この時期は欧米で矢継ぎ早にビッグレースが行われるので、のんびり構えているとレース結果の解説が間に合わない。駆け足ではあるが、クラシックレースを中心にいくつか振り返ってみたい。
英ダービーと同日の6月5日、米ニューヨーク州ベルモントパークで米三冠の最終関門ベルモントS(G1・ダート12ハロン)が行われた。レースは、1番人気Essential Qualityが中団追走からポジションを上げ、直線入口で先頭に立って押し切った。(※レース映像)
勝ちタイムの2分27秒11は、過去10年間で2015年のAmerican Pharoahの2分26秒65に次いで2番目。過去30年間に範囲を広げても、5番目という優秀なタイムだ。1番人気で4着と敗れたケンタッキーダービーのあと、二冠目のプリークネスSを自重し、三冠目のベルモントSに狙いを定めた陣営の戦略が当たった。
昨年、ブリーダーズCジュヴェナイル(米G1・ダート8.5ハロン)を含めて3戦全勝で2歳牡馬チャンピオンに選出され、3歳時はこれで4戦3勝。秋の成績次第では年度代表馬も狙える位置にいる。管理するブラッド・コックス調教師は、Monomoy Girl(3歳牝馬チャンピオン、古牝馬チャンピオン)も管理しており、2020年にエクリプス賞最優秀調教師に選出された。現在41歳。
父Tapitは3年連続米チャンピオンサイアーとなった名種牡馬。ベルモントSの成績がずば抜けており、これで通算4頭目の勝ち馬となる。2着馬も2頭出している。陣営がベルモントSに注力したのもこのデータを把握していたからではないか。Tapitの2代父A.P.Indyは1992年に当レースを勝っており、勝ちタイムは2分26秒13と速かった。これが過去30年間の最速タイムだ。
2代母Contriveは無敗の三冠馬コントレイルの3代母でもある。同じ時期に同じ牝系から日米の活躍馬が現れたのはおもしろい。いずれも種牡馬として大いに期待できる。
6月6日、仏シャンティイで行われた仏ダービー(G1・芝2100m)は、1番人気に推されたアイルランド調教馬St Mark’s Basilicaがインから抜け出して快勝した。重馬場の勝ちタイムは2分07秒30。4年前にStudy of Manが同じ重馬場で2分07秒44だったので、まずまず平均的な勝ちタイムだろう。これでデューハーストS(英G1・芝7ハロン)、仏2000ギニー(G1・芝1600m)とG1を3連勝。通算7戦4勝。(※レース映像)
一昨年の英2000ギニー(G1)を勝ったMagna Greciaの半弟。母Cabaretは2歳時に芝7ハロンの愛G3を勝った経験があり、繁殖牝馬として大成功を収めた。近年の偉大な繁殖牝馬、たとえばSlightly Dangerous、Hasili、Magnificient Style、Vertigineux、You’resothrillingなどは、血統構成のなかにいずれもRobertoを抱えている。Cabaretも同様だ。
父Siyouniは現時点におけるフランス最良の種牡馬で、2020年にはSottsass(凱旋門賞)の活躍により仏チャンピオンサイアーとなった。その父Pivotalはブルードメアサイアーとしてきわめて有能だが、Siyouniが種牡馬として名を挙げたことで、父系の祖としても注目されている。SottsassとSt Mark’s Basilicaは、いずれも「Siyouni×Galileo」という組み合わせで、Nureyev≒Sadler’s Wells 4×3という4分の3同血クロスを持っている。「Galileo×Pivotal×デインヒル」のLove(カルティエ賞最優秀3歳牝馬)を、父母ひっくり返したような配合構成だ。
6月20日、仏シャンティイで行われた仏オークス(G1・芝2100m)は、2番手を追走したアイルランド調教馬Joan of Arcが直線の追い比べを制して初のG1タイトルを獲得した。(※レース映像)
父Galileo、母You’resothrillingというおなじみの血統。Gleneagles(英・愛2000ギニー、セントジェームズパレスS、ナショナルS)、Marvellous(愛1000ギニー)、Happily(モイグレアスタッドS、ジャンリュックラガルデール賞)を全きょうだいに持つ超良血だ。
母You’resothrillingは米チャンピオンサイアーとなったGiant’s Causewayの全妹で、仏ダービー馬St Mark’s Basilicaの解説で触れたようにRobertoを抱えている。4頭のG1馬を送り出したので歴史的名繁殖牝馬といっていいだろう。これらの全妹にあたる現2歳のToy(父Galileo)もいずれ大仕事をしそうだ。
「Galileo×Storm Cat」は、Churchill(カルティエ賞最優秀2歳牡馬)、Misty for Me(カルティエ賞最優秀2歳牝馬)、Ballydoyle(マルセルブサック賞)、Decorated Knight(愛チャンピオンS)などと同じ。Galileo産駒のなかではスピードタイプに出やすい配合だ。