競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。今回のテーマは「サムライたちのアラビアンナイト」です。
今年のドバイワールドカップデー。7競走に中央・地方あわせて22頭が参戦した日本調教馬は「金1、銀4、銅3」という結果でした。
UAEダービーはフォーエバーヤングが快勝。2022年のクラウンプライド、去年のデルマソトガケに続き、日本勢は3連覇となりました。サウジでは「アタマ差」だった2着馬との差は、ドバイでは「2馬身差」。無傷の連勝を「5」に伸ばし、ケンタッキーダービー出走を「確定」させました。
矢作芳人調教師はレース後、大井競馬の調教師だった父・和人さんが直前に90歳で亡くなったことを明らかにしました。中東での連戦を経て、アメリカへの輸送とコンディショニング。そして、チャーチルダウンズでは、フロリダダービーを持ったまま13馬身差でぶっちぎったフィアースネスら本場の強豪が待ち構えています。
これまでにない難しいミッションになるのは間違いありませんが、世界を代表する名トレーナーとなった自身の父であり師匠であった和人さんが、今度はアメリカの空から力強いエールを送ってくれることでしょう。
中央・地方あわせて4頭が出走したドバイゴールデンシャヒーン。直線でイグナイターが外に斜行したことで有力馬を含めた数頭が不利を被ったのは残念でしたが、ドンフランキーがこのレース日本勢4回目となる「2着」に入りました。
クリスチャン・デムーロ騎手に導かれた600kg近い巨漢馬は、果敢にハナを奪うなど、そのスピード能力が世界に通用することを証明してみせました。国産高速重戦車ドンフランキーの今後から目が離せません。
ドバイターフは、このところはマイル戦を使われていたナミュールが直線で大外から強襲するも、わずかに及ばず2着。決勝写真を見ると、勝ったフランス調教馬の方がはるかに体が大きく、その分だけ届かなかった感じでした。キョウエイマーチの血はやはり世界の舞台で強いです。
去年2着だったダノンベルーガは3着。スタートが決まらず、終始厳しいレース運びだったドウデュースは5着に終わり、4連覇に挑んだロードノースは8着でした。
一方、中山記念の勝ち馬マテンロウスカイは果敢に逃げるも15着。27年ぶりとなるドバイ国際競走での騎乗となった横山典弘騎手はレース後、『(競馬学校の同期・松永幹夫調教師と)とても楽しい時間を過ごせた』とコメントしました。きっとホクトベガもドバイの空から笑顔で聞いていたのではないでしょうか。
そして、このレースではクリストフ・ルメール騎手が騎乗したアメリカ調教馬のキャットニップが最後の直線で落馬・競走中止となるアクシデントがありました。ルメール騎手が乗る予定だったシーマクラシックのスターズオンアースと、ワールドカップのデルマソトガケは騎手変更に。
ルメール騎手は肋骨と鎖骨の骨折、さらに肺に穴があいているということで、UAEにとどまり入院中とのことです。日本でのクラシックシーズンを前に、影響大の事故となってしまいました。ルメール騎手の早期の回復を祈っています。
ドバイシーマクラシックはレベルスロマンスが優勝。このレース、ゴドルフィンは5年ぶり7勝目となりました。
一方、2着に入ったのは一昨年の優勝馬シャフリヤール。同じサンデーレーシングのリバティアイランド(3着)や、同じディープインパクト産駒の2頭オーギュストロダン(最下位12着)とジャスティンパレス(4着)よりも人気では下回りながら、藤原英昭調教師に『感動した』と言わせる走りを見せてくれました。
その馬名は、母・ドバイマジェスティから連想し、「アラビアンナイト(千夜一夜物語)」に登場する王の名前に由来しているシャフリヤールにとって、ドバイの地は、“もう一つのホーム”なのかもしれません。
メインのドバイワールドカップは、これまで1600mまでしか走ってこなかったジャドモンド生産・所有の地元UAE調教馬ローレルリバーが、初距離の2000m戦で8馬身半差という圧巻の逃走劇を見せつけました。
ディフェンディングチャンピオンのウシュバテソーロは2着。彼らしい競馬を見せてくれたものの、『はるか先に勝ち馬がいた』(川田騎手)のですから仕方ありません。また、若武者・原優介と挑んだ“もう1頭のテソーロ”ウィルソンテソーロは4着、ドゥラエレーデが5着、急遽O・マーフィーが騎乗したデルマソトガケは6着に終わりました。
なお、ウシュバテソーロやデルマソトガケの陣営からは、早くも『秋はブリーダーズカップ』(11月・デルマー競馬場)という目標が明かされています。
5月4日のチャーチルダウンズ。11月2日のデルマー。この日の夜、競走馬のサムライたちが見せてくれた「アラビアンナイト」の次章の舞台は、アメリカ大陸です。