『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマも前回に引き続き「距離の考え方」です。ぜひお楽しみください!
距離の考え方。前回は「1400mと1600mの違い」について見ていきましたが、今回は「2200mと2400mの違い」です。
何が違うのかの前に、この2つの距離はまったく異なる適性を求められると認識すること。そこから始めます。
【ポイント1】1番人気の信頼度が高い芝2400、低い芝2200。
過去10年の重賞(2013年から2022年)を対象に、芝2200mと芝2400mの1番人気の成績を比べたのが下の表です。
▲芝2200重賞と芝2400重賞における1番人気の成績(2013~22年)
激しく違うのがわかります。勝率で18パーセント、複勝率で25パーセント、芝2400重賞のほうが高い。10年という長い期間のデータですから、たまたまではない。
芝2200mはすべての距離の中でも最も1番人気の成績が悪い距離であり、芝2400mは1番人気の成績が良い距離です。こういう大事なことを知らないまま、馬券を買っている人が多すぎます。
芝2200の重賞…宝塚記念、エリザベス女王杯、アメリカJCC、京都記念、京都新聞杯、セントライト記念、オールカマーなど。
芝2400の重賞…オークス、ダービー、ジャパンC、日経新春杯、青葉賞、神戸新聞杯、京都大賞典など。
1番人気にもいろいろあるため、「単勝オッズ1.9倍以下」のダントツ1番人気についても調べてみました。
▲単勝オッズ1.9倍以下の成績(2013~22年)
やはり、芝2200は激しく良くない。圧倒的な人気馬の勝率が3割しかありません。
2400mの重賞は東京コースと京都コースがほとんどで、2200mの重賞は中山コースと阪神コースに多い。だから成績の違いは「距離」によるものではなく「コース」によるものではないかという意見もあるでしょう。それは否定しません。レースの設定(競馬場、時期)も含めた上での違いです。
この2つの距離は人気馬の信頼度に大きな差があると、知っておいてください。
【ポイント2】芝2200mは他の距離と求められる適性が違う
宝塚記念は「初G1勝利」になる馬がよく勝つ。そんな傾向があります。
かつて覇王テイエムオペラオーのライバルに、メイショウドトウという馬がいました。
2000年の天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念、2001年の天皇賞・春、すべてテイエムオペラオーの2着。ライバルと呼ぶには実力差が明白で、どうしても大きな壁を越えられなかった。最後の切れ味の差、もしくは末脚の長さの差と言うべきか、それがメイショウドトウには足りなかった。
しかし、2001年の宝塚記念。ついに覇王を倒すときがやってきます。阪神の内回り芝2200m。この距離なら、鋭い切れ味はいらない。末脚の長さもちょっと足りなくて大丈夫。
断然1番人気のテイエムオペラオーより先に仕掛けたメイショウドトウは、4コーナー先頭から押し切り、念願のG1タイトルを獲得します。これが最初で最後のG1勝利でした。
もっとさかのぼると、メジロライアン。1990年の皐月賞3着、ダービー2着、菊花賞3着、有馬記念2着。若き日の横山典弘ジョッキーをスターダムにのし上げ、大舞台の辛酸もなめさせた名馬です。世代最強と呼ばれ、ダービーも菊花賞も1番人気を集めながら、どうしてもG1が勝てない。あと一歩が足りない。
しかし、1991年の宝塚記念。ついに大願成就のときがやってきます。芝2200m。この距離なら、鋭い切れ味はいらない。末脚の長さもちょっと足りなくて大丈夫。
断然1番人気のメジロマックイーンより先に仕掛けたメジロライアンは、4コーナー先頭から押し切り、ついにG1タイトルを獲得します。これが最初で最後のG1勝利でした。
もっと最近なら、2017年のサトノクラウン(国内G1は初勝利)でも、2018年のミッキーロケットでもいい。宝塚記念は「初めてのG1勝利」になる馬が多い。それだけ特殊なレースであり、他のG1とは求められる適性が違う。
サトノクラウンが勝った年は、当時無敵と思われた断然1番人気のキタサンブラックが沈み、これはテイエムオペラオーやメジロマックイーンが敗れたことにも通じます。
【ポイント3】三冠牝馬は2200mを勝てない
同じような話ですが、せっかくデータを出したので、おもしろ豆知識として追加します。
これまで牝馬三冠を制した馬は、メジロラモーヌ、スティルインラブ、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイ、デアリングタクトの合計6頭います(秋華賞が創設された後なら、メジロラモーヌを除く5頭)。
これら三冠牝馬が芝2200の重賞に出走したときの成績は【0-1-4-7】。12連敗中です。
1600mの桜花賞と、2400mのオークスと、2000mの秋華賞を勝ったオールラウンドの名牝でさえ、2200mの重賞は勝てない。いや、根幹距離のオールラウンダーだからこそ、2200mは勝てないとしたほうがたぶん正しい。
G1に限らず、G2の京都記念やオールカマーでも、ジェンティルドンナやデアリングタクトが断然人気で沈んでいます。これが2200mという距離の怖さであり、2400mとの違いです。ちなみにウオッカも芝2200重賞は2戦2敗です。
アーモンドアイが宝塚記念に出るのを見たかったのですが、もし走っていたらどうなったかは、永遠の謎になりました。