イギリスの牡馬クラシックの初戦となる英2000ギニー(G1・芝8ハロン)は、4月30日、ニューマーケット競馬場で行われた。(※レース映像)
勝ったのはジェームズ・ドイル騎乗の3番人気Coroebus。同じゴドルフィン&アップルビー厩舎の1番人気Native Trailと追い比べとなり、同馬に3/4馬身差をつけて快勝した。
2歳時はオータムS(英G3・芝8ハロン)を勝つなど3戦2勝で、唯一の敗戦はロイヤルロッジS(英G2・芝8ハロン)でRoyal Patronageにクビ差後れを取ったもの。このレースは最後の直線で楽々と抜け出し、圧勝かと思いきや、最後の1ハロンで急激に脚いろが鈍って差されてしまった。ビュイック騎手の早仕掛けだったのか、ソラを使ったのか、いずれにしろ油断負けの印象を与える敗戦だった。ちなみに、Royal Patronageは今回の英2000ギニーに出走して8着と敗れている。
ビュイック騎手は今回のレースでNative Trailを選択。同馬は2歳時に2つのG1を含めて4戦全勝、3歳緒戦のクレイヴンS(英G3・芝8ハロン)も3馬身半差で楽勝しているので、自然な選択といえるだろう。しかし、ここが今季緒戦のCoroebusに競り負けた。お手馬の選択を間違えたのは騎手として屈辱だろう。
Coroebusの手綱を取ったジェームズ・ドイル騎手は、名馬Kingmanの主戦ジョッキーとして知られ、ほかにAl Kazeem、Poet’s Word、Sea of Classなど多くの名馬にまたがっているが、これが意外にも英クラシック初勝利だった。管理するチャーリー・アップルビー調教師は英2000ギニー初勝利。
父Dubawiはダーレーのエース種牡馬。英ニューマーケットのダルハムホールスタッドに繋養され、ヨーロッパではクールモアのGalileoに次ぐ優秀な成績を残してきた。Postponed(キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、英インターナショナルS、ドバイシーマクラシック)、Night of Thunder(英2000ギニー、ロッキンジS)、Ghaiyyath(コロネーションS、エクリプスS、英インターナショナルS、バーデン大賞)、マクフィ(英2000ギニー、ジャックルマロワ賞)、モンテロッソ(ドバイワールドC)、Prince Bishop(ドバイワールドC)、Wuheida(BCフィリー&メアターフ、マルセルブサック賞)、New Bay(仏ダービー)、Space Blues(BCマイル、モーリスドゲスト賞)、Al Kazeem(エクリプスS、プリンスオブウェールズS)、Lucky Nine(香港スプリント)、Yibir(ブリーダーズCターフ)など多くの活躍馬を出している。
Dubawi産駒は、5月15日に行われた仏2000ギニー(G1)もModern Gamesが制しており、英・仏の2000ギニー連勝を果たした。英2000ギニー制覇はマクフィ、Night of Thunderに次いで3頭目となる。
母First Victoryは2歳時にオーソ―シャープS(英G3・芝7ハロン)を勝った。Coroebusは2番仔。母方にGalileoを持つDubawi産駒はこれまでにNight of Thunder、Ghaiyyath、Modern Gamesといった活躍馬が出ている。また、母方にDubai Destinationを持つDubawi産駒はPostponedが出ている。次走は愛2000ギニーを予定している。
牝馬クラシック初戦となる英1000ギニー(G1・芝8ハロン)は、翌5月1日、同じニューマーケット競馬場で行われた。(※レース映像)
勝ったのはCachet。スタートから積極的にハナに立ち、後続の追撃をしのいで逃げ切った。ジェームズ・ドイル騎手は英2000ギニーに続いて2日連続のクラシック制覇。ジョージ・バウイー調教師は初のG1勝利となった。
勝ったCachetは、昨年5月のデビュー戦を5馬身半差で楽勝したものの、その後は勝てず、2歳時は8戦1勝。ただ、フィリーズマイル(英G1・芝8ハロン)は3着、アメリカへ遠征して臨んだブリーダーズCジュヴェナイルターフ(米G1・芝8ハロン)は4着と、G1でも上位争いに食い込む活躍を見せた。3歳緒戦のネルグウィンS(英G3・芝7ハロン)を2馬身半差で勝ち、今回のレースに臨んでいた。2歳時に勝てなかった時期が長かったので、前走がフロック視されたのか、8番人気と意外に人気がなかった。
父Aclaimは現役時代にフォレ賞(仏G1・芝1400m)をはじめ3つの重賞を制したスピードタイプ。英ナショナルスタッドに繋養され、2022年の種付け料は6000ポンド(約95万円)。Dubawiの25万ポンド、Frankelの20万ポンド、Kingmanの15万ポンドとは比較にならないほど安値だ。ただ、その父Acclamationは、Dark AngelやMehmasといった名種牡馬の父となっており、Aclaimも初年度から英クラシック馬を出したことで、この先、繁殖牝馬の質が高まることが予想される。まだ若い種牡馬なので楽しみだ。
母Poyle Sophieはイギリスで走り未勝利に終わった。近親にサンフランシスコマイルS(米G3・芝8ハロン)を勝ったWhisper Notがいるものの、さほど繁栄しているファミリーではない。
Cashetは次走、5月15日にパリロンシャン競馬場で行われた仏1000ギニー(G1・芝1600m)に出走し、Mangoustineのアタマ差2着と敗れた。3歳5月の時点で11戦を消化しているのだからタフな馬だ。
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栗山求
1968年生まれ。大学在学中の1989年に競馬通信社入社。血統専門誌『週刊競馬通信』にコラム「血統SQUARE」を7年間連載しつつ編集長を務める。1997年に退社後はフリーランスに。編集者や執筆者として携わった雑誌・書籍は数知れず。2010年に株式会社ミエスクを立ち上げて代表取締役に就任。翌年から血統・配合の競馬総合サイト『血統屋』の運営を開始し、牧場・馬主向けの配合コンサルタント業を本格化させる。2012年から『パーフェクト種牡馬辞典』(自由国民社)を望田潤氏らと共同執筆で上梓。2016年に『血統史たらればなし』(KADOKAWA)を刊行。月刊誌『優駿』(JRA)やクラブ法人の会報各誌に連載を持ち、『KEIBAコンシェルジュ』(グリーンチャンネル)などのテレビ出演もこなす。