競馬キャスター・大澤幹朗氏がお届けする、知れば競馬の奥深さがより味わえる連載『競馬キャスター大澤幹朗のココだけのハナシ』。
今回のテーマは「“流浪の重賞”愛知杯」です。
日曜日、中京競馬場で「愛知杯(GIII)」が行われます。今回で62回目を数える愛知杯ですが、今年、その施行時期と条件が大きく変わりました。
「1月に芝2000m戦で行われる牝馬限定のハンデ重賞」というこれまでの愛知杯の条件は、新設の「小倉牝馬ステークス(GIII)」が引き継ぎ、1月25日に行われた第1回のレースはフェアエールングとシンティレーションの2頭が同着で初代の優勝馬になりました。
一方、2月に行われていた「京都牝馬ステークス(GIII)」に替わって愛知杯が「芝1400mのグレード別定戦」という条件となり、5月のGI・ヴィクトリアマイルにつながる牝馬重賞として3月に行われることになったのです。
(2024/12/26公開「保存版! 2025年度JRAの変更点&注意点」参照)
したがって、過去データは「愛知杯」ではなく「京都牝馬ステークス」の方が対象になりますが、近年の「京都牝馬ステークス」は時期が2月、舞台も京都もしくは阪神でしたので、実質、新設重賞と言ってもいいでしょう。
それにしても愛知杯は、その施行時期や条件が幾度も変更されてきた“流浪の重賞”です。
第1回の愛知杯が行われたのは中京競馬場の開設10周年にあたる1963年。先週取り上げた金鯱賞などよりも長い歴史を持ちます。中京競馬場の砂2000mを舞台とした3歳以上のハンデ戦として創設されましたが、施行時期は8月になったり12月になったり、また1968年は暴動騒ぎでレースが中止になるなど、創設当初から“流浪の重賞”でした。
中京競馬場に芝コースが完成した1970年からは芝2000m戦に変更。1972年には「父内国産馬限定競走」に指定されました。「父内国産馬限定競走」は、日本国内の血統の発展や生産の振興を目的としてJRAがとってきた内国産種牡馬(日本国内で生産された種牡馬)に対する優遇策のひとつで、父が内国産の種牡馬である競走馬(「マル父」)のみが出走できました。
他にもカブトヤマ記念(1974~2003年)や中日新聞杯(1981~2007年)が父内国産馬限定の重賞として行われましたが、内国産種牡馬の産駒の増加に伴い2007年に廃止されています。
グレード制が導入された1984年に愛知杯は「GIII」に格付けされ、また施行時期は長く12月に定着していましたが、2000年から2005年までは6月に行われました。
競走条件の大きな転換点は2004年。「3歳以上牝馬限定戦」に変更されました。
施行時期は2006年から2014年までの9年間は再び12月に戻りましたが、2016年からは1月施行となり、21世紀に入っても流浪を繰り返しました。
そして今年。施行時期や出走条件の度重なる変更の中、「2000mのハンデ戦」という条件は60年以上変わらなかった愛知杯は、ついに「1400mの別定戦」に生まれ変わるのです。
ところで、愛知杯以外の“流浪の重賞”といえば「チャレンジカップ」と「鳴尾記念」が挙げられるでしょう。
両レースは今年、ともに14年ぶりに施行時期や条件が変更になります。チャレンジカップは12月→9月になり、「別定」→「ハンデ」になります。一方、鳴尾記念は6月→12月に変更になります。
ベテランであればあるほど混乱すること間違いなしですので、周知を促すためにも、それぞれのレース当週には“流浪の重賞シリーズ”として当コラムで取り上げようかとも思っています(笑)。