Ten SovereignsやAlcohol Freeの活躍から、No Nay Neverは2歳戦を得意とする種牡馬であることは明らかだったが、2022年の活躍ぶりは尋常ではない。
8月6日のフィーニクスS(愛GI・芝6ハロン)をLittle Big Bearが、8月21日のモルニ賞(仏GI・芝1200m)をBlackbeardが制したほか、Meditate、Aesop’s Fables、Trilliumと5頭の重賞勝ち馬が出ている。
繋養するアイルランドのクールモアスタッドは、ヨーロッパを代表するメジャー牧場で、Caerleon、Sadler’s Wells、デインヒル、Galileo、Montjeu、Danehill Dancerといった種牡馬を繋養してきた。ここ30年間のヨーロッパ血統はこの牧場の支配下にある、といっても大げさではない。
父Scat Daddyはアメリカで誕生し、2歳時と3歳時に同国のダートGIを制覇。クールモアスタッドのアメリカ支部アシュフォードスタッドに繋養され、無敗の米三冠馬Justify、全欧最優秀2歳牝馬に選出されたLady Aurelia、英スプリントGIを2勝したCaravaggio、南米チリの年度代表馬Il Campione、高松宮記念を制したミスターメロディなど、多くの名馬を送り出した。しかし、2015年12月、11歳の若さで急逝。
No Nay Neverは現役時代、アメリカ調教馬ながらヨーロッパ遠征を敢行し、モルニ賞(仏GI・芝1200m)とノーフォークS(英GII・芝5ハロン)を制覇。アイルランドのクールモアスタッドで種牡馬となり、初年度からミドルパークS(英G1・芝6ハロン)の勝ち馬テンソヴリンズを出し、英愛ファーストシーズンサイアーチャンピオンの座を獲得した。
この活躍により、翌2019年から種付け料は前年比4倍の10万ポンドに値上げされた。選りすぐりの良血牝馬が集まり、翌年誕生した産駒は、これまでの世代とは一線を画すデキとなったことは想像に難くない。大ブレイクした今年の2歳馬は、まさにこの世代だ。
重賞を勝った5頭のうち、Trilliumを除く4頭はアイルランド産馬で、馬主はクールモアグループ。BlackbeardとMeditateは重賞3勝、Little Big Bearは2勝しているので、5頭合計で10勝していることになる。内訳は、GI=2勝、GII=3勝、GIII=5勝。
No Nay Neverの母の父Elusive Qualiltyは、現役時代に芝8ハロンの世界レコード(1分31秒63)を樹立したスピード能力の持ち主で、名種牡馬Quality Road(産駒にCity of Light、Able Tasmanなど)の父となった。
したがって、ヨーロッパ繋養種牡馬であっても、日本向きの適性があり、これまでにユニコーンライオン(鳴尾記念、宝塚記念2着)、フリード(芝とダートでレコード勝ち)などを出している。
9月後半から10月にかけて、イギリスやフランスでいくつかの重要な2歳GIが行われる。No Nay Never産駒がいくつタイトルを積み上げられるか注目したい。
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栗山求
1968年生まれ。大学在学中の1989年に競馬通信社入社。血統専門誌『週刊競馬通信』にコラム「血統SQUARE」を7年間連載しつつ編集長を務める。1997年に退社後はフリーランスに。編集者や執筆者として携わった雑誌・書籍は数知れず。2010年に株式会社ミエスクを立ち上げて代表取締役に就任。翌年から血統・配合の競馬総合サイト『血統屋』の運営を開始し、牧場・馬主向けの配合コンサルタント業を本格化させる。2012年から『パーフェクト種牡馬辞典』(自由国民社)を望田潤氏らと共同執筆で上梓。2016年に『血統史たらればなし』(KADOKAWA)を刊行。月刊誌『優駿』(JRA)やクラブ法人の会報各誌に連載を持ち、『KEIBAコンシェルジュ』(グリーンチャンネル)などのテレビ出演もこなす。