『田端到・加藤栄の種牡馬事典』で知られる田端到氏が、馬券術の入門から応用まで競馬予想の考え方・コツを伝授する『王様・田端到の「名馬に学ぶ馬券術」』。
今回のテーマは「距離の考え方」です。ぜひお楽しみください!
今回のテーマは「距離の考え方」です。
各馬に合う距離は何メートルなのかという「距離適性」を考える前に、それぞれの「距離」が持つ特徴のようなものを知っておく必要があります。
何メートルまで短距離で、何メートル以上が長距離かという、基準の定義はありません。一般的によく使われるのは次のような分け方です。
・1400m以下/ 短距離
・1600m / マイル
・1700~2200m / 中距離
・2400m以上 / 長距離
この分け方は異論があるかも知れません。でも、どうでもいいです。
距離の考え方で特に重要だと私が思うのは、次の3つです。
(1)1400mと1600mは全然違う。この違いを認識すること。
(2)1800mと2000mは全然違う。この違いを認識すること。
(3)2200mと2400mは全然違う。この違いを認識すること。
突き詰めれば全部の距離が違うのは当たり前ですが、馬券的中を目的とした場合にカギを握るのはこの3つ。
今回は1400mと1600mの違いについて見ていきます。
【ポイント1】種牡馬ランキング上位が大きく違う
まず芝1400と芝1600の種牡馬ランキングを比べてみます。集計期間は2018年から22年の5年間。順位は勝利数による。
▲芝1400の種牡馬トップ5(勝利数順)。2018年から2022年。
▲芝1600の種牡馬トップ5(勝利数順)。2018年から2022年。
芝1400はロードカナロアが断然1位。芝1600はディープインパクトが断然1位。何を今さらと思う人もいるでしょうが、たった200メートルの差でこんなに違うんだという再確認です。
芝1600ダントツのディープインパクトは、芝1400だと3位まで下がってしまう。ロードカナロアは率を見ると芝1400も芝1600もほとんど同じなので、芝1600で下がるわけではありません。芝1600のディープが突出しているだけです。
他では、芝1400だとキズナが上位に入り、芝1600だとエピファネイアが高率で入ってきます。
【ポイント2】1600mのG1は前走1400mの馬が不振
1400mと1600mが、異なる適性を問われる距離であると示す証拠がこれです。1600mのG1は、前走1400mを走ってきた馬が振るわない。
2018年以降の芝1600のG1について、前走の距離別に成績を集計したのが下の表です。ダートだと1600mが施行されるのは東京競馬場だけのため、芝に限定しました。さっきと集計期間がちょっと違うのは気にしないでください。種牡馬成績は年単位で取るべきと思っているためです。
▲芝1600のG1、前走距離別成績(集計期間:2018年から2023年4月10日)
前走が1400mだった馬は連対率4.8%、わずか5勝のみ。他の距離と比べると率の低さがわかります。「5勝もしていれば十分」という意見もあるでしょうが、芝1600のG1のトライアルの多くが芝1400で組まれていることを考えれば、この勝率や連対率は明らかに不振です。
逆にどのレースなら1400mからつながるのか。
・3歳馬のファルコンS→NHKマイルC
・2歳牝馬のファンタジーS→阪神JF
上記2つのローテなら、芝1400から芝1600のG1でも好走例はちょくちょく出ます。
ファルコンSは中京コースでハイペースになりやすく、マイル寄りの持久力も問われるため。ファンタジーSと阪神JFは距離の違いよりも、絶対的なスピード能力の違いが結果に出るため。これ以外、芝1400→芝1600のG1は馬券の確率が低い。
今年の桜花賞でも「フィリーズレビュー組は不振」というデータを見かけたのではないでしょうか。本当に強い馬ならこのローテもクリアできるし、2022年の桜花賞では前走フィリーズレビュー2着だったナムラクレアが3着に来ました。あくまでも、好走例が少ないという意味です。今年の桜花賞は1着から6着まで「前走1600組」でした。
さらに上記の表を見ると、前走が2000mだった馬の好成績にも気付きます。出走例は多くなくても、勝率がとても高い。
「NHKマイルCは前走2000mの馬を狙え」という馬券術もあり、前走1400の馬より、前走2000の馬のほうが、1600のG1につながるのです。これはダートのフェブラリーSにも同様の傾向が見られます。
この辺は説明が難しいのですが、400で割り切れる距離は「根幹距離」と呼ばれ、400で割り切れない距離とはレースの質が違うという考え方があります。
血統のデータを調べても、1400mと1800mは得意なのに、1600mと2000mでは勝ち切れない種牡馬がいたりします。機会があれば、いつか取り上げます。
【ポイント3】1400mだけ走るスペシャリストがいる
1400mと1600mの違いを考える上で大事なポイントの3つめ。ある距離を専門にして、その距離でしか走れない馬をスペシャリストと呼びますが、1400mはこのスペシャリストが多い。
記憶に新しいところではダイアトニック。スワンSや阪急杯など、芝1400の重賞を4勝。芝1400では【8-1-1-0】という完璧な成績を残しました。しかし、芝1600の重賞は【0-1-0-4】。新馬戦で勝ったきり、この距離では振るいませんでした。
もっとさかのぼると、サンカルロも有名な芝1400のスペシャリストでした。阪急杯、阪神カップなど、芝1400の重賞を3勝。特に阪神芝1400に高い適性を示しました。驚かされたのは、8歳になった2014年の阪急杯。1年以上も馬券から遠ざかり、さすがに年齢的に終わったのだろうという見方があった中、8番人気でコパノリチャードの2着に追い込みました。
しかし、芝1600の重賞は【1-0-0-9】。3歳春にニュージーランドTを勝ったきり、馬券に絡めなかった。1400mと1600mは異なる適性を問われる距離だと、わかりやすく示してくれた馬です。
では、1400mと1600mは何が違うのか。説明を試みる予定でしたが、理屈っぽくなってしまうので今回はやめておきます。
たぶん、全力で一気に走りきれる距離が1400mで、それができないのが1600mだと思っていますが、折り合わなくても走れる距離の上限が1400m、折り合わないと走れない距離が1600mという言い方のほうが適切かもしれません。
1600mのレースの予想をする際に、1400mの成績は参考にならない。1400mのレースの予想をする際に、1600mの成績は参考にならない。これを覚えておきましょう。