6月4日、イギリスのエプソム競馬場で行われた第243回オークス(G1・12ハロン6ヤード)で新たな記録が達成された。すでに報道されているとおり、ディープインパクト産駒のSnowfallが「16馬身差」で優勝したのだ。(※レース映像)
これまでのオークス史上最大の着差は、レース実況でも言及していたように、1983年のSun Princessが記録した「12馬身」。ちなみに、同馬の娘・バレークイーンは日本に輸入され、フサイチコンコルド(日本ダービー)、アンライバルド(皐月賞)、ボーンキング(京成杯)の母となり、孫以降の代からも多くの活躍馬を出してノーザンファームの主力牝系となっている。
英クラシック史上最大の着差は、日本でいえば幕末の、1859年の1000ギニーでMayonaiseが記録した「20馬身」。ただ、当時は目測であり、ゴール前の写真も残っていないので、正確にこの着差だったかどうか客観的な証拠はなく、当時の開催委員の眼力を信じるしかない。
Snowfallは2歳時にフィリーズマイル(英G1・芝8ハロン)で3位入線。しかし、のちに僚馬Mother Earth(英1000ギニー優勝)とゼッケンを取り違えていたことが判明し、両者の着順を入れ替えて8位入線のMother Earthが3着、3位入線のSnowfallが8着で確定した。2歳戦が終了した時点で7戦1勝とまったく目立つところのない馬だった。
しかし、4歳緒戦のミュージドラS(英G3・芝10ハロン56ヤード)を3・3/4馬身差で逃げ切り、距離が延びて一変したレースぶりを披露すると、さらに距離が延びた英オークスで歴史的な圧勝劇を演じた。もちろん、2歳戦が終わってから約半年間の休養期間に、大きく成長した部分もあっただろう。
ディープインパクトは、先週行われた日本ダービーで7頭目の優勝馬を出したばかり。父サンデーサイレンスと並んで日本競馬史上最高の種牡馬といっていいだろう。海外における実績も非凡で、ヨーロッパのクラシックレースはこれで5勝目。ごくわずかな産駒しか走っていないにもかかわらず、これだけの実績を残しているのだから尋常ではない。
2012年 仏オークス Beauty Parlour
2018年 英2000ギニー Saxon Warrior
2018年 仏ダービー Study of Man
2020年 仏オークス Fancy Blue
2021年 英オークス Snowfall
Saxon Warrior、Fancy Blue、Snowfallの3頭は母方にSadler’s Wellsを持っている。イギリスでクラシックを勝ったSaxon WarriorとSnowfallはいずれもクールモアグループの所有馬なので、同グループのエース種牡馬であるGalileo(父Sadler’s Wells)を母の父に持っている。
競馬は国ごとに特色があり、繁栄している血も違う。ディープインパクトは基礎能力がきわめて高く、日本向きの繁殖牝馬を交配すれば日本向きの、ヨーロッパ向きの繁殖牝馬を交配すればヨーロッパ向きの超一流馬を出す能力がある。つまり、仮にどの国で繋養されていたとしても成功していた可能性が高く、世界全体のサラブレッドを俯瞰しても、近年では特筆すべき大種牡馬といえるだろう。
Snowfallの母ベストインザワールドは、ギヴサンクスS(愛G3・芝12ハロン)を、2代母Red EvieはロッキンジS(英G1・芝8ハロン)とメイトロンS(愛G1・芝8ハロン)を勝っており、母の全姉Foundは凱旋門賞(仏G1・芝2400m)とブリーダーズCターフ(米G1・芝12ハロン)の勝ち馬。
英オークスの圧勝により、現時点における英ブックメーカーの凱旋門賞前売りオッズは、1番人気に躍り出た。最後の直線で外埒沿いに進路をとったように、馬場コンディションは「Good to Soft」という発表以上に悪かったと思われるので、道悪適性もかなり高いと見て良さそうだ。凱旋門賞はそうした馬場になりやすいのでチャンスは大いにあるだろう。