ダート三冠創設3年目の1998年。ウイングアローによる初の三冠制覇なるかというムードが高まる中、3冠目のダービーグランプリは、あろうことかレース当日の大雪により中止。仕切り直しのレースは3週間後の12月14日、盛岡から同じ岩手の水沢競馬場に舞台を替えて行われることになりました。
栗東トレーニングセンターのある滋賀県から岩手県という長距離輸送を1ヵ月間で2度もこなさなければならなくなったウイングアロー。JRAからの出走馬はいずれも関西馬だったため、他の中央馬と条件は一緒でしたが、この年の1月にデビューしてから丸1年、今回が13戦目だったウイングアローにとってタフな条件となったのは明らかでした。加えて日程の変更により主戦の南井克巳騎手が騎乗できなくなり、仕切り直しのレースには武豊騎手が騎乗することに。南井騎手の芝・ダート双方での三冠制覇は幻となったのです。
1998年12月14日。曇天、不良馬場の水沢競馬場。15時20分、ダート三冠の3冠目、統一G1・ダービーグランプリのゲートが開きました。
レースは、11月末に準OPの花園Sを勝ち、ナナヨーウォリアーに替わってJRAから出走してきた2番人気のマイターン(橋本美純騎手)が逃げ、それを、当時統一G2だった東海菊花賞で2着していた3番人気のナリタホマレ(マイケル・ロバーツ騎手)と、1番人気のウイングアローが好位から追走する展開。
直線では粘るマイターンを、外からナリタホマレ、内からウイングアローが捕らえにかかりました。激しい追い比べの末、最後は勢いで勝ったナリタホマレが優勝。ウイングアローは3/4馬身差の2着に終わりました。
ナリタホマレに騎乗していた南アフリカ出身のマイケル・ロバーツ騎手は、ムトトやオペラハウスとのコンビでキングジョージ6世&クイーンエリザベスDSを2度制し、英国チャンピオンジョッキーにも輝いた世界的名手。日本でもランドでジャパンカップを優勝するなどして騎乗機会も増え、前日にはアドマイヤコジーンで朝日杯3歳ステークスを勝利し、史上初めて日本馬でJRAのGI競走を制した外国人騎手となったばかりでした。
レース日程の変更でナリタホマレの騎乗が急遽決まったロバーツ騎手でしたが、盛岡競馬場より直線距離が約80m短い水沢競馬場のコースの特徴を計算した見事な騎乗でした。ウイングアローにとっては、直線の長い盛岡だったら、日程の変更が無ければ…という何とも不運な結果となり、「ダート三冠馬」の誕生はなりませんでした。
1999年、統一G1・ジャパンダートダービーの創設に伴い、スーパーダートダービーが改名され三冠から撤退したことで、「ダート三冠」は事実上消滅。「旧ダート三冠」における三冠馬は生まれませんでした。
ウイングアローは、翌年から調教師に転身した南井克巳厩舎が後を継いで管理しました。2000年にはフェブラリーステークスと第1回ジャパンカップダートを勝つなど、JRA賞最優秀ダートホースに2度選ばれ、2002年から2014年まで種牡馬生活を送った後、2019年に老衰でこの世を去りました。
今般の「3歳ダート三冠競走」創設の報を聞き、黒地に大金星のメンコが凛々しかったウイングアローの雄姿を思い出しました。
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。