仁川と中京の意外な共通点 ～阪神競馬場誕生史/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ

中央競馬は今週末から中京に替わって阪神開催がスタートします。1回阪神と2回阪神は10週間という連続開催。4月の第3週まで続く計20日間のロングランが終わると、いよいよ京都競馬場のリニューアルオープンが待っています。

ところで中京競馬場は今年、開設70周年を迎えましたが、阪神競馬場が現在の仁川の地に移ったのは今から74年前。中京競馬場開設より4年先でした。中京競馬場の歴史を調べていると、中京競馬場の誕生に実は仁川の競馬場誕生が関係していたことがわかりました。

元々、阪神競馬場は「鳴尾記念」にその名が残る鳴尾競馬場がルーツです。現在の西宮市、甲子園球場から左中間方向に800ｍ程進んだ場所にある現在の武庫川女子大学附属中学・高校の敷地がその場所でした。

1907年に開場し、1910年から1937年まで年2回、計54回にわたって帝室御賞典競走(天皇賞の前身)が行われました。阪神競馬倶楽部が日本競馬会に統合された1937年に阪神競馬場へと名称変更。翌1938年から1943年まで春の天皇賞が行われていた由緒ある競馬場でした。

しかし、太平洋戦争の拡大に伴い、競馬場は1943年4月の競馬を最後に海軍基地として接収され、鳴尾飛行場として利用されました。終戦後、今度は米軍が接収しキャンプ基地として使用。この地で再び競馬が行われることはありませんでした。

戦後、東京・京都・中山・札幌・函館・小倉の6場で競馬再開を果たした日本競馬会でしたが、大都市大阪近郊での競馬再開のためには新たな競馬場用地を取得する必要が生じました。ところが経営が悪化していた日本競馬会には独自に用地を取得する予算がありませんでした。そこで関西の財界が広く協力して移転建設を目指したのです。

1948年、京阪神急行電鉄(現在の阪急電鉄)を中心に関西の馬主や財界人が結集した京阪神競馬株式会社が設立されました。すると、海軍用航空機の製造会社・川西航空機の宝塚工場が空襲を受けたあと放置されていたため、この跡地の払い下げを受けます。その場所こそ現在の阪神競馬場がある仁川の地で、京阪神競馬株式会社はここに競馬場を建設。競馬会側(農林省競馬部)と賃貸契約を結び、1949年、競馬再開に漕ぎつけました。

京阪神競馬株式会社とは現在の京阪神ビルディング株式会社で、1955年に阪神競馬場の管理・運営はJRAに譲りましたが、現在も京阪神地区のウインズは、京阪神ビルディングが管理・運営し、JRAに賃貸しています。また1953年創設の伝統の重賞・阪神大賞典の正賞は今も京阪神ビルディングが提供しています。

財界が協力して会社を設立し競馬場を新設した上で、競馬会と賃貸契約を結ぶ…。そうです。こうした動きこそ、中京競馬場の建設を目指していた名古屋地区の人々に刺激を与え、「メイケイ」こと名古屋競馬株式会社の設立へと動き出す大きなきっかけとなったのです。