競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは「世界と日本のタイム計測、その違い」について。
競馬におけるワールドサーキットの舞台が日本に移り、世界の一流騎手や競走馬が続々と来日しています。
日曜日のマイルチャンピオンシップには、欧州で今年3つのマイルGIを制したチャリンが出走。
次週のジャパンカップには、ディープインパクト産駒の英国ダービー馬にしてGIを6勝しているオーギュストロダン、今年のキングジョージでブルーストッキング、レベルスロマンス、オーギュストロダンらを相手に完勝したゴリアット、去年のドイツダービー馬で今年のバーデン大賞を勝ったファンタスティックムーンという超豪華な欧州馬3頭が参戦します。
馬券ファンにとっては、そんな外国馬たちと迎え撃つ日本馬との比較が焦点になります。馬場適性については血統が判断材料になりますし、能力自体を比べるには走破タイムも参考にしたくなります。ただ、「外国のレースのタイムは参考にならない」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか。
例えば、マイルCSに出走するチャリンが前走で勝利したマイルGI・クイーンエリザベス2世Sの走破タイムは1:45.98。起伏の大きいアスコット競馬場の形状や重馬場(Soft)だったことを考えても、良馬場なら1分33秒前後で決着する日本のマイルGIでは考えられないタイムです。
一方、同じアスコットの舞台でチャリンが4走前に制した6月のクイーンアンSのタイムは1:38.04。この日の馬場は堅良(Good)だったのですが、それでも日本よりかなり遅い時計です。
ここで注意したいのが「1マイル=8ハロン」でも「=1600m」ではなく、「1マイル=8ハロン=約1609m」だということ。英国と日本では測量で用いる単位が違うので、そもそもタイムを同等に比較できません。
ならば、日本と同じ「メートル法」を採用しているフランスのレースで比較してみましょう。
チャリンが今年8月に勝利したジャックルマロワ賞のタイムは良馬場で1:33.98。時計だけで日本のGIと比較すると「勝つまでは難しいが上位は可能」というところでしょうか。
しかし、同じ「メートル法」のフランスとの比較も「補正」が必要です。それは「タイム計測開始の場所が違う」からです。
英国やフランスなど欧州では「ゲートが開いた瞬間」からタイム計測を開始しているのに対し、日本では「ゲートの5m先を先頭の馬が通過した瞬間」からタイム計測が開始されています。ですから、マイルCSのゲートは「16」のハロン棒の5m手前に設置され、各馬は5m助走したところからタイム計測が始まるのです。
日本の1600m戦は実際には1605mを走っていることになりますが、タイム自体は1600mのタイムです。ただし、ゲート後の助走分が入るかどうかは大きく、ゲートから計測する欧州は「1~1.5秒」遅くなると言われています。
チャリンのジャックルマロワ賞のタイム「1:33.98」から「1.5秒」を引くと…、「1:32.48」。去年のナミュールの優勝タイム「1:32.5」とほぼ同じになります。
と、ここで気づきます。海外のタイム表示はどこも「1:33.98」のように100分の1秒まで表示されているのに、なぜ日本の競馬は「1:32.5」のように10分の1秒までしか表示されないのか。
この件に関しては、少々長くなりましたので、またの機会に取り上げさせてください。