29日に行われる天皇賞・秋を、天皇陛下が東京競馬場でご観覧になることが発表されました。「天覧競馬」は、現在の上皇・上皇后両陛下がご覧になられた2012年(平成24年)の第146回天皇賞・秋以来11年ぶり。また、体調次第で皇后さまも同行されるということで、実現すれば皇后さまにとって初めての競馬場訪問になるということです。
令和になってからは初めてとなる「天覧競馬」ですが、平成では2度開催されています。
皇太子時代にも2度、東京競馬場を行幸啓されている現在の上皇・上皇后両陛下は、天皇・皇后時代の2005(平成17)年に秋の天皇賞をご覧になられました。この時は、1899(明治32)年以来106年ぶりの「天覧競馬」で、優勝したヘヴンリーロマンスの松永幹夫騎手が貴賓室の両陛下に馬上から深々と一礼したシーンは、永遠に語り継がれることでしょう。
平成2度目の「天覧競馬」は「近代競馬150周年記念」と副題がつけられて行われた11年前の天皇賞・秋で、レースはエイシンフラッシュが優勝。この時はスタンド前に戻ってきた際、ミルコ・デムーロ騎手が下馬をしてヘルメットをとり、片膝をついて両陛下に深く一礼を捧げた、競馬史に残る名場面が生まれました。
今上天皇は皇太子時代の2007年と2014年に東京競馬場に行幸され、日本ダービーをご覧になられています。
2007年はウオッカが64年ぶりの牝馬によるダービー制覇。JRAの60周年を記念して観戦された2014年のダービーはワンアンドオンリーが優勝しましたが、優勝馬のワンアンドオンリー、騎乗した横山典弘騎手、馬主の前田幸治氏が、いずれも皇太子さま(当時)と同じ2月23日生まれだったエピソードは、偶然というにはあまりにも不思議な一致でした。
さて、春は京都競馬場の芝3200m、秋は東京競馬場の芝2000mで行われている天皇賞は、言わずもがな、古馬最高の栄誉をかけて争われる、長い歴史と伝統を誇る競走です。
1905(明治38)年、横浜(根岸)競馬を開催する日本レース倶楽部が、明治天皇から「菊花御紋付銀製花盛器」を下賜され施行した「エンペラーズカップ」が天皇賞の前身で、翌年以降、東京、阪神、福島、札幌、函館、小倉の競馬倶楽部にも賞品が下賜され「帝室御賞典競走」の名称でレースが行われていました。
一方、1911(明治44)年から、各馬等しい条件で日本のチャンピオンを決め、日本一の賞金を与える「優勝内国産馬連合競走」が、年2回、東京(目黒・府中)と阪神(鳴尾、1924年から)の3,200m(2マイル)の距離で行われていました。これが、競走条件としての天皇賞のルーツといわれています。
1937(昭和12)年、各競馬倶楽部が「日本競馬会」に統合されたのを機に、「帝室御賞典競走」は春が阪神、秋が東京と、東西で年2回開催されることとなりました。この年の秋に東京競馬場・芝2600mで行われたレースが第1回の天皇賞とみなされていて、1938年秋からは「4歳以上、芝3200m」の競走条件で、戦争による中断まで「帝室御賞典競走」として行われました。
戦後、レースは1947(昭和22)年の春に「平和賞」の名前で復活。この年の秋からは「天皇賞」と改称され、春は京都競馬場、秋は東京競馬場で開催されることになりました。
横浜(根岸)で始まった「エンペラーズカップ」(帝室御賞典競走)と、東西で日本一を決めていた「優勝内国産馬連合競走」という2つのルーツを持った天皇賞は、創設以来、古馬最高の栄誉とされました。そのため、一度、天皇賞を勝った馬が、その後に敗れて権威を傷つけることのないよう、一度優勝した馬には出走資格が与えられていませんでした。いわゆる「勝ち抜け制」は、まさに天皇賞の格の高さを示す制度でした。
1981(昭和56)年の春に「勝ち抜け制」は廃止され、天皇賞には過去の優勝馬も出走できるようになりました。1984(昭和59)年には、競馬番組の変革に伴ってG1に格付け。同時に秋は2000mに距離短縮されました。1987(昭和62)年から秋の天皇賞には3歳馬も出走できるようになり、現在に至っています。
去年の牝馬クラシック2冠を制したスターズオンアースの回避は残念でしたが、世界ランク1位のイクイノックスを筆頭に、同期のダービー馬ドウデュース、春の2000mG1大阪杯の覇者ジャックドール、春の天皇賞馬ジャスティンパレス、札幌記念を圧勝したプログノーシスら、好メンバーが揃った今年の天皇賞・秋。“天覧天皇賞”にふさわしい名勝負を見せてくれるに違いありません。
2023/10/26 (木)
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。