5月7日、米クラシック三冠の第一弾・ケンタッキーダービー(米GI・ダート10ハロン)はチャーチルダウンズ競馬場で行われ、現地の馬券発売で20頭立ての最低人気だったRich Strikeが内から鋭く伸び、先に抜け出した1番人気Epicenterを差し切って優勝した。4ハロン通過45秒36という超ハイペースだったため、後方のインで脚をためていたRich Strikeに展開が向いた。逆にEpicenterにとっては厳しい流れで、これがゴール前の大逆転に結びついた。(※レース映像)
勝ったRich Strikeは8戦2勝。昨年8月にデビューし、10頭立てのしんがり負け。翌月、今回の舞台でもあるチャーチルダウンズで初勝利を挙げたものの、その後は5連敗。前走、重賞初挑戦となったジェフルビーステーキズS(GIII・ダート9ハロン)で3着となり、ここに臨んでいた。本来であれば出走できなかったが、レース前日に出走取り消し馬が出たため、最後の枠に滑り込んで歴史的な大波乱の立役者となった。
父Keen Iceは現役時代にトラヴァーズS(米GI・ダート10ハロン)を制覇。このときは三冠馬American Pharoahを破ってのものだったので価値が高い。現3歳世代が初年度産駒で、ほかにプエルトリコで重賞勝ち馬を出している。アメリカではRich Strikeのほかにこれといった大物はいない。Deputy Minister 3×3だが、これは父Curlinの成功パターン。Keen IceのほかにVino Rosso(BCクラシック)、カラライナ(エイコーンS、CCAオークス、ラトロワンヌS)などの大物が出ている。
Rich Strikeはカナダ産馬。母Gold Strikeは、現役時代にカナダ3歳牝馬チャンピオンとなった活躍馬で、Mr.Prospector=Search for Gold 2×3という全兄弟クロスを持っている。Rich Strikeは、それを継続発展させる形でSmart Strike 3×2。今回まったく人気はなかったが、配合的にはおもしろい。カルティエ賞年度代表馬の座に二度就いた女傑Enableは、Sadler’s Wellsをまったく同じ位置でクロスさせている。
ちなみに、Smart Strikeはカナダ出身の名種牡馬。牝馬ながらカナダ三冠馬となり、ブリーダーズCディスタフ(米GI)を勝ったDance Smartlyの半弟にあたる良血で、産駒にCurlin、English Channel、Lookin At Luckyなどがいる。日本ではフリートストリートダンサー(ジャパンCダート)、ブレイクランアウト(共同通信杯)の父としてなじみ深い。今年、牝馬二冠を達成したスターズオンアースの母の父でもある。
Rich Strikeは二冠目のプリークネスS(米GI・ダート9.5ハロン)をスキップし、6月11日に行われる三冠目のベルモントS(米GI・ダート12ハロン)に向かう予定。
5月21日、米クラシック三冠の第二弾・プリークネス(米GI・ダート9.5ハロン)はピムリコ競馬場で行われ、2番人気のEarly Votingが2番手から抜け出して優勝した。1番人気Epicenterはケンタッキーダービーに続いてまたしても2着。(※レース映像)
勝ったEarly Votingは通算成績4戦3勝。昨年12月、ニューヨーク州のアケダクト競馬場でデビュー戦を快勝し、続くウィザーズS(米GIII・ダート9ハロン)を連勝。しかし、3戦目のウッドメモリアルS(米GII・ダート9ハロン)はクビ差2着。ここまですべてアケダクト競馬場での出走だった。通常であればケンタッキーダービーに向かうところだが、長距離輸送をして勝算の立たないレースを使うより、東海岸にとどまって二冠目に狙いを絞ったほうがチャンスが大きいだろうという判断で、一冠目をスキップして今回のレースに臨んだ。チャド・ブラウン調教師の狙いが見事にハマった。
Early Votingの父Gun Runnerは、現3歳世代が初年度産駒で、Echo Zulu、Gunite、Cyberknife、Taiba、そして本馬と、すでに5頭のGI馬を出している。2017年にブリーダーズCクラシック(米GI・ダート10ハロン)など4つのGIを制して米年度代表馬となった名馬で、ペガサスワールドC(米GI・ダート9ハロン)で記録したべイヤー指数は「120」。2010年以降にアメリカで行われたすべてのレースのなかで4位タイという優秀なものだった。このまま順調に活躍馬を出し続ければ将来のチャンピオンサイアー候補、といっていいだろう。
本馬は2020年のキーンランドセプテンバーセールで20万ドル(約2600万円)の値がついた。母の父TiznowはブリーダーズCクラシックを二度制覇した史上唯一の馬で、日本ではコントレイル、ダノンベルーガ、ストロングタイタンなどがこの血を持っている。「Gun Runner×Tiznow」なので、ブリーダーズCクラシックを勝った馬同士の組み合わせとなる。もし仮に次走、ダート12ハロンのベルモントSに出走したとしても、距離的な不安はないだろう。
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栗山求
1968年生まれ。大学在学中の1989年に競馬通信社入社。血統専門誌『週刊競馬通信』にコラム「血統SQUARE」を7年間連載しつつ編集長を務める。1997年に退社後はフリーランスに。編集者や執筆者として携わった雑誌・書籍は数知れず。2010年に株式会社ミエスクを立ち上げて代表取締役に就任。翌年から血統・配合の競馬総合サイト『血統屋』の運営を開始し、牧場・馬主向けの配合コンサルタント業を本格化させる。2012年から『パーフェクト種牡馬辞典』(自由国民社)を望田潤氏らと共同執筆で上梓。2016年に『血統史たらればなし』(KADOKAWA)を刊行。月刊誌『優駿』(JRA)やクラブ法人の会報各誌に連載を持ち、『KEIBAコンシェルジュ』(グリーンチャンネル)などのテレビ出演もこなす。