「戻り梅雨」で、いくらか和らいでいた暑さが、また戻ってきました。そうなると外出時に額や体から噴き出すのが汗。以前、中継内で「暑さで馬も汗をかくでしょうね」と解説者に尋ねたところ、「馬は人とは違い、暑さで汗をかくのではなく、運動したり興奮したりした時に汗をかくんです」と教えていただきました。勉強不足が露呈してしまい「冷や汗」をかいてしまったのですが、今回は、そんな苦い思い出をきっかけに私が調べた「馬の発汗」についてのハナシです。
私たち人間は体温調節のために汗をかくわけですが、そもそも体温調節のために汗をかく動物は非常に少なく、全身に汗をかくことで体温を下げることができるのは、人間と馬くらいなんだそうです。このうち人間は気温の変化だけで、じっとしていても大量の汗をかくのに対し、上記の通り、馬は運動や緊張、興奮といった要素がないと大量の汗はかきません。馬は、汗はかくものの、高温に対して汗をかく能力は発達していないので、一般的に「馬は夏に弱い」とされているようです。
ところで、温泉宿などで「馬油」から作られたシャンプーや石鹸、スキンクリームを見かけたり使ったりしたことはないでしょうか。「馬油」は馬のたてがみや皮下脂肪から得られる油脂で、保湿に優れ、皮脂の汚れを落とすことが出来る上、殺菌効果や炎症を抑える効果も期待できるのだそうです。
馬の体はそんな油分に覆われているので、汗をかいても油分ではじかれてしまいます。これでは体温を下げることが出来ません。では、なぜ馬は汗をかいて体温を下げることができるのでしょうか。
その秘密が、私たちが競走馬の発汗を見分ける判断材料にしている、あの白い泡。テンション高めの馬がレース前の興奮や緊張から、鞍の下や首筋などに浮き出しているアレです。
馬の汗には、ラセリンという石鹸や洗剤の成分に似た界面活性物質が含まれていて、これによって馬の汗は油分がついても、はじかれずに皮膚や被毛に広がります。広がった汗は蒸発しやすくなり、体内で発した熱を効率よく体の外へ放出することが出来るのです。
パドックや厩舎の馬房でミストを気持ちよく浴びている競走馬を見かけます。馬は、汗はかくものの、高温に対して汗をかく能力は発達していないということを知ると、猛暑時に馬の体に水分をかけてあげることの重要性を実感します。また、普段は37~38度と言われる競走馬の体温が、レース中には43度を超えるそうですから、この時期の厩舎スタッフの皆さんのご苦労は想像に難くありません。人も馬も、最善の熱中症対策で酷暑を乗り越え、熱い夏競馬を楽しませていただきたいと思います。
発汗のハナシ/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。