競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは「レジェンドの鞍と凱旋門賞」です。
中央競馬は1日で「夏競馬」が終了しました。
6/8から13週間(函館6週、札幌7週)続いた今年の北海道シリーズでは、武豊騎手がデビュー38年目にして初の札幌&北海道リーディングをダブルで獲得。12勝を挙げた函館こそ横山武史に1勝及ばなかったものの、札幌では17勝を挙げ2位以下を圧倒しました。
長らく夏は小倉を主戦場にしていた武豊騎手が札幌でフル参戦するようになって3年目。WASJではモレイラ騎手に次ぐ個人2位、アジア競馬会議ではルメール騎手とともに登壇するなど、55歳のレジェンドは北の大地で充実の夏をすごしました。
そんな武豊騎手が北海道滞在中の先月21日、北海道砂川市にある日本唯一の馬具メーカー「ソメスサドル」の本社工場を訪れました。
今年、1964年の創業から60周年を迎えたソメスサドル。記念の年に合わせて“最高の鞍”をつくり、1987年のデビュー時からソメス社製の馬具を愛用している武豊騎手に凱旋門賞で使ってもらおうと、ソメス社が武騎手に呼びかけ、2年かけて共同開発したのだそうです。
ソメス社のリクエストで本人の工場見学が実現したこの日、完成した鞍を受け取った武騎手は、骨組みに新しい素材を使って軽量化し、耐久性も強めたという記念モデルを手に「完璧」と話し、「鞍は命を預ける大事な道具。凱旋門賞で勝って、ソメスの鞍を掲げたい」と勝利を誓ったそうです。
『武豊騎手ソメスサドル訪問』という話を聞いて私が思い出したのが、武豊騎手にゲスト出演していただいた去年の凱旋門賞中継(グリーンチャンネル)でのやりとりでした。
エースインパクトで優勝したクリスチャン・デムーロ騎手が大映しになったときに武騎手が、「日本製のグローブですね。日本で買ったやつ。鞍も日本のですよ。“日本の鞍”は凱旋門賞、まあまあ勝ってますよ」と教えてくださったのです。(23.10.5公開「レジェンドジョッキーの神解説」参照)
この時にクリスチャンが使用していたものこそ、ソメス社製の鞍やグローブでした。
国内競馬用の鞍のシェアは約80%を占めているという「ソメスサドル」。評判を聞いた海外の騎手が使うことも増え、クリスチャンや、故フィリップ・ミナリクさんから譲り受けたレネ・ピーヒュレク騎手の鞍もソメス社製でした。
つまり、クリスチャン・デムーロ騎手が優勝した2020年のソットサスと去年のエースインパクト、ピーヒュレク騎手が優勝した2021年のトルカータータッソと、凱旋門賞は最近4回のうち3回までもが、日本の「ソメスサドル」の鞍を使用して優勝しているのです。
既に札幌開催中から新しい鞍に跨っているという武豊騎手。3日にはサンライズジパングで盛岡の不来方賞(JpnII)を制し、地方のダートグレード競走で今年6勝目を挙げるなど、遠征での勝負強さはさすがの一言です。
1ヶ月後の凱旋門賞には、松島正昭オーナーが共同所有し、先月11日のベルリン大賞を5馬身差で快勝し2つ目のGIタイトルを手にしたアルリファー(牡4/愛ジョセフ・オブライエン)とのコンビで挑む予定です。
充実の夏をすごし、新たな“最高の鞍”を手にした日本のレジェンドジョッキー武豊騎手が「憧れであり夢であり目標。本当にいつか勝ちたい」と話す凱旋門賞。自身11度目の挑戦で悲願を達成することができるのか。その日を楽しみに待ちたいと思います。