11月28日のジャパンカップ。ラストランを有終の美で飾ったコントレイルの走りとレース後の引退式はとても感動的でした。
「走るというより飛んでいるようだった」ディープインパクトの死から1か月半後、「飛行機雲」という意味の名前をつけられた馬がデビューして、父と同じ「無敗の3冠馬」になるのですから、競馬の不思議な運命を感じずにはいられません。
そして「血を育むのは人」。コントレイルを管理したのは矢作芳人調教師でした。
コントレイルが3冠馬になった時、私はすぐに、矢作調教師とディープインパクトにまつわる記憶を思い出しました。
2006年のクリスマスイヴ。第51回グランプリ有馬記念。ディープインパクトのラストランとなった大一番に中山競馬場は入場制限がかけられるほどの注目を集めていました。この年は、私がグリーンチャンネルでの仕事をさせていただくようになった最初の年。歴史的瞬間を目に焼き付けようと、キャスター仲間と競馬場に足を運び、関係者の邪魔にならないように、1コーナー辺りで「英雄」の最後の走りを見ていました。
その時、後方の調教師ルームから、頭はテンガロンハット姿、手にはバズーカ砲かと思うほどの巨大な望遠レンズを装着した一眼レフカメラを持った一人の男性が、1コーナーの外ラチに向かって一直線に走って行きました。当日はマスコミにも厳しく行動が監視される、いわゆるピリピリムード。その男性も、すぐにJRAの職員に注意され、それでもディープインパクトの最後の走りを可能な限りのベストポジションからカメラに収めようと外ラチ沿いの僅かな隙間に陣取っていました。
その男性こそ、矢作芳人調教師。当時は開業2年目。スーパーホーネットで初めて重賞を勝つ1年前のことです。語弊を覚悟で言いますが、現役の調教師が、ただの競馬ファンの如く目をキラキラさせながら、興奮気味に自分のカメラに歴史的名馬の姿を収めようとしていた光景は衝撃的でしたし、今でも忘れられません。
それから5年半後、ディープインパクト産駒初のダービー馬は、矢作厩舎初のダービー馬でもあるディープブリランテだったこと。そして、ディープインパクトがこの世を去った直後に、再び矢作厩舎から牡馬におけるディープインパクトの最高傑作コントレイルが現れたこと。私には宿命としか思えません。
来週末の香港国際競走では、同じく矢作調教師が管理するディープインパクト産駒の牝馬・ラヴズオンリーユーが香港カップに出走します。アメリカ・ブリーダーズカップを勝利するという歴史的快挙を遂げた名牝のラストランも、しっかり目に焼き付けたいですね。
ディープインパクト、コントレイル、矢作調教師・・・/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
- 08/11 (木) ジャックルマロワ賞を勝利した名馬たち/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
- 08/04 (木) ハクホウクンとホワイトエンジェル賞/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
- 07/28 (木) 札幌競馬場のハナシ/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
- 07/21 (木) 発汗のハナシ/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
- 07/14 (木) “お値段以上”な馬たち/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ

大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。