ゴールドシップは荒くれ者の気性で、いつ凡走するかわからないイメージがあったけど、阪神が得意、東京が苦手など、得意な競馬場と苦手な競馬場がはっきりしていた。直線の長いコースに合う馬もいれば、カーブの多い小回りコースに合う馬もいる。その「競馬場適性」を見極めるのが大事である。これが前回の概要です。
では、この考え方を実戦の馬券に活かすにはどうすればいいのか。
得意な競馬場と、苦手な競馬場が分かれる理由はいくつもあります。
・右回りか、左回りか。
・直線の長いコースか、短いコースか。
・最後に急坂があるか、ないか。
・コーナーがきついコースか、ゆるやかなコースか。
・長距離輸送しなくてはいけない競馬場か、そうではない競馬場か。
……などなど。
各馬がどれに当てはまり、どの要因が本当の理由なのかは、慎重な見極めが必要です。
しかし、これらを全部ひっくるめて、シンプルなひとつのファクターで見る方法もあります。「上がり3ハロン」のタイムです。
ゴールドシップを例に取ります。ゴールドシップの戦績から「レースの上がり34秒9以内の重賞」と「レースの上がり36秒以上の重賞」を抜き出したのが、以下の表。上がりが速かったレースと、上がりが遅かったレースです(その他は省略)。
▼レースの上がり34秒9以内の重賞
▼レースの上がり36秒以上の重賞
レースの上がり34秒9以内の重賞は【1-0-1-4】。6回走って、勝ったのはG3の共同通信杯だけ。G1とG2は全敗です。
レースの上がり36秒0以上の重賞は【5-2-1-2】。10回走って5勝。G1も4勝しています。
つまり、ゴールドシップは上がりの速いレースが苦手で、上がりの遅いレースが得意だった。別の言い方をすると、阪神競馬場が得意だったのは、阪神の内回りコースは上がりが遅くなりやすいため。東京競馬場が苦手だったのは、上がりが速くなりやすいため。
こんなふうにまとめることもできるのです。上がり34秒9以内のレースに阪神がひとつもないことを確認してください。
上がり3ハロンのタイムというのは、直線の長さや、急坂の有無、その日の馬場状態などに影響されるため、前記のたくさんのファクターをひとまとめにして「レースの質」をはかれる便利さがあります。
これを知っていると、その馬は上がりの速いレースに合うのか、上がりの遅いレースに合うのかという見方で、得意と不得意を見分けることができる。まだ走ったことがない競馬場についても、得意かどうかを予測できるようになります。
ゴールドシップは函館でデビューして、札幌2歳Sで2着したのが最初の重賞連対でした。函館と札幌は、洋芝コースの直線の短い競馬場。コーナーが多く、上がり3ハロンが遅くなりやすいコースです。
すっとばして簡単に言うと、函館や札幌の芝が得意な馬は、中山や阪神の内回りも得意なことが多く、東京や京都はあまり得意じゃないこともあるので要注意。「上がりが速いか遅いか」という分類では、函館や札幌は中山や阪神と同じグループに入るからです。上級者のツッコミはスルーします。
ゴールドシップが中山と阪神内回りに向くタイプであろうことは、デビュー直後の函館と札幌の結果から、ある程度は予測できたのです。
ちなみに、札幌2歳Sでゴールドシップを負かしたグランデッツァも、その後、中山と福島の重賞を勝ち、東京はさっぱりでした。
もちろん、本当に中山や阪神が得意かどうかは走ってみないとわからない。でも、走り終わるまで待っていたら、おいしい配当を得られない。走ったことがなければ、近いタイプの競馬場の成績を参考にすればいいのです。
これを応用した実戦馬券術を紹介します。
関東の場合、中山に近いのは、右回りで直線の短い福島です。東京に近いのは、左回りで直線の長い新潟です。
3月と4月に中山開催、5月と6月に東京開催があり、7月に福島、8月に新潟がある。この順番がおいしい馬券を生んでくれます。
「7月の福島は、3、4月の中山に好走実績を持ち、5、6月の東京で凡走して人気を落とした馬を狙え!」
「8月の新潟は、5、6月の東京に好走実績を持ち、7月の福島で凡走して人気を落とした馬を狙え!」
「9月の中山は……(以下省略)」
関西の場合は、京都競馬場が新装されるこのタイミングで何か書かないほうがいいでしょう。早く京都の特徴をつかむゲームが今年、いっせいスタートで始まります。
以上で終わりにしようかと思いましたが、内容が初級者向けすぎる気もするので、もうひとネタ。
ゴールドシップが苦手にした東京競馬場。ダービー5着、4歳のジャパンC15着、6歳のジャパンC10着と、敗れた3戦の勝ち馬には共通点があったことを知っていますか。
ダービーの1着はディープブリランテ。父ディープインパクト。
4歳のジャパンC1着はジェンティルドンナ。父ディープインパクト。
6歳のジャパンC1着はショウナンパンドラ。父ディープインパクト。
ゴールドシップが敗れた東京の3戦は、すべて勝ち馬がディープ産駒。2着もディープ産駒が2頭でした。芦毛のスタミナ番長に合わないレースを制したのは、ことごとくディープインパクト産駒だったのです。
これが馬券を組む上でとても有効な考え方であることは、わかってもらえるでしょう。ディープインパクト産駒は上がりの速いレースや、直線の長い東京競馬場が大得意のため、こんな現象が起こります。
ある馬の得意条件を見つけたら、消すときには正反対の個性を持つ馬を買えばいい。
以上、ゴールドシップに学ぶ馬券術でした。
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田端到
1962年、新潟生まれ。週刊誌記者を経てフリーのライターに。辛辣ながらも軽妙な文章には定評があり、馬券初心者からベテランまで多くのファンを持つ。近著に「田端到・加藤栄の種牡馬事典」シリーズ、「金満血統王国」シリーズなど。ウェブサイト・noteでは競馬マガジン『王様の極楽競馬天国』を連載中。