ドバイワールドカップデーから5日が経ちました。今年もグリーンチャンネルで5時間半の中継の進行役を務めさせていただきましたが、あの夜に起きた夢のような出来事を、ようやく現実のこととして実感し始めています。
夢の始まりは、ドバイワールドカップデーの3レース目に組まれた芝3200mのG2ドバイゴールドカップでした。去年ステイフーリッシュが制したレースに今年は日本調教馬の出走はありませんでしたが、松島正昭さんが共同所有するエイダン・オブライエン厩舎の7歳馬・ブルームが見事、差し切り勝ちを決めました。鞍上のライアン・ムーア騎手が身に纏っていたのはキーファーズの勝負服。前日にドバイターフを無念の取り消しとなったドウデュースと同じ勝負服でした。解説の合田直弘さんは『日本1勝!』とおっしゃいました。
去年、クラウンプライドが日本調教馬として6年ぶりに制した3歳馬によるダート1900mのG2UAEダービーは5頭の日本調教馬が出走。結果は、サウジからの転戦だった全日本2歳優駿の勝ち馬デルマソトガケがスタートを決めると、そのまま大楽勝。2017年と18年のドバイゴールデンシャヒーンを連覇したマインドユアビスケッツの初年度産駒が圧巻のパフォーマンスで5月6日にチャーチルダウンズで行われるケンタッキーダービーに名乗りを上げました。2着に芝のG1ホープフルS勝ち馬ドゥラエレーデ、3着コンティノアール、4着ぺリエールと、上位4頭を日本調教馬が独占。メインレースでの歓喜を予感させました。
そして、海外馬券発売も行われた後半4つのG1レース。
日本調教馬4頭が出走したダート1200mのドバイゴールデンシャヒーンは、リメイクの5着が最先着となり、このレースの日本調教馬初勝利はなりませんでした。一方、日本調教馬が過去6勝している芝1800mのドバイターフは、去年、パンサラッサと同着で連覇を果たしたロードノースが3連覇という大偉業を達成。フランキー・デットーリ騎手がドバイの地で最後のフライング・ディスマウントを見せてくれました。日本調教馬では、やはり今年限りでの騎手引退を表明しているジョアン・モレイラ騎手が騎乗したダノンベルーガが残り100mで鋭い脚を伸ばして2着。人気を集めたセリフォスは5着に終わりました。
芝2410mの準メイン、ドバイシーマクラシックには、去年の年度代表馬イクイノックス、連覇を狙うシャフリヤール、香港ヴァーズ勝ち馬ウインマリリンという強力な3頭が日本から出走。レースは、イクイノックスが先頭でレースを引っ張るという、これまでは見せてこなかった父キタサンブラックを彷彿とさせるレース運びから、直線では持ったままで後続を突き放すという圧巻のパフォーマンス。従来のタイムを1秒も更新する2分25秒65のレコードでの圧勝劇で世界に衝撃を与えました。鞍上のクリストフ・ルメール騎手は、先日この世を去ったハーツクライで2006年のこのレースを、まさにこの日のレースと同様、ハナから後続を突き放す競馬で勝利していました。17年後、偉大なる先輩と同じく、日本の最強世代を引っ張る「天才」が再び伝説を作りました。
イクイノックスの衝撃の余韻が残る中で行われたメインのドバイワールドカップ。ダート2000mの舞台に15頭が出走。うち日本調教馬が過半数の8頭を占めました。3日前、マイアミの地で世界の頂点に立った侍ジャパンのように、芝・ダートの“二刀流”を含んだ最強ラインナップで臨んだ一戦を制したのは、1年前の春にダートに転向し、破竹の勢いで東京大賞典、川崎記念と連勝していたオルフェーヴル産駒の6歳馬ウシュバテソーロでした。最後方から直線一気の追い込みを決めての快勝。その背中には、現在の日本競馬界ナンバーワンジョッキー・川田将雅騎手がいました。日本調教馬が日本人騎手の手で掴んだ「世界一」でした。
中央・地方の「交流元年」の象徴だったライブリマウントが日本代表として挑んだ1996年の第1回ドバイワールドカップから27年。ホクトベガの悲劇。トゥザヴィクトリーの2着。震災直後の2011年、ヴィクトワールピサとトランセンドのワン・ツー。去年と一昨年のチュウワウィザードの健闘…。日本のダート競馬を長く見てきた中で、色んなことが走馬灯のように思い出されました。ダート競馬の全国的な体系の大改革を来年に控え、日本のダート競馬が世界の頂点に立った2023年3月25日(現地時間)。忘れ得ぬ長い夜になりました。
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。