6月26日、アイルランドのカラ競馬場で行われた愛ダービー(G1・芝12ハロン)は、外から伸びたHurricane LaneがLone Eagleをクビ差とらえて優勝。初のG1制覇を成し遂げた。勝ちタイムは2分33秒85。3着以下を7馬身引き離したマッチレースだった。管理するチャーリー・アップルビー調教師はゴドルフィン専属で、これが愛ダービー初制覇となる。(※レース映像)
前走の英ダービーで3着と敗れた以外は負け知らず。このレースのあと、フランスへ渡り、7月14日のパリ大賞典(G1・芝2400m)を6馬身差で圧勝した。愛オークスが行われる前の段階で、凱旋門賞の前売りオッズ(bet365)ではSnowfallと並んで単勝6.5倍で1番人気に推されている。
パリ大賞典を含めた通算成績は6戦5勝。父Frankelは通算14戦全勝の名馬。種牡馬としても成功し、7月10日に死んだ大種牡馬ガリレオの最良の後継種牡馬となっている。英ダービーを制したAdayar、一昨年の英オークスを勝ったAnapurna、同じく一昨年の英セントレジャーを勝ったLogicianと、ここにきてクラシックウィナーを連発している。クールモアの種牡馬ではないので、繁殖牝馬の質という点では父に及ばないが、それでいてこれだけの成績を残しているのは立派だ。ヨーロッパ全体を合計した種牡馬ランキングでは現時点でトップに立っており、2位Galileo、3位Siyouniを抑えている。
母Gale Forceは重賞勝ちこそないものの、フランスで芝3100mのリステッドレースを勝ち、イギリスでは芝16ハロンのリステッドレースで3着となった。「父Frankel、母の父にMonsunを含んだドイツ血統が入る」という配合構成はソウルスターリング(オークス、阪神JF)に似ている。
7月3日、英サンダウン競馬場で行われたエクリプスS(英G1・芝9ハロン209ヤード)は、前回コラムの仏ダービー(G1・芝2100m)の項で取り上げたSt Mark’s Basilicaが3馬身半差で楽勝。昨年秋からG1を4連勝とし、欧州年度代表馬へ向けて前進した。通算8戦5勝。(※レース映像)
一昨年の英2000ギニー(G1)を勝ったMagna Greciaの半弟。母Cabaretは2歳時に芝7ハロンの愛G3を勝った経験があり、繁殖牝馬として大成功を収めた。父Siyouniは現時点におけるフランス最良の種牡馬で、2020年にはSottsass(凱旋門賞)の活躍により仏チャンピオンサイアーとなった。SottsassとSt Mark’s Basilicaは、いずれも「Siyouni×Galileo」という組み合わせで、Nureyev≒Sadler’s Wells 4×3という4分の3同血クロスを持っている。「Galileo×Pivotal×デインヒル」のLove(カルティエ賞最優秀3歳牝馬)を、父母ひっくり返したような配合構成だ。
7月16日時点の凱旋門賞前売りオッズ(bet365)は、前述のとおりSnowfall(父ディープインパクト)とHurricane Laneが単勝6.5倍で1番人気に並んでいる。その次にSt Mark’s Basilicaが8倍、その次にTarnawa、Wonderful Tonight、Adayarが9倍で並んでいる。
3番人気のSt Mark’s Basilicaは、前述の通り、昨年の凱旋門賞馬Sottsassと同じ組み合わせだが、英2000ギニー馬の半弟で、距離も2100mまでしか経験がない。SnowfallとHurricane Laneよりも下に置かれているのはそうした距離面の懸念からだと推察される。ただ、ブックメーカーによってはこちらを1番人気にしているところもある。Tarnawa、Wonderful Tonightは昨年活躍した名牝で、今年はまだ出走していない。Adayarは英ダービーでHurricane Laneに先着して優勝したものの、本当に強いのかどうか、もう一戦見極めないと何ともいえないところがある。
7月10日、アイルランドのクールモアスタッドで、大種牡馬ガリレオが息を引き取った。23歳。英愛チャンピオンサイアーの座に就くこと12回。近年のヨーロッパにおける最高の名種牡馬だった。その父サドラーズウェルズの14回、18世紀の大種牡馬ハイフライヤーの13回に次いで歴代第3位ながら、産駒はデビュー前のものを含めてまだ数世代残されているため、これらを抜く可能性は十分残されている。
シーザスターズ(凱旋門賞、英ダービー、英2000ギニー)の半兄で、母アーバンシーは極上のドイツ牝系から誕生した凱旋門賞馬。現役時代に英ダービー、愛ダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSなどを制覇し、通算8戦6勝の成績を残した。エイダン・オブライエン調教師は現役時代のガリレオについて「ギアが入ってからのトップスピードが驚異的」と評している。血統、馬体、競走成績、種牡馬成績と、すべてにおいて完璧な究極のサラブレッドだった。
100頭に迫るG1ホースのなかで、14戦全勝の成績を残したフランケルが最高傑作だったが、残念ながら同馬はクールモアの生産馬ではなかった。サドラーズウェルズとガリレオの親子が英愛チャンピオンサイアーの座を26回占めてきたことで、クールモアは世界最大の生産者グループにのし上がったが、これらに匹敵するような自前の大種牡馬をいまのところ作っていない。種牡馬ビジネスにおける圧倒的優位性がクールモアグループの力の源泉だったので、屋台骨を支えてきたナンバーワン種牡馬がいなくなったことにより、大きな影響を受けることは避けられない。その巨大組織をこれからどう舵取りしていくのか、生き残り戦略に注目したい。