『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマは前回に引き続き「枠順の考え方」です。ぜひお楽しみください!
枠順の考え方、応用編です。
・同じコースでも、内枠が有利か、外枠が有利かは、当日の馬場状態や開催時期、レース展開によっても変わっていく。
今回はこれについて見ていきます。
前回、東京芝1600mのG1に注目して「過去15年、1枠から勝ち馬が出ていない」ことや「安田記念は外枠が優勢」なことを紹介しました。
同じ東京芝1600mのG1にヴィクトリアマイルがあります。牝馬限定のG1です。過去10年の枠順成績を、ヴィクトリアマイルと安田記念で比べてみましょう。
▼ヴィクトリアマイルの枠番別成績(過去10年)
▼安田記念の枠番別成績(過去10年)
赤字で表示しているのは、高率の枠トップ3です。
安田記念は5枠から7枠が好成績なのに対して、ヴィクトリアマイルは2枠と3枠の成績が優秀なのがわかります。過去6年のヴィクトリアマイルでは、3枠が3勝、2枠が2勝。6回のうち5回で、どちらかの枠が勝ち馬を出しています。同じ東京芝1600mのG1なのに、安田記念とこれだけの違いがあるのです。
理由はいくつか考えられます。
ヴィクトリアマイルは牝馬限定戦。牝馬同士のレースは中盤のペースが落ち着きやすく、隊列が一度定まると、そのまま動かない。結果、上がりの速さを求められる決着が多く、少しでも前の位置や、内の位置を取りやすい内枠が有利になる。
一方、牡馬混合の安田記念は、前半が速い上に(1000m58秒未満が過去20回中16回)、中盤の出入りやマクリもあり、隊列が定まったまま進むことは少ない。全体に厳しいラップになりやすい。結果、前の位置や内の位置よりも、後ろの位置やストレスのかかりにくい外の位置が有利になることが多い。
レースの質として、隊列が落ち着きやすい牝馬戦のヴィクトリアマイルは内枠が有利になり、隊列の出入りが激しい牡馬混合の安田記念は外枠が有利になる。このあたりは単にラップの数字を見るのではなく、レース映像を見て、違いを感じて欲しいところです。
と書くと、上級者の中には「2歳牝馬の東京芝1600mの重賞アルテミスSは外枠が強いぞ!」とツッコミを入れる人がいるかもしれませんが、それがわかっているような人は本稿を読まなくても大丈夫です。
2歳牝馬にとって東京芝1600mはタフな舞台なので、軽いスピードだけで押し切るのが難しく、アルテミスSは外枠の馬の差しがよく決まります。これもレースの質の違いです。
▼アルテミスSの枠番別成績(G3昇格後の過去9回)
ヴィクトリアマイルと安田記念の枠順傾向が異なる、もうひとつの理由は開催時期です。ヴィクトリアマイルは5月の2回東京開催に施行され、安田記念は6月の3回東京開催に施行されます。
開催前半は馬場がきれいなため、少しでも距離損のないインコースを走れる内枠が有利になる。開催が進むと、たくさんの馬が通るインコースほど馬場がいたむため、きれいな状態の外を走れる外枠が有利になっていく。
これは東京芝1600mに限らず、すべての芝コースの内外の有利不利を考える上でもっとも大事な原則です。
第1段階。開催前半は内が走りやすくて内有利。
↓
第2段階。開催が進むと内がいたみ、外が有利になっていく。
↓
第3段階。ほとんどの馬が外を通るようになると、距離ロスの少ない内を通った馬がまた穴になる。
という内→外→内の変化もあります。
5、6月の連続開催の前半に行われるヴィクトリアマイルと、後半に行われる安田記念では、単純にヴィクトリアマイルのほうがインコースがいたんでない。だからヴィクトリアマイルは内枠が有利になりやすく、安田記念は外枠が有利になるという違いもあるのだと思われます。
ちなみに、上記の内有利→外有利の変化が顕著に起こるのは、ローカルの小回りコースです。特に福島や小倉は「内有利の馬場」と「外有利の馬場」が劇的に入れ替わることがあります。
ちょうど先週終わった23年の冬の小倉開催は、降雪の影響もあり、開催終盤は外枠断然有利の馬場になりました。いい例題なので振り返っておきます。
▼2月11日(土)の小倉芝レースの枠連
5-7、7-8、6-7、6-7、1-7、5-7
▼2月12日(日)の小倉芝レースの枠連
3-4、2-6、7-8、5-7、5-7、6-7、6-6
こういう変化に敏感な人は2月11日の競馬を見て「きたぞ、きたぞ、外枠の馬が伸びる外有利馬場だ」と察知して、外枠狙いを敢行。土曜は芝レースすべてで7枠が連対しました。
日曜の2月12日も外有利の傾向は続き、メインの北九州短距離Sは1着から3着まで、馬番11番、12番、17番と入って、3連単5万馬券になりました。
翌週はどうなったか。翌週も外枠有利は変わらず、土曜の芝レースは、
▼2月18日(土)の小倉芝レースの枠連
1-5、5-7、5-6、7-8、5-7、6-8
またしてもほとんど5枠より外の枠で決着。
ここまで続くと、さすがに多くの人が気付きます。普段は裏開催の小倉の馬券なんて買ったことがない人まで「おい、今の小倉は外枠さえ買えば当たるらしいじゃないか」と騒ぎ始めました。
2月19日、日曜のメインレースは小倉大賞典。結果がどうなったかというと、1着は6番ヒンドゥタイムズ、2着は1番カテドラル、3着は7番バジオウ。
多くの馬がインコースを避けて外を回る中、コースロスの少ない馬場の真ん中へんを通った6番と1番が勝利を争いました。これもよくあるパターンなのです。
ビギナーを含む多数派が気付く頃には、もうそのトレンドは終わり、逆の目が出る。株やギャンブルの鉄則を教えてくれる格好の題材になった23年小倉大賞典でした。