今年は旧競馬法が制定されてから100年という“馬券100周年”の年です。その100年前には関東大震災も発生していて、当コラムでも「競馬法100周年」(6/1公開)や「関東大震災と競馬」(8/31公開)で、100年前=1923年の競馬について取り上げました。
▼参考記事
競馬法100周年/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
関東大震災と競馬/大澤幹朗の競馬中継ココだけのハナシ
ならば、その半分、今から50年前の競馬はどうだったのでしょうか。今回のテーマは「1973年の競馬」です。
1973(昭和48)年の競馬と言えば、何と言っても「ハイセイコー」です。前年の1972年7月に大井競馬でデビューしたハイセイコーは、無傷の6連勝で1973年1月に中央競馬に移籍。“地方競馬の怪物”と大きな話題を集め、中央初戦の弥生賞には中山競馬場に12万3000人の観衆が詰めかけたといいます。
初めての芝のレースもものともせず、弥生賞、スプリングSと移籍後も連勝を伸ばしたハイセイコーは、4月15日、1番人気に支持されたクラシック初戦の皐月賞も完勝。翌月、ダービーに向け初の東京コースとなったNHK杯は、デビュー以来最少着差のアタマ差ながら勝利し10連勝。少年漫画の表紙を飾るなど、社会現象はピークに達しました。
ダービーでは、単勝支持率66.6%という圧倒的な人気を集めたハイセイコーでしたが、タケホープの3着に敗れました。連勝がストップしたあとは惜敗が続き、翌年、宝塚記念をレコード勝ちするなどした後、地方・中央合わせて22戦13勝の生涯成績で引退しました。
中央移籍後の全レースに騎乗した増沢末夫騎手が歌い、引退後に発売された「さらばハイセイコー」は50万枚を売り上げるヒットとなるなど、「第1次競馬ブーム」を巻き起こしたハイセイコーは、50年前の競馬の象徴でした。
▲中山競馬場のハイセイコー像
ハイセイコーがデビューした大井競馬にとっても1973年は象徴的な年でした。3月、公営ギャンブルの廃止を選挙公約に掲げていた東京都の美濃部知事により、都が主催する大井競馬(都営競馬)が廃止され、東京23区で組織される特別区競馬組合のみの主催となりました。また、この年の10月16日、「大井の帝王」こと的場文男騎手がデビューを果たしています。
海の向こうアメリカでは、この年、25年ぶりの三冠馬が誕生しました。父は大種牡馬ボールドルーラー、母は後の名種牡馬サーゲイロードを出したサムシングロイヤルという血統の栗毛馬セクレタリアトは、1973年に行われた三冠レース全てをレコード勝ちするという離れ業を成し遂げました。中でも、3戦目のベルモントSは2着に31馬身差をつけるという信じられないような圧勝劇でした。
セクレタリアトが三冠レースで作ったレコードタイムは、50年経った今も全て破られていません。2010年には、セクレタリアトの女性馬主ヘレン・チェナリーをダイアン・レインが演じた映画「セクレタリアト/奇跡のサラブレッド」が公開されています。
1973年の世の中はというと、中東の産油国が原油価格を70%引き上げたことで世界経済が大混乱に陥った「第1次オイルショック」が起きた年でした。日本でも「紙が無くなるらしい」という噂が全国に広まり、トイレットペーパーの買い占めが起きるなどしました。
プロ野球では巨人軍がV9を達成し、大相撲では輪島が横綱昇進。歌謡界では、内山田洋とクールファイブの「そして、神戸」、かぐや姫の「神田川」、山本リンダの「狙いうち」、美川憲一の「さそり座の女」などがヒット。
そのほか、ボードゲーム「オセロ」誕生、NHKの本部が渋谷に移転、筑波大学開学、東急イン開業、ヨークセブン(セブンイレブンジャパン)設立、明治ブルガリアヨーグルト発売・・・と、そんな時代でした。そして9月22日。何を隠そう、私、大澤幹朗が生を受けたのであります。
というわけで、生まれた年のハナシに付き合わせてしまったのですが、「50年」という節目ですのでどうかお許しください。あらためて、1973年というのは、中央、地方、国内外の競馬シーンにとって転換点となるような重要な年だったのだなと思います。50年後の今も、こうして競馬のお仕事をさせていただいているのは、私にとって、生まれた時からの運命だったのかもしれません。
2023/09/21 (木)
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大澤幹朗
1973年9月22日生まれ。千葉県出身。IBC岩手放送アナウンサー時代に岩手競馬のレース実況に携わり、メイセイオペラら名馬と出会う。2003年にフリー転身後、2006年よりグリーンチャンネル中央競馬中継キャスターに。2013年からは凱旋門賞など海外中継も担当。そのほか、WOWOWヨーロッパサッカー実況アナウンサーとしても活動中。