6月5日、イギリスのエプソム競馬場で行われた第242回ダービー(G1・12ハロン6ヤード)は、11頭立ての7番人気Adayarが最内から抜け出して優勝。2着に10番人気Mojo Starが入り、馬券は大波乱となった。(※レース映像)
直近5年間の勝ち馬は16、6、4、8、7番人気。1~3番人気は一度も勝っていない。最後に1番人気馬が馬券対象となったのは、2017年の3着馬Cracksman。人気薄が頑張っているということは、見方を変えれば、人気馬の信頼性が落ちていることでもある。
人気薄が勝ったとしても、その後、夏から秋のビッグレースで活躍するようなら、ダービー当時の評価が間違っていたという話になる。キャリアが浅くみくびられていたとか、ダービー前にたまたま能力を発揮できないレースが続いたとか、そんなことは珍しくない。ただ、2017年以降のダービー馬のうち、ダービー後に勝った馬は、いまのところ2019年のAnthony Van Dyckしかいない。
直近10年間の優勝馬をワールドサラブレッドランキングによって比較すると、前半5年間(2012~2016年)のレーティング平均は「124.8ポンド」、後半5年間(2017~2021年)の平均は「119.8ポンド」。レースレベルの低下が深刻だ。
▼左から年、勝ち馬、レーティング
2012 Camelot 124
2013 Ruler of the World 122
2014 Australia 127
2015 Golden Horn 130
2016 Harzand 121
2017 Wings of Eagles 119
2018 Masar 121
2019 Anthony Van Dyck 118
2020 Serpentine 120
2021 Adayar 121
2012~2016年の最低と、2017~2021年の最高が同じ121ポンド、という事実をもってしても、ここ数年の落ち込みぶりが分かる。
今年の優勝馬Adayarが、競走馬としてどのような蹄跡を描くのか、まだ分からない。
昨年の10月にデビューし、4着→1着という成績で2歳戦を終えた。初勝利は9馬身差の圧勝(芝9ハロン)だった。3歳シーズンに入り、4月のクラシックトライアル(英G3)で2着のあと、5月のダービートライアルS(準重賞)で2着。通算4戦1勝の成績でここに臨んでいた。冒頭に記したとおり11頭立ての7番人気だったが、戦績を見ると決して悪いものではない。今後に期待できる馬だろう。
父Frankelは14戦全勝の成績を残した今世紀最高の名馬の1頭で、種牡馬としてもAnapurna(英オークス)、Cracksman(英チャンピオンS・2回、コロネーションC、ガネー賞)、Logician(英セントレジャー)、Without Parole(セントジェームズパレスS)などを出している。軽い馬場への適性は高く、日本ではソウルスターリング(オークス、阪神JF)、モズアスコット(安田記念、フェブラリーS)、グレナディアガーズ(朝日杯FS)などを出している。
Adayarは「Frankel×Dubawi」という組み合わせ。母Anna Salaiは芝1600mの仏G3勝ち馬で、愛1000ギニー(G1)2着馬。5代母Anna Paolaはドイツの名門レットゲン牧場が作り上げた名血で、ドイツ産馬らしい多重クロスを持っている。現役時代に独オークス(G2)を勝った。
このドイツの宝石を、ドバイのマクトゥーム殿下が購買し、その子孫から英1000ギニー馬Billesdon Brook、豪州産の名種牡馬Helmet(本邦輸入種牡馬サンダースノーの父)、ガンコ(日経賞)など、多くの活躍馬が誕生した。
Frankelが初めて送り出した英ダービー馬だけに期待は大きい。「Galileo系×Dubawi」という組み合わせなので、昨年のカルティエ賞年度代表馬Ghaiyyath(Dubawi×Galileo)の父母をひっくり返したような構成だ。ちなみにAdayarとGhaiyyathの両馬は、馬主(ゴドルフィン)と調教師(チャーリー・アップルビー)が共通している。