以前、ある先輩競馬キャスターと「ダイワスカーレットは逃げ馬なのか」という議論をしたことがあります。
8勝2着4回と生涯1度も連を外さなかったダイワスカーレットはラストランの有馬記念で見せた逃げ切り勝ちが印象的ですが、実はキャリア12戦の中で逃げ戦法に出たのは半分の6戦だけ。桜花賞は後方から徐々に進出しての勝利でしたし、秋華賞は2番手追走から4コーナーで先頭に立っての「先行抜け出し」でした。結論としては、結果的に「逃げ」たり「先行」したりする「逃げ・先行馬」だったと解釈しています。
2016年と17年に2年連続で年度代表馬になったキタサンブラックも似たようなタイプの馬でした。GIタイトル7つのうち逃げ戦法での勝利は3つ。その他4勝は、出遅れから武豊騎手の「神騎乗」で逆転した秋の天皇賞含め「逃げ」以外の勝利でした。
もちろん2頭とも「逃げ」の形をとる以上「逃げ馬」なのでしょうが、競馬を「言葉」で伝える職業からすると、他の「逃げ馬」と一括りになってしまうのは避けたいなというのが本心です。
逃げ馬のタイプ分けで参考になるのがラップタイムです。上記2頭が逃げた際のラップタイムの推移を見ると、やや速めのマイペースで逃げて追走馬のスタミナを浪費させ、一度息を入れて引き付けてから最後に加速して一気に突き放す…というのがパターンのようです。ダービーで精密機械のように正確なラップを刻んで逃げ切った1992年のクラシック2冠馬・ミホノブルボンも、逃げのタイプとしては共通しています。
そんな名馬たちを思い出したのが、5連勝で金鯱賞を制したジャックドール。中京芝2000mのレコードタイムを1秒以上更新する1.57.2の快勝でした。「金鯱賞での逃げ切り勝ち」ということで、伝説となっている1998年の金鯱賞の勝ち馬サイレンススズカを想起された方が多いようですが、タイプを考えると、この2頭はだいぶ違うようです。
1998年のサイレンススズカのペースは前半58.1-後半59.7だったのに対し、今年のジャックドールは前半59.3-後半57.9でした。どうやらジャックドールは、ダイワスカーレットやキタサンブラック、ミホノブルボンと同じタイプのように見えます。
一方、サイレンススズカのような「肉を切らせて骨を断つ」タイプの逃げ馬に思えたのが、中山記念を勝ったパンサラッサ。去年の福島記念はコントラチェックを引き連れた逃げでしたが、前半57.3-後半61.9のラップで追走馬は馬群に沈みました。先月の中山記念も前半1000mを57.6秒で通過する大逃げを打ち、最後の1Fは13秒台にまで脚が鈍りましたが、他馬に勝機も与えぬ逃走劇でした。来週末のドバイターフが本当に楽しみです。
と、能力比較ではなく、あくまでもタイプ別に「逃げ馬」を分類してみました。今年は脚質に特徴がある馬たちが続々と古馬のG2を勝利し、レースがとても面白くなっているように思います。それだけに、正確な馬の個性を言葉で伝えられるようにしていきたいものです。
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。