先週のヴィクトリアマイル。皆さんは、どんなシーンが印象に残りましたか? 白毛のソダシが神々しいほどの輝きで直線を突き抜け、吉田隼人騎手が渾身のガッツポーズ見せたシーンですか? それとも、スタート直後で、3コーナーで、あるいは最後の直線で、応援していた馬が躓いてしまったシーンでしょうか。全ての馬が能力を出し切ることが出来たら、それが一番いいレースなのでしょうが、中には不完全燃焼に終わってしまった馬も出てしまうのが競馬なのでしょう。
私が一番、印象に残ったシーンは、実はレース前にありました。出走馬18頭の本馬場入場。レースの歴史に残るような豪華なメンバーがそろった中、1枠1番ながら、デアリングタクトが最後に入場してきたシーンです。去年4月のクイーンエリザベス2世カップ出走時に右前肢繋靱帯炎を発症し、1年以上のブランクがあった復帰戦。プラス22キロの馬体重で現れた姿を、競馬ファンは様々な思いで見つめていたはずです。
まるで真打ちとばかりに18頭目に馬場に入ってきた2020年の3冠牝馬。すると、場内に流れる実況でラジオNIKKEIの小林雅巳アナウンサーは、
「そして・・・待ってました。よくぞ復帰してくれました! 1番デアリングタクト!!」
その瞬間、東京競馬場のスタンドから大きな拍手が湧き上がりました。声は出せなくとも、その拍手で「おかえりなさい」を伝えたい。競馬ファンの優しさが詰まった拍手でした。
史上6頭目の3冠牝馬という特別な馬だけに、復帰するまでには、杉山晴紀調教師をはじめ、厩舎スタッフは大変なプレッシャーの中での並々ならぬ苦労があったことは想像に難くありません。それだけに、あの津波のような拍手は、少しは報われたような瞬間だったのではないでしょうか。
また、鞍上の松山弘平騎手は、自身も3月に大きな落馬事故があって、1ヵ月の休養を余儀なくされただけに、「よくぞ復帰してくれました!」の一言は、人馬揃って戻ってこれた喜びを実感されたのではないでしょうか。それだけに、小林アナの一言は、すべての競馬ファンの思いを代弁してくれた素晴らしい紹介でした。
今週のオークス、来週のダービーは、7万人の観客が東京競馬場に集まる見込みです。早く大きな声を出しながら観戦したい・・・という思いも、もちろんあるのですが、変なヤジではなく、心のこもった拍手を送る観戦スタイルも悪くないなぁと感じました。と、そんなことを綴っている最中、北村友一騎手が1年ぶりに調教を再開したという報が届きました。北村友一騎手がターフに戻ったときには「おかえりなさい」という万感の思いを込めて、大きな拍手を送りたいですね。
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。