▼愛ダービー
6月25日、アイルランドのカラ競馬場で行われた愛ダービー(G1・芝12ハロン)は、2番手を追走したWestoverが直線入口で抑えきれない勢いで先頭に立ち、Piz Badileに7馬身差をつけて圧勝した。良馬場の勝ちタイムは2分34秒80。(※レース映像)
コリン・キーン騎手、ラルフ・ベケット調教師は当レース初制覇。馬主のジャドモントは、昨年亡くなったハーリド・アブドゥラ殿下が統率していた競走馬事業グループで、殿下の死後、彼が所有していた馬たちをこの法人に名義変更した。事業は一族が継続して行っている。殿下の時代を含めると、1993年のコマンダーインチーフ以来29年ぶりの勝利となる。
2着との「7馬身差」は、2000年以降では、2000年のSinndarと2007年のSoldier fo Fortuneの「9馬身差」に次ぐもの。牡馬相手に果敢に挑んできた英オークス馬Tuesday(Minding、Empress Josephineの全妹)は4着に終わった。
3歳初戦のクラシックトライアル(英GIII・芝9ハロン209ヤード)で重賞初制覇を達成し、続く英ダービー(GI)は8番人気で3着。そして今回、テン乗りとなったキーン騎手の手綱に導かれて快勝した。
父Frankelは、前回のNashwa(仏オークス)の項で説明したように、2021年に英愛チャンピオンサイアーの座についた。今年に入ってからNashwaの他に、Homeless Songs(愛1000ギニー)、Converge(ランドウィックギニー)、Inspiral(コロネーションS)、Onesto(パリ大賞)、Westover(愛ダービー)がGIを勝っている。
母Mirabilisは、Westoverの他にMonarchs Glen(英GIIIダーレーS)を産んでいる。同馬はFrankel産駒なのでWestoverの全兄にあたる。ちなみに、愛ダービーのあとに出走したキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(GI)は、1番人気に推されたものの、6頭立ての5着と期待を裏切った。
▼愛オークス
7月16日、アイルランドのカラ競馬場で行われた愛オークス(GI・芝12ハロン)は、2番手を追走した1番人気Magical Lagoonが外から迫るToyを振り切って優勝した。良馬場の勝ちタイムは2分34秒02。英オークス2着馬で優勝候補だったEmily Upjohnが、飛行機のトラブルで移動が叶わず出走取消。しかし、不在の穴を十分に埋める熱い戦いとなった。(※レース映像)
シェーン・フォーリー騎手は愛オークス初制覇。同騎手は短期免許を取得して日本で騎乗したことがあり、プロフェットで京成杯(GIII)を勝っている。ジェシカ・ハリントン調教師は、障害界でメジャーな存在だったが、近年、平地にも進出し、Alpha Centauri、Millisle、Albigna、Pathfork、Discoveries、Lucky Vega、No Speak AlexanderといったGI馬を手がけている。
勝ったMagical Lagoonは、本邦輸入種牡馬ノヴェリスト(キングジョージ6世&クイーンエリザベスSなどGIを4勝)の半妹。父はMonsunからGalileoに替わった。日本の感覚ではスピードが足りないが、タフな馬場で争われるので、ヨーロッパでは問題ない。「Galileo+ドイツ血統」というパターンの活躍馬には、Waldgeist(凱旋門賞)、Imperial Monarch(パリ大賞)、Japan(パリ大賞、英インターナショナルS)、Mogul(パリ大賞、香港ヴァーズ)などがいる。
ちなみに2着Toyは、Gleneagles(カルティエ賞最優秀2歳牡馬)、Happily(カルティエ賞最優秀2歳牝馬)、Joan of Arc(仏オークス)、Marvellous(愛1000ギニー)の全妹。今後もしGIを勝てば全きょうだい5頭目のGI馬となる。
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栗山求
1968年生まれ。大学在学中の1989年に競馬通信社入社。血統専門誌『週刊競馬通信』にコラム「血統SQUARE」を7年間連載しつつ編集長を務める。1997年に退社後はフリーランスに。編集者や執筆者として携わった雑誌・書籍は数知れず。2010年に株式会社ミエスクを立ち上げて代表取締役に就任。翌年から血統・配合の競馬総合サイト『血統屋』の運営を開始し、牧場・馬主向けの配合コンサルタント業を本格化させる。2012年から『パーフェクト種牡馬辞典』(自由国民社)を望田潤氏らと共同執筆で上梓。2016年に『血統史たらればなし』(KADOKAWA)を刊行。月刊誌『優駿』(JRA)やクラブ法人の会報各誌に連載を持ち、『KEIBAコンシェルジュ』(グリーンチャンネル)などのテレビ出演もこなす。