この連載は「名馬に学ぶ馬券術」というタイトルで、まず名馬を紹介して、そこから馬券術のファクターをひとつピックアップして掘り下げるという形で書いてきましたが、ちょっと誤解を招くことに気付きました。
メインは馬券術のファクターのほうです。ファクターをひとつピックアップして掘り下げ、その際に名馬を題材にする。つまり、第3回なら「テーマはシンボリルドルフ」ではなく、「テーマは展開。それを学ぶのに適した名馬がシンボリルドルフ」という順番です。
今回のテーマは「枠順」。これを学ぶ題材として登場してもらう名馬はサトノアラジンです。
枠順の考え方は大きく分けて3つあります。
(1) 内枠が有利なコース、外枠が有利なコース、中枠が有利なコースなど、コースによって枠順の有利不利がある。
(2) 内枠の得意な馬、外枠の得意な馬など、それぞれの馬によって歓迎する枠順と、歓迎しない枠順がある。
(3) そのコースの内枠が有利なのか、外枠が有利なのかは、当日の馬場状態や開催時期によっても変わっていく。
今回の入門編で取り上げるのは(1)と(2)です。
最初に見てもらいたいのは、東京芝1600mのG1の枠順成績。NHKマイルC、ヴィクトリアマイル、安田記念と、年に3つのG1が開催される重要なコースで、過去10年、30鞍のG1が行われました。
▼東京芝1600mのG1・枠番別成績(2013年以降)
一目瞭然。30レース行われ、1枠の馬が1勝もしていません。東京芝1600mのG1で1枠の馬が勝ったのは、2007年の安田記念のダイワメジャーが最後。もう16年前です。
近年は馬場整備の技術が進んだせいで、どこの競馬場も内枠有利の傾向が強いのですが、そんな中においても15年以上、1枠の馬が勝ったことがない。このような基礎知識を知った上で馬券を買うか、知らずに馬券を買うかでは、結果に大きな差が出ます。
比較のため、阪神芝1600mのG1についても同じデータをあげます。桜花賞、阪神JF、朝日杯FS、近年は京都代替のマイルCSと、過去10年、32鞍のG1が開催されています。
▼阪神芝1600mのG1・枠番別成績(2013年以降)
こちらは近年ぐっと内枠有利にシフトしつつあり、1枠の馬が6勝。勝率もトップです。同じ芝1600mのG1でも、東京と阪神はこれだけ違うのだということを、頭に入れておきましょう。
ここでサトノアラジンの登場です。サトノアラジンは父ディープインパクト。全姉に2014年のエリザベス女王杯を勝ったラキシスを持ち、当歳のセレクトセールで1億3000万円以上の高値がついた良血馬でした。現在は種牡馬として活躍中です。
3歳時は共同通信杯3着、神戸新聞杯4着、菊花賞6着。4歳からマイル路線に転じると成績が安定し、5歳で京王杯スプリングCとスワンSを勝利。しかし、マイルCSは1枠を引いて1番人気5着。そして6歳の安田記念で7枠14番を引き、川田騎手を背に7番人気1着。悲願のG1勝利を果たしました。
サトノアラジンの枠順成績が下の表です。香港のレースは含めず、国内のレースのみ。
▼サトノアラジンの枠番別成績
7枠と8枠で6勝。1枠から4枠は0勝。見事に外枠に好成績が偏っています。7枠と8枠では【6-2-0-2】。凡走したのは距離が長かった菊花賞と、不良馬場の天皇賞・秋だけです。
外枠が得意だった理由はいくつか考えられますが、ストレスを受けずに、ギリギリまで末脚をためたほうがいいタイプだったため、その個性が外枠に向いたのでしょう。前半に脚を使わず、後方待機の競馬に徹しやすい枠が良かった。
外枠得意、内枠苦手なサトノアラジンが、5歳秋のマイルCSでは1枠に入り、1番人気で5着に敗れた。6歳の始動戦の京王杯スプリングCも4枠4番に入り、またまた1番人気で9着に敗れた。
次走が2017年の安田記念でした。18頭立ての7枠14番に入ったサトノアラジンは人気急降下で単勝オッズ12.4倍。
安田記念の2013年以降の10年間の枠順成績は下の表。外の枠が強いレースです。
▼安田記念の枠番別成績(2013~2022年)
サトノアラジンは後方待機から大外を回って直線一気! 上がり33秒5の末脚を繰り出して突き抜け、安田記念を制覇しました。
サトノアラジンの個性と、東京芝1600mや安田記念の枠順傾向を知っていれば、「なぜマイルCSの1枠で1番人気にして、待望の安田記念の7枠で人気薄になったのか!?」と、ドヤ顔で講釈をたれたくなるようなオッズの跳ね上がり方でした。
上に記した枠順の考え方(1)と(2)を組み合わせると、こんなふうにおいしい馬券が簡単に当たることがあります。
次回はもう少し踏み込んだ応用編です。
【第7回】枠順の考え方をサトノアラジンに学ぶ(入門編)/王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」
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田端到
1962年、新潟生まれ。週刊誌記者を経てフリーのライターに。辛辣ながらも軽妙な文章には定評があり、馬券初心者からベテランまで多くのファンを持つ。近著に「田端到・加藤栄の種牡馬事典」シリーズ、「金満血統王国」シリーズなど。ウェブサイト・noteでは競馬マガジン『王様の極楽競馬天国』を連載中。