馬の差が大きくて、平均点は高くありませんでした。オルフェーヴルもそうですよね。スワーヴリチャードはどんな繁殖牝馬につけても平均点以上を出せるというのがすごいんです。
──なるほど。そう言われたらそうですね。
双馬:スワーヴリチャードのまとめる力を最も表しているのが馬体重です。スワーヴリチャード産駒には極端に小さい馬や極端に大きい馬が少ないなって思っていたんですけど、データを調べたら実際にそうでした。新馬戦で419kg以下だった馬は4頭しかいません。これってかなり少ないんです。
同じくらい出走数のあるモーリスとブリックスアンドモルタルは10頭、レイデオロは9頭いますから。つまり、小さい繁殖牝馬につけてもある程度のサイズに仕上げてくれて、大きい繁殖牝馬につけても大きすぎないサイズに収めているんです。
例えば、母父ハービンジャーだとサイズが大きくなりすぎることがあるんですけど、スワーヴリチャードはそれをうまくまとめています。ダンチヒ、デインヒル、ハービンジャーを持っている産駒が好成績を残しているというのは、そういう相性の良さがあるんだと思います(※取材後、母父ハービンジャーのレガレイラがホープフルSを勝利しましたが、母であるロカはデビュー時500kg、レガレイラは452kgでした)。
また、サンデークロスだと小さい馬が生まれてくるリスクがありますけど、スワーヴリチャードがそれを軽減してくれるというのもポイントです。実際に、母父オルフェーヴルのコラソンビート、母母父ダンスインザダークのレガレイラがサンデーの3×4で結果を出していますからね。まだいないですけど、母父ディープとの配合で、サンデーの3×3というのもアリかもしれません。
──馬券で狙う上でのポイントがあったら教えてください。
双馬:「距離適性」「得意ローテ」「得意条件」をまとめておきましょう。
<距離適性>
双馬:1200mから2000mまでまんべんなく成績を残しています。スワーヴリチャードの仔が1200mでバンバン勝つなんて誰も思っていなかったはずですから、これは種牡馬として優秀な証拠です。スワーヴリチャード自体にスピードがあって、完成度も高くて、母父の良さも出せるということですから。本当にオールマイティーです。
しかも、平均点が高いだけじゃなく大物も出していますから、この点に関しても、今まで出てきたサンデー系種牡馬のなかで最もサンデーサイレンスに近い成績と言っていいんじゃないでしょうか。
<得意ローテ>
双馬:スワーヴリチャード産駒の適性は母父に影響されます。これはサンデー系の優秀な種牡馬の特徴です。なので、延長ローテが得意か短縮ローテが得意かは母馬の血統によって変わります。父のハーツクライは主張が強いので短縮ローテが苦手な馬が出やすいんですけど、スワーヴリチャードの場合は母方がスピード血統だったりすると短縮に反応します。
なぜそうなるかと言うと、ハーツクライ産駒よりも完成度が高いからです。スワーヴリチャード産駒には、ハーツクライ産駒の若駒に見られるトモの緩さがありません。だから2歳戦から結果を残せているんです。
<得意条件>
双馬:得意な条件は2戦目です。勝率23.3%、複勝率60.5%、単勝回収率352%、複勝回収率154%ですから、異常じゃないですか。
──2戦目でパフォーマンスを下げるハーツクライ産駒と違うんですね。
双馬:これがノーザンファーム生産馬限定の数字なら他の種牡馬でもありえるんですけど、そうじゃないのにこれは驚異的です。
また、昇級戦にも強くて、勝率は21.4%、複勝率は64.3%です。単勝回収率は67%と高くないですけど、複勝回収率は145%あります。ハーツクライ産駒だとペースが上がるのが苦手なので昇級戦で苦戦する馬が多いのに、スワーヴリチャード産駒はそれすらも飛び越えていくんです。
──スワーヴリチャード産駒は3歳以降も活躍しそうですか?
双馬:活躍すると思いますよ。完成度が高いというのは3歳戦でもアドバンテージになりますから。種付け料が200万円から1500万円に上がって繁殖の質は確実に良くなるので、成績が良くなることはあっても、悪くなることはないんじゃないでしょうか。
──続いてレイデオロをお願いします。
【レイデオロ】
双馬:レイデオロは芝で12勝、ダートで2勝を挙げていますが、芝よりもダートのほうが複勝率と複勝回収率が高くなっています。産駒がデビューした段階で「キングカメハメハは母系の特徴を引き出す種牡馬なので、レイデオロはシンボリクリスエス、シーキングザゴールドの影響が強く、ダート色が濃い」と言いましたが(第109回を参照)、その通りの結果になりそうです。
こちらも「距離適性」「得意ローテ」「得意条件」をまとめていきます。